上 下
1,390 / 2,752
DIY、お祭りを満喫する

聖獣祭前篇 その20

しおりを挟む


 陽が沈みかけ、夕焼けに照らされる森。
 聖獣祭の初日も間もなく終了なのだが……東の区画では絶叫が響く。

『あんま~! 口の中がジュエルスライムやないか~!』

「……ご期待に応えられたようで」

『いやいや、そんな堅くせんでもええで。兄さん、あんたは偉い! よくぞまあ、これを持ってきてくれた!』

 バンバンと背中を叩くのは熊だ。
 ただし、そのサイズは少々可愛らしく、まさかの木彫りサイズの熊と同じだった……なるほど、実物大だったのね。

 当然そんな彼(女)が森獣なのだが、種族名は『水飴熊マルトースベア』。
 姿形、好物から在り方に至るまで水と飴と水飴が関わっているレア過ぎる魔物だ。

『今は祭りの間やから、うち自身が行くことはできへんのよ。けど、だーれもアレのとこまで行かへんから、ずっとずっと……これを求めてたんよ!』

「な、なんというかその……良かったです」

『そうや! あんたはよくやった! 間違いなく、許可も加護も授けたるわ!』

 周囲の獣人族がオー! と盛り上がる。
 なかなかに策士だな……ここまで言っておけば、次から獣人たちが狙うのは水飴蜜になるに決まっていた。

 ジトーと水飴熊を見るが、そもそも熊の顔が何を示しているのかさっぱりである。
 ただまあ、計算通りとニマニマしているように思えた。

『うちの加護は、水の粘度をほんの少しだけ変えることができるで』

「粘度を……それは粘度自体を? それとも時間自体が?」

『おっ、そこに気づいてくれるとは。答えは両方や、少なくとも触れている部分、そこにしか効果は働かん。時間の方も、せいぜい数秒が限界やな』

「なるほど……それはなんとも」

 面白い加護の効果だ。
 これを武人や足の速いヤツが貰えば、擬似的に水面を走り抜けることだってできる。

 また、生産職や研究職のヤツが貰っても、それぞれの分野でいい働きをするはずだ。
 ──こちらは制限時間など気にせず、その粘度でできることをやれるからな。

『兄さんの許可は二つ、中央に行くまであと三つやな。明日も気張りや』

 話は終わり、と獣人たちもこの場から立ち去っていく。
 この後、また入り口でイベントがあるらしいからそちらに行くのだろう。

 ──ただ、俺はもう少しだけここにいる。

「ええ、そうさせていただきます……ところで森獣様。少し、ご商談がありまして……」

『ほぉう、聞かせてもらおうやないの』

「実はですね、先ほど献上したモノ以外にも回収はしておりまして……これを調理してみれば、より味が深まるのではないかと」

『! なんやて……せっかくや、もう少しここに居たらどうや?』

 なんて会話もあり、俺は森獣と陽が沈んでも商談を続けた。
 ……有意義な情報も集められたし、明日も頑張るとしますか。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

処理中です...