上 下
2,086 / 2,733
DIY、捌いて裁く

懇神会 その05

しおりを挟む


 神の酒ネクタルの副作用、人の身で飲み干した代償に耐えた後。
 懇神会が本格的に始まり、出し物なども行われていく。

 問題が起きたのは失名神話の出番が来る少し前、準備をしていた神の発言から。

「……ふむ、有りませんね」

「無い、とは何がでしょうか?」

「出し物の小道具に準備していた物です。忘れてきたか、あるいは……」

「隠されたか、でしょうか」

 舞台裏でそう呟くのは、演芸神様。
 宴会芸の女神ならぬ男神様は、持ってきたはずの小道具を探していた。

「代用はできないのでしょうか?」

「無論可能です……しかし、今の我々では少し難しいものも」

 神様は基本、司る分野に関する品なら自由に創造できる。
 しかし、より性能の高い物を作ろうとすればそれだけ負担も大きい。

 ギリシア神話や北欧神話であれば、その程度容易くこなすだろう。
 ……がしかし、失名神話の方々はまだまだその域には達していなかった。

「せめて、この場が我々の神域であれば、開始前に準備を終えられましたが……」

「あの、何かできることは?」

「……そうですね、では──これらを作ることはできますか?」

 指を額に着けられ、そこから流し込まれる精密なイメージ。
 脳の許容量を超えて何度か死に戻った後、レシピとして記されたそれらを確認。

「……これは、凄いですね。私の世界の手品師では、とてもできない」

「少し気分は悪くなるかもしれないが、私はこれでも神です。何より、私は手品の神でも宴会の神でもなく演芸の神──ほんの少し、できることには自信があるのですよ?」

「分かりました、これらの品は責任を以って早急に作り上げます。なのでほんの少し、時間をお願いします!」

「さすが、■■■様の御業を受け継ぐ者。ではその言葉、信じさせてもらいましょう」

 そう言って舞台に上がる演芸神様。
 さっそく舞台ではショーが始まり、複雑な小道具が無くてもできる芸で神々を楽しませている。

 俺はその間に、与えられた知識から次々と小道具を作り上げていく。
 ただの棒、小さな箱、そして扇──そう見える品々が出来上がった。

 今回は時間重視、かつ普段の俺では決して作ることができない物だったため:DIY:頼りでの製作である……今までで一、二を争う難易度だった気がする。

「演芸神様、これを!」

 俺が投げ渡せるほどに軽いそれらを受け取ると、演芸神様の芸はさらに派手さを増す。
 棒は雲を生み、箱は物を消し、扇は──凄いことを引き起こす。

「えー、アレどうやっているんだ……」

《解析不能。単なる権能では無く、技量による物もございます》

「達人芸……いや、達神芸か。うん、まさに神業だな」

 ショーは大盛り上がり、喝采を浴びながら演芸神様は舞台から降りるのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

処理中です...