虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
764 / 2,812
DIY、流れて交わる

魔術の可能性 後篇

しおりを挟む


「それでこれがその成果とやらか……」

「ルーン文字を刻めるようにするには、俺もそう思っていたんだがな。残念なことに、目的の品は作れなかった」

「だが、これは──」

「ああ、もっといいのが作れた。これがあれば、いいことができるんじゃないか?」

 くすんだ赤色の石ころを、『騎士王』に放り投げる。
 それを丁寧に受け取った彼女は、それを凝視し始めた。

「──賢者の石、まさか本当に生みだせる物がいるとは。『錬金王』ですら、まだ届いていない領域であるというのに」

「いや、ちょっと違う。それは俺の命名だが『愚者の石』、つまり模造品でしかない」

「これが模造品だと……信じられん」

「前に訊いた話だが、『賢者の石』は錬金以外にも精通してないと錬成できないみたいだな。だから『錬金王』も、協力者が足りなくて作らなかった・・・・・・

 うん、居ればやっていたらしいけど。
 今は娘にして現『錬金王』であるユリルも居るので、条件もだいぶ緩和した感じで生みだせるらしいな。

「魔力を通せば分かると思うが、その石の劣化している部分は魔術と魔法に関する能力に特化している点だ。何か刻んでみてくれ」

「やってみよう……ふんっ」

 膨大な魔力、それしか認識することができない異質な量だった。

 唐突に放たれたその奔流……から漏れだした残滓を浴びただけで、俺の肉体はそれに適合できずに死んでしまう。

「……いったい、何を籠めたんだよ」

「なに、ちょっとした防御魔術だ。多めに魔力を注いだ分、設定できる事象を増やせただけのこと……しかし、まさかそれをすべて受けきるだけの容量があるのだな」

「分かってもいないのに、過剰量を注ぐな。けど、防御魔術? ──魔術名が分からないから、そっちで使ってみてくれ」

「ふっ、そうか見ておくがいい。これが私の編みだした防御術式だ!」

 魔力が愚者の石に刻まれた回路を通じて巡り、そして起動する。
 最後に『騎士王』が術式名を言うことで、それが完成するのだが──

「“パーフェクトエーテルシールド”!」

「……へっ?」

 なんとも耳に入れたくもない、というか顔から火が出そうなほど恥ずかしい単語が、彼の最強たる『騎士王』の口から放たれた。

「どうだ、見たか『生者』!」

「いや、なんだよその名前」

「……パーフェクトエーテルシールドのことか? ふふんっ、この魔術は見ての通り多次元に干渉することで──」

 ありがたい解説のお時間のようだが、そちらは『SEBAS』に任せておこう。
 俺は自分の中で渦巻く衝動を、ただひたすら抑えこむ。

 ──ダサい、ダサすぎる……『騎士王』、ネーミングセンスが無さすぎる!

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

処理中です...