1,524 / 2,834
DIY、多世界と交流する(物理)
多世界バトル前篇 その17
しおりを挟むタイムリミットは一分を切った。
とはいえ、戦闘においてそれだけの時間があれば充分に戦い抜ける。
相手は暗器の扱いに長けた【暗殺王】。
しかもその肉体は、弱みを打ち消し人よりも優れた部分しか存在しない、物理攻撃を無効化できるスライムボディ。
俺が使う武器は、大会用の補正がまったく入らない武骨な短剣。
対する【暗殺王】が使うのは、【暗殺王】の『プログレス』──『リキッドナイフ』。
武器性能からして圧倒的に違う。
耐久度が無限ならどうにかなったかもしれないが、そこは普通に存在するため……たった今、短剣を斬られた。
「ですが、そう簡単に諦めるわけにはいかないのですよ」
「……自分に」
「まだ、間に合います──『刺殺の死剣』」
武器が失われても、すでに死んでいる以上『死天』で武器を作ればいい。
武器がロストする直前、己が心臓に刺した短剣──そこから新たな武器が生まれる。
武骨なのは変わらない。
だがそこに秘められたエネルギーは、異様なまでに禍々しい代物と化した。
効果はシンプル、刺せば死ぬ。
その恐ろしさは、【暗殺王】にも伝わったようで……時間さえ稼げば勝てると分かっているので、逃亡を図りだした。
「逃がしませんよ」
「……!」
「この剣は何度でも、何本でも増やすことができますよ?」
剣を体の一部に刺せば、それだけでその回数分の剣が生成される。
それらを『バトルラーニング』に委ね、投擲させれば……死の刃を降り注いでいく
「とまあ、こうなれば貴方の取るべき行動は一つだけ」
「……!」
「それでは──正々堂々、戦いましょうか」
反転し、俺の下へ迫る【暗殺王】。
やるべきことは無力化、つまり投擲ができないように腕を切断するといったところだ。
握り締めた『リキッドナイフ』が、少しずつ【暗殺王】の体内へ取り込まれていく。
名の示す通り、液状化することでそれを可能としているのだろう。
そして、内部ではおそらく【暗殺王】が仕込んだ何らかの成分を吸収している。
それを耐性貫通の効果と共に、武器化して腕を切除する……こんなところか。
「想定さえできれば、『バトルラーニング』に不可能などございません」
展開した無数の死剣を、【暗殺王】の体の至る所から飛び出す『リキッドナイフ』に当てて相殺していく。
向こうも向こうで、触れないように自身から『リキッドナイフ』を射出する部分ごと切り離している。
そうして短剣同士をぶつけ合い、互いの距離を詰めていく。
触れ合うほどの距離になったとき、互いの攻撃が掠り合う。
「くっ……」
「…………!」
「効かないならば何度でも、やらせていただきましょう──『激流の死水』」
「……!?」
だがそんな状況で、俺が生みだしたのは膨大な量の水。
水流に呑み込まれるように、体はそれに耐えられず動きが止まってしまう。
もちろん、【暗殺王】ともなればすぐに動くこともできるだろう。
しかし、今の俺はそれよりもほんの少しだけ動くことができた。
「──これなら通じますね」
剣を刺し込もうとすると、体から伸ばした『リキッドナイフ』で剣を弾く。
だが、俺はそれでも手を伸ばして体に触れる──その途端、【暗殺王】が硬直する。
「いい加護を貰いました……では、これにて終わりです」
水による拘束とは違い、加護──水飴熊から貰ったそれは水の粘度操作による拘束。
やはりまだ対策されていなかったようで、用意した剣は体を貫くのだった。
0
お気に入りに追加
648
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる