794 / 2,811
DIY、流れて交わる
幽体の問題 その18
しおりを挟む「──というわけで、親玉を連れて来ましたよ。また、巻き込まれた者たちと戦犯は別で送り届けてあります……これで、依頼は達成ですね」
改めて【幽王】城内に入り、謁見する。
だが俺の言葉に意識を向けていないこの場の者たちは、俺のすぐ傍──四角い箱状の物に囚われた者を見ていた。
「クソぉ……出せ、とっとと出しやがれ!」
「この魔道具『蔽塞の小箱』は対象を箱の中に閉じ込めます。抗うことはできません、内部から攻撃を放つこともできませんので……このような搬送の仕方でも構いませんよ」
最後に男に向けて放った箱型のアイテムとは、これのことだったのだ。
耐久度が低ければ、すぐ破壊されてしまうのだが……そこは上手く加工済みである。
「本当に無力化できるなんて……ご苦労様」
「ハッ、ありがたきお言──」
「おい、クソガキ! まだ【幽王】の座に就いてやがったのか! とっとと降りてくれれば、最初からこんなことになることもなかったのによぉ!」
「……まだ、固執していたのね」
なんだか同情の目を向けている【幽王】。
そこには敵に向けるものではない、何かの想いが籠められているのかもしれない。
「お父様の代から支えてくれていた貴方が、いったいなぜこんなことをしたのかしら。未だにわたしには……貴方が力のためだけに、玉座を得ようとしたようには思えないの」
「うるせぇ! 俺は、俺のためだけにこれをやっただけだ!」
「そう……なら、わたしも【幽王】としての決断をしなければならないわね」
スッと片手を上げる【幽王】。
控えていた幽魔たちは武器を構え、箱にそれを突きつけ……ようとして、箱が持つ防御機構によって弾かれた。
「『生者』、これが再び開くのは?」
「さぁ、分かりません」
「……ハッ?」
「解除方法はシンプル、中の者が自ら望んで死ぬことのみ。それ以外の方法はまだ試したことがございません。ああ、外部からの干渉は通用しませんので。餓死か自殺するのを待つしかありませんね」
嘘ではない、だが本当でも無い。
その気になれば開けることはできるだろうし、殺すのもそれなりに手間は掛かるがすぐに実行できる。
それを行わないのは──【幽王】がそれを望んでいないからだ。
「どうでしょうか、しばらくの間は幽閉しておくということで。この箱からの脱出は決してできません、それはこの私『生者』が名に誓いましょう」
「……そう。今回わたしの意思が通ったのはあなたのお蔭。なら、その意見を取り入れることにしましょう──約束は果たすわ。詳細はまた後日に。今はまた……やるべきことができたわ」
そう言って、【幽王】はこの場から去っていった。
小さく、声に出さないように……口を動かしてから。
『──ありがとう、助けてくれて』
11
お気に入りに追加
646
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる