上 下
1,522 / 2,733
DIY、多世界と交流する(物理)

多世界バトル前篇 その15

しおりを挟む


 ノーネームを観察する。
 既知の気配を感じ取ったのだが、それより何より殺気に違和感を覚えた。

 俺を殺していないそれは、本来ありえないはずの気配遮断。
 無いからこそ有る、矛盾した気配が殺気を感じ取っていた。

「……お久しぶり、ですかね」

 ビクッとする、なんて露骨な反応はない。
 だからこそ、余計に確信が持てた……それほどまでに優秀な暗殺者はレアだし。

(【暗殺王】か……いやまあ、たしかに原人も参加できるから問題ないし、容姿を知られても中身は普段使いのものとは別にしているだろうから問題ないのか)

 参加理由は不明だが、わざわざ基礎縛りに出ているのには目的があるはず。
 ……俺の暗殺だとしたら、まあそれはそれで納得なのだが。

(称号『最大暗殺対象』の効果は、どんな些細な攻撃でも暗殺系職業に就いている奴から受けるなら致死攻撃になるというもの。控えに回していても効果は発揮するから、今回もまたそうなっているんだろうな)

 そりゃあ犯罪者がそれに関する[称号]を隠せたら、ロクなことにならないだろう。
 そのためか、控えに回しても効果は発揮されるモノは多い……だいたいデメリット系。

「ふぅ……お手柔らかに」

「…………」

 すでに対策はされているが、昔使っていた片栗粉戦法は使えない。
 アイテムの持ち込みは武器以外不可能なので、そもそも不可能なのだ。

 つまり、使えるのはほぼ自分の体のみ。
 だが、その体だって普人と【暗殺王】の種族──スライムでは優位性が全然違う。

 物理無効って、こういうときには最悪なほどに効果を発揮する。
 なんせ、物理無効を突破できる武技は高位のモノ……基礎だけじゃ不可能だ。

 そうなると魔法が有用だが……対策されているされていないに関わらず、俺は魔法をほぼ使うことができない。

 ──うん、何にも使えないというわけではないんだよ。

「では、開幕初撃──“極小火ミニマムファイア”!」

「っ……」

 俺は魔法が使えない、そう知っているからこそ驚く【暗殺王】。
 だが発動したことに驚いているだけで、反射的に弾かれた魔法はすぐに消える。

 飛んでいったそれは、小さな種火。
 生活魔法と呼ばれる汎用の魔法、それよりほんの少しだけ力のある魔法だった。

 それは【見習い魔法士】が得られる、職業能力に組み込まれた魔法。
 魔力消費が1で、失敗してもいい仕様にしているからか低威力。

 だからこそ、俺はそれを使う。
 当てる相手は【暗殺王】……ではなく、俺自身にだが。

「獲得、そして使用──『焦熱の死焔』」

「くっ……」

「切り札ですが、ここで敗北しては意味もありませんので。ええ、暗器での攻撃はどうぞご自由に。一段階、ギアを上げますので」

 ありとあらゆるモノを燃やせる炎。
 いかに【暗殺王】とて、それは避けなければならないが……回避中でも、ちゃっかり攻撃をしてきた。

 認識さえしていれば、膨大な量の戦闘データで的確に対処する『バトルラーニング』。
 それを生かすため、『生者』が内包する生と死の[称号]が感知能力を高めている。

 自分を殺し得る攻撃に限り、死の警鐘が鳴り響く。
 俺の場合はその範囲が広いため、あらゆる攻撃を認識できるようになるのだ。

 その結果、飛んでくる暗器すべてを識別して捌くことができている。
 このままいけば勝てるが……うん、まだ絶対何かあるぞ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...