虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
913 / 2,835
DIY、紡がれる関係性

迷宮イベント その17

しおりを挟む


 一日目から、数々の迷宮を突破していた俺ではあるが……本当に効率を極めて行動している休人なんかには勝つことができない。

 当然だ、俺はいちいち傭兵ギルドへ向かう手間がある。
 対して彼らは仲間同士で装備を変えるだけで、すぐに別の迷宮に向かっているのだ。

 俺みたいな特化型ではなく、柔軟に変化する状況へ対応できるのが本来の休人である。
 与えられた[メニュー]などの特権が、その優位性を如実に表していた。

「……はあ、このまま目を逸らしたかった」

 なぜそんなことを考えていたかと言えば、それは現実逃避でしかない。
 あれからすでに数日が経過し……残るはこの日、つまりは最終日となっていた。

 これまで通り、傭兵ギルドで知人を頼って迷宮を踏破しようと考えていた……そのはずだったのに、ついにこのときが訪れる。

「ああ、楽しみだな『生者』! 私の力、その一端を見せてやろう!」

「……他は?」

「他……とは?」

騎士おもりだよ、騎士おもり。他にいないのか?」

 まさに『御守り』にして『重り』。
 ダブルミーニングを掛けてしまうほど、俺の安寧に必要な彼らが……なぜか傭兵のリストから消えていた。

 代わりに記されていたのは、『騎士王』の文字……そして『強制』の二文字。
 それだけで、すべてを察した……嗚呼、この時が来たのかと。

 そして現れた『騎士王』。
 立場の問題からか、魔術で姿を取り繕ってはいたが……俺の鳴り止まない死亡レーダーからは逃れられない。

「で、どこに行くんだ? 俺としては、ここの『触れ合いの草原』がオススメだが……」

「なあ、『生者』よ。それはたしか、子供でも攻略できるという簡単な場所ではないか。私としては、この辺りを踏破してしまいたいのだが……」

「どれどれ……って、『逢魔の戦場』!? どんだけハイレベルな場所に俺を連れていこうとしているんだよ! いちおうでも傭兵だろう、もっと雇用主の言うことを聞け!」

「断る! それに、仮初の傭兵には契約などがいっさいないからな! ふっふっふ……この瞬間をどれほど待ち侘びていたか。よし、『生者』よ! 楽しい冒険の始まりだ!」

 抵抗する俺だが、そんなものあってないような足掻きでしかない。
 彼女こそが最強の『超越者』、万能にして全能の『騎士王』様なのだ。

 誰にも止められない。
 魔術でも使用したのか、俺を例の迷宮の入り口まで転移させると──そのまま中へ連れ込んでいく。

「ちょ、いったい何を……!?」

「私とて、『生者』に対する策を設けぬはずが無かろう。お前のことだ、すぐに暴くから先に言っておこう。それはお前の周囲ごと空間を凍結させることで、何もできないようにしてあるのだ」

「……クソッ、まだ対策していなかった」

「すぐにできなくなるが、今回だけなら問題なかろう……さて、楽しい楽しい迷宮の冒険が今始まるぞ」

 そう笑う『騎士王』に……俺はただ、ため息を吐くことしかできないのだった。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

処理中です...