虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
1,733 / 2,831
DIY、今度は開く

VSチャイナ娘 その05

しおりを挟む


 乾いた音が木霊する。
 決闘を行うアンノウン(ツクル)とナヨ。
 舞台へ近づいたナヨの祖父、そしてかつてアンノウンに敗北したことのあるジーヂー。

 彼によって響いたそれは、彼の手から生み出された衝撃を意味する。
 呆然とする孫娘のナヨ、祖父の手は彼女を叩──こうとしていた。

「……むっ、結界か」

「傍まで近づくことは許しましたが、それ以上は許可していませんよ? 大変申し訳ありませんが、激励は物理的な叱咤を伴わない形でお願いします」

 しかし、それはシステムの理によって阻まれる。
 決闘中の二人を邪魔することが無いよう、結界が構築されていたからだ。

 歓声を聞くために音は通っていたが、物を投げられては困るので質量を持つ物が通らないようになっている。

 それが当人たちにとって意味のある行為であろうと、結界は設定通りに機能した。
 ジーヂーも無理だと判断したのか、大人しくその手を下げる。

「仕方あるまい……さて、ナヨよ」

「……お爺ちゃん」

「今はジーヂー、なんじゃろう? ナヨよ、はっきり言うぞ──奴には勝てん。それはお主が弱いからでも、奴が強いからでもない。そもそも、果たすべき目的が違うからじゃ」

 孫娘が誤った認識をしないよう、言葉を選びながら伝えていくジーヂー。
 その意味は観客にもすぐには伝わらず、だがそれゆえに関心を抱かれる。

 言葉は主催者によって拡声され、会場中に広がっていく。
 それを分かっていてなお、今伝えなければならないヒントを伝える。

「少し前より状況は確認しておったが、お主は嵌められたのじゃよ。この場も、賭けも、そして戦いすらも無意味。敵討ちも、すでに達しており、そして一生できぬことじゃ」

「……私たちが、プレイヤーだから?」

「そういうわけではない。お主がそれを達したという事実を前にしても、決して満たされぬからじゃよ。たとえばそうじゃな……お主は蚊を、いや目に見えない微生物を殺して満足感を得られるか?」

「どういうこと?」

 不思議そうに首を傾げるナヨ。
 ジーヂーは、その後方でただ笑みを浮かべているだけの男を見ながら、この決闘の無意味さを語る。

「勝負内容はこうじゃったな、最後までこの場に居た者が勝ち……先に退場した者が負けでも、『えいちぴー』が尽きた者でも無く。ナヨよ、それがどういう意味か分かるか?」

「……死んだら負けなんでしょ?」

「いや、違う。生き残った方が勝ち、そしてその過程を考慮しない……ということじゃ。つまりじゃ、この時点でお主は儂の仇を討っておるし、何度も何度も奴を殺しておる。目的は果たされているのじゃよ」

 そうジーヂーが言い終えた時、舞台の上で拍手が鳴り響くのだった。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

処理中です...