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DIY、目的探しの旅
ヘルヘイム その08
しおりを挟む第一段階として、光を放つ。
魚──『星黒輝魚』たちはその身に光を取り込むため、必ずその光源の下へ向かう。
「──『メタルスライム』起動」
その間に取りだすのは、膨大な量の流動液体金属。
かつて手に入れ、延々と複製を続けていた金属を空間の穴から体に流し込む。
それはうちのカエンが目覚めさせた、かなり特殊な『プログレス』。
名の通り、金属でできた粘液生命体と化す『プログレス』である。
「ダブってた分を、生かすために目覚めてくれたのかもな……ともあれ、これで防御力を確保できた」
スライム系の魔物は、生命力という概念が他の生物とは少し違う。
ダメージ計算ではなく、最終的にどれだけ体積が残っているかどうかだ。
そして『メタルスライム』を起動中、使用者は名前の通り金属粘体となる。
使用する金属の性質を引き継ぐため、その性能が高ければ高いほど効果を発揮可能。
「形状は弄れないけど、展開する部分を結界でコーティングすれば……ラバースーツみたいにできるな」
体に纏わせるかスライム状態になるか、それを選ぶことができる。
だが体に纏わせるモードで結界を包ませることで、自在に形を取り繕えた。
《旦那様》
「ああ、分かってる。というか、暗くなる視界ですぐに把握できた」
《いっさいの光源を使用できませんが……よろしいですか?》
「ああ。なんて言ったって、俺はいつだって『SEBAS』を信じているからな」
人間は闇の中に居ることに耐えられない。
火を燈し、明かりで照らし、自分たちの安寧を生みだす空間を構築することで、闇の恐怖から逃れてきた。
魚たちがもたらすのは、そんな闇よりも昏い暗黒の世界。
通常の精神性では、数分も持たずに発狂するだろう。
これまでは暗視を『SEBAS』の補助で行っていたが、機械の僅かな光すら気づくであろう魚と戦うために機能を止める。
つまり、何も見えない世界に晒されるわけだが……すべては『SEBAS』に委ねて、俺は目を瞑るだけでいい。
「さぁ、始めよう」
《……旦那様》
「たぶん、最高の結果にはならないと思う。そのときは、アレをやってくれ。無知は罪というが、世の中には知らなくていいことも知らない方がいいこともある……頼む」
《畏まりました》
武器は使わず、結界と金属を纏わせた拳を構えて魚たちの方を向く。
死亡レーダーが鳴るので、方角だけはなんとなく分かる。
いずれ俺が勝つ、それは『貧弱な武力』の絶対固定ダメージが約束した未来だ。
「来い、魚ど──」
台詞の途中、魚たちが完全に俺の視界から光を奪い去った。
ガムシャラに拳を振るい、硬い感触を覚える間もなく死んでいく。
……目を閉じて映る暗い世界は、瞼の裏の絞られた光量によるもの。
つまりは人の作った、光の中で生み出される擬似的な暗黒。
だからこそ、知らなかった。
真の暗黒とは……もっと──
◆ □ ◆ □ ◆
《──精神に急激な過負荷を確認。旦那様の意識を一時的に遮断、隔離。疑似神経をアバターに接続……成功》
《旦那様の活動停止、および命令の履行……条件の達成を確認》
《──『セバスチャン』を起動します》
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