虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
1,805 / 2,820
DIY、家族と戦う

第二回家族イベント前篇 その20

しおりを挟む
「わたくしが、わたくしが一番好きなのは……」
「一番好きなのは?」

 マリアンはやっぱり口をつぐんでしまった。

「いないんですか?」
「そ、そんなことないわ! みなさん個性豊かで、整ったお顔立ちをしていて、とっても魅力的だと思います……」

 でも、とマリアンはぎゅっと自分の手を握りしめた。

「現実はどの方も物語ゲームの姿とは違っていた……わたくしのことなどまるで眼中になくて、優しくしようとしても、余計なお節介だと跳ね返されて……」

 たしかに彼らのマリアンに対する反応は酷いものだった。いくら気に入らない相手だろうが、表面上はそれを出さず、どこまでも紳士的に振る舞うのが、貴族としてのあるべき姿ではないだろうか。

「わたくしはどうして彼らに愛されなかったのでしょうか……」

 落ち込むマリアンに、リディアは優しい声で慰めた。

「まだ恋は始まってもいないんですから、そんなに悲しまないで下さい」
「でも……」
「わたしが思うに……たぶんマリアン様は彼ら全員と仲良くなろうとして、それでマリアン様が知っていた夢? の内容と違ってきたんじゃないでしょうか」

 あれだけ癖の強い彼らだ。夢の中では相当の時間と気力を要してようやく心を開いてくれたに違いない。一対一でじっくりと向かい合わなければ、マリアンが言ったような彼らにはならないだろう。

 マリアンが見た夢と、実際に彼らが違ったのは、彼女が運命の相手を一人に絞り切れなかったからではないか。

(師匠もあちこちフラフラしてるから女性に遊び相手って思われて、結局上手くいかないんだよな……)

 結局人は一人の人間しか相手にできないよう作られているものだ。何人も同時に愛するなんてよほど器用な人間でないと無理だろうし、できていると思っても、最後には破滅が待っているのではないか、とリディアは述べた。

「ではわたくしは……一体どうすればいいの?」

 マリアンが縋るようにリディアを見つめた。答えは決まっている。

「これからは対象を一人に絞って、アプローチしていけばいいと思いますよ」
「一人……」
「はい。マリアン様が今後人生を一緒に歩みたいって思う人は誰ですか?」
「人生を一緒に……」

 しばし沈黙した後、マリアンはぽつりと言った。

「……いませんわ」
「いないんですか?」
「ええ。物語の彼らはとっても素敵で、マリアンは幸せそうだったけれど……いざ自分がこれからその道を歩むのだと思うと……正直嫌だと思う自分がいるんですの」

 本当はこんなこと思ってはいけないのに、というように彼女は眉を寄せた。

「わたくしには、やはり無理ですわ。愛するより、愛される方が、性に合っていますもの」
「マリアン様……」

 彼女の出した答えに、正直リディアはほっとしていた。

 セエレやロイドはともかく、グレンやメルヴィンを選んだりしたらマリアンが苦労するのは目に見えていた。いくら最後は結ばれるとしても、それまで彼女が辛い目にあったりするのは、なるべくならして欲しくなかった。

「マリアン様なら、最初からうんと愛してくれる優しい殿方が他にもいますよ」

 なんたって侯爵令嬢。お金持ちでかっこいい相手なんてこの学園にはたくさんいるだろう。

「今は学園生活を楽しんで、これからゆっくりとそうした相手を探していけばいいと思いますよ」
「リディアさん……」

 あれだけの騒動を起こしてまで彼らの心を手に入れようとしたマリアン。そんな彼女がやっぱり無理だ、やめたいと言っても、目の前の少女は受け入れ、肯定してくれた。次がありますよ、という優しい言葉まで添えてくれて。

 マリアンはリディアを潤んだ目で、じっと見つめた。

 そんな彼女に気づかず、リディアは笑顔で言った。

「さっ、もうそろそろ暗くなってしまいますし、帰りましょう。マリアン様はご自宅から通われて――」
「わたくし、あなたがいいわ」

 立ち上がったリディアの手をつかまえて、マリアンがそう言った。へ、とリディアは気の抜けた声で聞き返す。

「すみません、マリアン様。聞き間違いでしょうか。もう一度……」
「何度だって言いますわ。わたくしと一緒に、人生を歩んで欲しいんですの」

 一緒に。マリアンと。

「誰と、ですか」
「あなたですわ。リディアさん」

 言葉を失うリディアに、マリアンは立ち上がってぐっと距離を近づけてきた。

「新聞部の方たちに襲われそうになった時、あなたは身を挺してわたくしを庇ってくれた。今まで散々酷いことばかり言ったのに」
「いや、それは……」

 侯爵令嬢に何かあったら大問題になり、一緒にいたリディアにも責任が問われるのではないか、という自分の身を守る考えもあったからだ。まるっきり善意で助けたとは言えない。

 けれどマリアンはそんなことない! といわんばかりに熱く語った。

「今だってこうしてわたくしの話を頭がおかしいなどと言わず、真面目に聞いて下さった。お父様やお母様もメイドたちも、みんなわたくしが病でおかしくなったと涙を流したのに!」

(あ、わたし以外にも話したんだ……)

 そして何を言っているんだ、と変に思われたのか。その事実にちょっと安心する。

「こんなわたくしを理解して受け止めて下さる方は、これから先あなた以外に現れないと思うんです。女であろうが、関係ありませんわ。リディアさんとこれから先もずっと一緒にいたい。あなたが好きなんですもの」

「マリアン様……」

 なんて情熱的な告白だろう。マリアンらしく真っ直ぐで、愛にあふれた言葉だった。こんなふうに言われて、心が傾かない人間なんて――

「そんなのだめに決まってるだろ」

 自分が同性であることも忘れ、思わず承諾しかけたその時、ガサリと物音がした。びくっとマリアンと揃って振り返ると、茂みの中からこちらを鋭く睨んでいるグレン・グラシアの姿があった。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。 初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。 今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。 誤字脱字等あれば連絡をお願いします。 感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。 おもしろかっただけでも励みになります。 2021/6/27 無事に完結しました。 2021/9/10 後日談の追加開始 2022/2/18 後日談完結

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...