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DIY、刺客に抗う
アンヤク(09)
しおりを挟む武闘世界
その男は帰ってきた。
背中の翼をはためかせ──大変不服そうな顔を浮かべて。
「おー、戻っておったか」
「──ジーヂー老」
「『飛武』殿、して彼はどうじゃったか?」
彼を迎え入れたのは、一人の老人だった。
周囲に人影は無く、遠くで武を競い合う音が響くのみ。
それは本来、武闘世界においてあり得ない事態だ。
だがそれを──この場に居る者すべてを制圧し、老人はそれを可能にした。
「『生者』……貴殿の申した通り、なかなかに飄々とした者でした」
「ふむ、相変わらず息災だったようで……いや、あやつはたしか死んでいるんじゃった」
「ジーヂー老……いや、『老師』よ。ヤツは危険です。すでに禁忌を犯していました」
「禁忌? ほぅ、そのような決まりがあったとは初耳じゃな。しかしまあ、あやつは武人ではあるまいて。儂らの矜持に付き合う必要など無いのじゃろう?」
ジーヂー、彼は武闘世界において初の休人でありながら『極逸』に選ばれた存在。
全世界において、三番目に星の権能を与えられた休人になっていた。
だが、そんな彼は今回の騒動に加担せず座して見ているのみ。
──正しく称するのであれば、『極逸』では無いのだから。
「──貴方が力を振るうのであれば、彼を討つことはできたのでは?」
それは唐突に現れた。
否、まるで最初からそこに居たかの如く、それはジーヂーに問いかける。
この場に居たもう一人、『飛武』は──その姿を見て、慌てて翼を折り畳み地に足を付けた。
「っ……」
「ふぉっふぉ、ただの老人に何を言っておるのやら。儂はただ、己の鍛え上げた武を後世に伝えたいのみ。むしろ、あやつには長く生き延びて弟子たちの修行相手になってもらわねばならん」
「そうですか……『プログレス』、アレを使うことも止めないのですね?」
「お前さんのソレは、儂には不要じゃ。儂自身が力を得るよりも、継承できる武を広めていく……故にこの力が儂には宿ったのじゃ」
交流試合を経て、ジーヂーは多くの武技を『プログレス』によって生み出した。
その力、そしてその行いによって星は彼を『老師』と定める。
だが、権能そのものは受け取らなかった。
本来、『プログレス』は権能を授かれない者たちが手にするモノ──両者を同時に有する例外はただ一つのみ。
「すまんのぅ、せめて武技の一つでも編み出せれば良いのじゃが……いかんせん、あやつに対する『あいであ』はまだ浮かばん」
「構いません。ですが、必ず編み出してもらいます。それこそが、現状を維持する条件なのですから」
「……ふぉっふぉ、分かっておるよ。任せておれ──星の管理者殿」
「…………『伝道師』、そう呼ぶように言っておいたはずですが?」
自らを『伝道師』と名乗るソレは、彼らが瞬きをした途端姿を消す。
そして、再びこの場にも武を競い合う音が響き合うのだった。
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