虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
1,562 / 2,834
DIY、多世界と交流する(物理)

多世界バトル中篇 その25

しおりを挟む


 三回戦を終え、次は四回戦だと意気込んでいた俺に、一通の[メール]が届いた。

「……翌日への繰り越し、ねぇ。しかも、代わりにやってもらいたいことがあると」

《私としては、旦那様にも利がある話だと思いましたが……いかがでしょうか?》

 それは午後の部最後に行われる予定だった決勝戦を潰し、空いた時間でのパフォーマンスのような物だった。

 ただしそれは、バトル系ではなくクラフト系……つまり生産活動でのもの。
 敗者も混ざり、観客たちを楽しませてほしいという依頼である。

「うーん、まあいいんだけど。しかし、やるにしても何で参加すればいいんだか」

《どの生産技術を用いるのかは、参加者に委ねられております。旦那様がお好きな分野でも、あくまでその場に足りない分野でも構わないでしょう》

「そういう考えもあるか……俺の場合、どの生産技術が使えるのかと裏を掻くためにも使えそうなんだよな」

 そりゃあ特化した人はその分野しかできないだろうが、俺は:DIY:スキルの恩恵でどんな生産でも行うことができる。

 これまでに見せたのは鍛冶、錬金、裁縫などだが……実際に使ったのは、他にもいろんな技術である。

 使える技術を知れば知るほど、他はできないだろうと思い込む。
 ……実際、俺という例外を除いて、普通は全部というのは不可能に近いしな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 百人の参加者の内、半数である五十人。
 舞台やその近くで屋台を開き、主催者側に提供された素材でアイテムを加工する。

 なお、舞台に上がっているのはごく僅かで四隅に準決勝まで残った者が待機していた。
 つまり、俺と『学者』、そして俺の対戦相手とその敗者が作業をしている。

「──どっちも休人だよな……アレ。休人の中にも、だいぶ強い人が来ているわけだ」

 休人の利点は死んでも確実にやり直せること、そして[メニュー]派生のシステムだ。
 擬似的に『プログレス』がそれを再現している今だが、まだできないことも多い。

 能力値の手動割り振り、スキルポイントやそれに伴うスキル習得など……一番の違いはやはり、あらゆる事柄への適性である。

 原人では才能という問題で到達できない領域でも、休人であればとりあえず達人と呼ばれる域までは到達できてしまう。

 それ以上は休人でも、ほんの一握りしか無理なのだが……到達してしまえば、他の利点と相まってさらに強力な力となる。

「まっ、だからこそ最上位職業の自由民たちにも、この部門であれば勝てたわけだ。世の中、何があるか分からないな」

 ちなみに、舞台上で並んでいる数は彼らの方が多い。
 そういう部門だからであり、俺と『学者』がさして需要の無い部門だからでもある。

 まあ、『学者』の方には魔本や魔法のトークをしたい者が集まっているが……俺の方にはそれすらない。

「『何でも屋(他ができない分野限定)』、なんてやったのが不味かったかな?」

 どうやら他の人々が優秀だったようで……それとも、他の理由があるのかな?
 そんなわけで、俺は独り言を呟いても気にされない程度に暇なのであった。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

処理中です...