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DIY、守り攻める
愚かな賢者 前篇
しおりを挟む──『愚かな賢者』。
改めてその情報を調べてみると、冒険世界だけでもかなりやらかしている。
王城爆破、遺跡破壊、宗教総本山襲撃……術式のためなら蛮行も厭わないようだ。
だがその反面、対価さえきちんと支払えばその術式を活かしてくれることもある。
死地の再生、完全な死者蘇生、ユニーク種の討伐……これまたかなり凄い。
まあ、後者よりも前者の案件の方が多いため、星への通行も制限されている。
だが今回、どうやってか制限中の今、俺から“虚無”の術式を奪いに来た。
「──以上が私の知り得る情報です」
「……お主、まだ何か隠しておるな?」
「いえ、私が知るのはこれですべてです」
教えたのは属性、性能、消費魔力など。
使ってみれば分かる簡単なことだけだ。
しかし、嘘は言っていない……俺が知っているのは、これだけである。
「嘘は吐いていない。じゃが、情報の在り処が別にあるようじゃな。ぅむうむ、ちと強引にやった方がよいかのぅ?」
「な、何を──!?」
「……むっ? これまた面妖な……じゃが甘いぞ、ほれっ」
いつの間にか俺の顔面を鷲掴みにしようとしたところで、結界に阻まれる。
だがそれもほんの数秒、『SEBAS』が仕込んだ【結界王】の結界を引き剥がした。
「安心せい、すぐ終わる──“記憶抽出”」
「あがっ──!」
脳が焼き切れるほどの強い出力が、強制的に送り込まれる。
本来の休人なら即緊急[ログアウト]、原人でも廃人になりかねん。
だが、俺は『生者』……というか極めて虚弱なスペックの持ち主。
そんな高出力のスキャンに耐え切れるわけもなく、あっさりと死ぬ。
「…………なんじゃ、これ」
「『愚かな賢者』よ。その男はな、この世界においてもっともか弱い存在だ。息を吹きかけられれば死に、声を掛けられれば死に、挙句の果てには日の光を浴びただけで死ぬ。その対策である結界を外せば当然だろう」
「な、なんと……! いったいどのような理屈があれば、そんなありえぬ生物を生かすことができるのだ!」
「さてな。それについては……当人から聞けばいいだろう」
会話をさせるために蘇生待機状態にしていたが、終わったのを確認して復活。
むくりと起き上がった俺の肩を掴……もうとして、俺の体は爆散する。
「なんでじゃぁあああああ!」
「…………もっと繊細に触れろ。何度も殺していれば、この空間とて星の目が届くぞ」
「ぐぬぬぬぬ……」
おそらく語るそれは、強制追放的な問題なのだろう。
死亡履歴から『愚かな賢者』の不法入国ならぬ入星がバレて、排除されると。
なお、俺を触ることなど何人たりとも本来はできない。
数字上の能力値は1だが、実際には小数点以下のレベルで低いからだ。
そして、強化魔法で能力値を底上げしようという考えも無駄である。
現在、『愚かな賢者』が試した通り……その魔力を受け入れられず四散するから。
「な、なぜじゃぁああああ!」
なお、さも当然のように“時空停止”に干渉して入ってきた『騎士王』に関しては、俺も『愚かな賢者』もいっさい突っ込まない。
……やりかねんし、アイツなら。
◆ □ ◆ □ ◆
もちろん、俺が意図的に体を補助すればどうとでもなる。
今回は、そういった対策をいっさいしていないからこその死にっぷりだ。
「ぜぇ、ぜえ……もう知らん!」
「ふぅ……では改めまして、私は『生者』と申します。ああ、可能であればお声も魔法であまり届かないようにしていただけますと助かります。そろそろ、蘇生時間にも猶予が掛かりそうですので」
「くっ……蘇生魔法も使えんとは。いったいどのようにして蘇っているんじゃ」
「神に与えられた権能ですので。自分にしか使えない、その代わりに突出した異才となっております」
結局、『愚かな賢者』は俺をどうにかするのを諦めた。
なので俺もこれまでの虚弱っぷりを緩め、普通に起き上がることに。
……まあ、自分でも理屈が通らないなぁとは思うが、こちらも諦めていただきたい。
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