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DIY、捌いて裁く

デバッグ作業

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 神様たちの宴に招かれた。
 前回はバトル系だったので、別の内容をと思いたいが……まあ、あるんだろうな。

 しかし、今の俺が気にするのはそれでは無かった。
 それを伝えに来た女神プログレス、彼女が言った一種のバグである。

「というわけで、デバッグ作業だな」

 俺はプログラミング技術をそこまで磨いていないので、内側から仕組みを覗くことはできない。

 世間一般のデバッグ作業がどういうものなのか、それが分からない俺だが……バカでも分かる簡単な方法ならば、俺でも分かる。

「さぁ、始めてくれ」

《畏まりました──全個体、起動します》

 アイスプルの荒野に並ぶ膨大な数の人形。
 その一体一体が、胸に秘めた宝石に異なる『プログレス』をインストールし、展開していく。

「総当たりだ、全部試せば一つは当たる。ハズレでも、異なる発見はあるかもしれないからな」

 ちょうど、探索イベントで似たようなやり方をしたからこそ分かったこと。
 ……うん、全部試せば100%正解を導き出せるであろう。

「けど、こういう検証は『SEBAS』が何度もやっているはずなんだよな」

《完璧ではございません。それゆえに、旦那様の世界でもバグは存在しております》

「……ああ、ルリなんかがよく見つけていたからなぁ。たぶん、聞いたらそれっぽいヒントを教えてくれそうだな……いちおう、確かめてみるか」

 休人システムの一つ、[メール]。
 物理の壁を越え、あらゆる場所へ連絡を届けることができる便利な機能。

 本来ならばその顔を、その声を聞きたいと[ウィスパー]システムを使いたいが……お仕事中だろうし、彼女の親衛隊から控えるようにある時言われてしまった。

 まあ、現実世界で顔をいつでも会わせることができるのだ……どうしても、と禁断症状に襲われるまでは、俺から使うことは無いつもりだ。

 そんなこんなで、文面で現状を説明。
 何か無いかと送信……数分もしない間に、返信が届いた。

 人形たちによる検証では、分からないこともいくつかある。
 ルリの感性(もとい神運)は、果たして高性能AIを凌駕するのだろうか?

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ──結論:速攻でわからせられた。

《……………………。さすがは奥様です》

「いやはや、まさか一発とは。ルリの運、本当に万能過ぎやしないか?」

 本人のモチベーションさえ保てれば、彼女が望む形に世界の方が動いてくれる。
 要するに、彼女が白と言えばカラスだろうとブラックホールだろうと白くなるのだ。

 この結果には、さすがの『SEBAS』も驚いている。
 普段はまったく別の事をしでか……やっているので、分野的に被らないからな。

 だが今回、自身が担当しているはずの解析で見せつけられた結果。
 ……俺はこういう時、誰にでも同じアドバイスをしている。

「『SEBAS』。不可能は無い、ただそれだけだ。ルリはただ、俺たちが頼んだからそれに応えてくれた。時間さえ掛ければ、誰でもできたことだ」

 そう、先ほどとは真逆の例えを出すが、いかに彼女とて無いものを有ることにはできない……小数点以下の、奇跡と呼ぶべきモノを一発で引き出すことはできるけども。

 当たりくじの例えがちょうどいい。
 さすがにハズレしか無いのに、当たりを出すことはできない──ルリの場合、何らかの偶然が、当たりを混入させているだけだ。

 ありえない、しかしありえるかもしれないが現実になるのがルリの運の力。
 絶対に無い、そう言い切れるものならばいかにルリとて何もできないのだ。

「ただまあ、今回はプログレスの言い方が少し悪かったな。検証、できなくは無いが外部に委託する必要があった──この現象、どう見るか」

 ルリのヒント、そしてプログレスの証言を基に試してみたある種の組み合わせ。
 それは本来、個人が『プログレス』を運用するよりも遥かな成果を出していた。

「なるほどな、シンクロによる能力の相乗効果か……精神的な部分もあるから、借り物を使っている人形や俺たちじゃダメだったというわけだな」

 なお、ルリのヒントは『ハート』だった。
 たった一言、しかし『SEBAS』が気づきを得るには充分な言葉だった模様。

 ──こうした経験が、『SEBAS』をさらに成長させていくのだ。

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