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DIY、守り攻める
愚かな賢者 後篇
しおりを挟む俺は“虚無”の術式が載ったスクロールを手に取り、それをチラつかせる。
時折そちらに視線が向かう『愚かな賢者』に対し、改めてこちらを主張を告げた。
「こちらの術式を提供する対価は、相応の術式の提供によってお願いしたいのです」
「むう……じゃが、スクロールなど持ち合わせておらんぞ」
「ご安心を。こちらに、提供していただける術式を籠めれば、自動的に保存されます」
「……なんじゃそれは? そんな代物、聞いたことも無いが……」
まあ、俺が生み出した代物だし。
名は『愚者の石』、三つに限定しているがあらゆる術式をその中に保存することができるという代物。
かつて『騎士王』が編んでくれた術式を保存していたが……そもそも、『愚者の石』は一つというわけでもないからな。
大量とは言えないが、複数個のストックはできている。
今回は[ストレージ]に入れていた未登録のヤツを、使わせるというわけだ。
「理屈はこの際置いておきましょう。三つ、その中に術式を刻むことができます」
「…………つまり、お主は“虚無”を一つだというのに、儂には三つも術式を寄越せと言うのか」
「時空を止め、何度も殺し、理不尽な理屈で脅しまで掛けてきた……むしろ、三つで済んだというべきではありませんか?」
「うぐ……未知の術式じゃ、やむを得んか。それで、どのような術式がご所望じゃ? これでも魔に関して誇りはあるからのう」
何とも今さらではあるが、そう語る姿に嘘は無いだろうと感じた。
しかし、三つの術式をどうしたものかと考えていると──回線が繋がる。
《……様。旦那様。どうやら回線が復帰したようです》
《『SEBAS』か。さっそくで悪いが、実はな──》
《承知しております。音声の情報はこちらでも確保できておりましたので。旦那様には、これから伝える事象を可能とする術式が、あるかどうかを尋ねていただきたいのです》
伝えられた情報の内二つは、たしかに必要だなぁと思えるものだった。
残り一つは……俺がそう思わなくても、今後必要になるのだろう。
そのことを疑うことは無い。
俺に内緒で使うことはあっても、俺に害を成すためには使わない……だからこそ、伝えられたままに術式を望んだ。
「……三つとも可能ではあるが、その程度の術式で本当に良いのか? いや、一つは充分に価値のあるモノじゃと思うが──」
「この身は特殊なモノですので、それに合わせて必要としていたモノなのです。どうか、そちらをお願いしたい」
「まあいいじゃろう。少し待て、すぐに済ませてやろう……分かっておるな?」
「ええ、完成した魔道具とこちらのスクロールを交換しましょう」
それ以降は特に何もなく、望み通りの術式が刻まれた『愚者の石』と“虚無”の術式が刻まれたスクロールを互いに渡す。
すぐに読み、悶えだす『愚かな賢者』。
どうやら満足いただけたようで……俺もこの取引をしてよかったよ。
「うむ、満足した。では、すぐに儂は研究をしなければならんのでな。また面白い術式があれば、いつでも連絡してこい」
「ええ、『騎士王』さんを経由してご連絡しますよ」
そうして『愚かな賢者』は、世界間の転移によってこの場を去った。
残されたのは俺と『騎士王』、ジト目で視られているな。
「……そのような術式を望んで」
「ちょうど良い機会でしたので」
「……私ではダメだったのか?」
「…………そういうわけではありませんが」
うん、『騎士王』はネーミングセンスがややアレだからな。
それに、今回の依頼はちょっと裏があり過ぎるので、頼りたくなかったのもある。
三つの術式、そのうちの一つは確実に禁忌に触れるものだったし。
それを扱える、そんな情報を世に広めるわけにはいかないからな。
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