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DIY、流れて交わる
魔術の可能性 後篇
しおりを挟む「それでこれがその成果とやらか……」
「ルーン文字を刻めるようにするには、俺もそう思っていたんだがな。残念なことに、目的の品は作れなかった」
「だが、これは──」
「ああ、もっといいのが作れた。これがあれば、いいことができるんじゃないか?」
くすんだ赤色の石ころを、『騎士王』に放り投げる。
それを丁寧に受け取った彼女は、それを凝視し始めた。
「──賢者の石、まさか本当に生みだせる物がいるとは。『錬金王』ですら、まだ届いていない領域であるというのに」
「いや、ちょっと違う。それは俺の命名だが『愚者の石』、つまり模造品でしかない」
「これが模造品だと……信じられん」
「前に訊いた話だが、『賢者の石』は錬金以外にも精通してないと錬成できないみたいだな。だから『錬金王』も、協力者が足りなくて作らなかった」
うん、居ればやっていたらしいけど。
今は娘にして現『錬金王』であるユリルも居るので、条件もだいぶ緩和した感じで生みだせるらしいな。
「魔力を通せば分かると思うが、その石の劣化している部分は魔術と魔法に関する能力に特化している点だ。何か刻んでみてくれ」
「やってみよう……ふんっ」
膨大な魔力、それしか認識することができない異質な量だった。
唐突に放たれたその奔流……から漏れだした残滓を浴びただけで、俺の肉体はそれに適合できずに死んでしまう。
「……いったい、何を籠めたんだよ」
「なに、ちょっとした防御魔術だ。多めに魔力を注いだ分、設定できる事象を増やせただけのこと……しかし、まさかそれをすべて受けきるだけの容量があるのだな」
「分かってもいないのに、過剰量を注ぐな。けど、防御魔術? ──魔術名が分からないから、そっちで使ってみてくれ」
「ふっ、そうか見ておくがいい。これが私の編みだした防御術式だ!」
魔力が愚者の石に刻まれた回路を通じて巡り、そして起動する。
最後に『騎士王』が術式名を言うことで、それが完成するのだが──
「“パーフェクトエーテルシールド”!」
「……へっ?」
なんとも耳に入れたくもない、というか顔から火が出そうなほど恥ずかしい単語が、彼の最強たる『騎士王』の口から放たれた。
「どうだ、見たか『生者』!」
「いや、なんだよその名前」
「……パーフェクトエーテルシールドのことか? ふふんっ、この魔術は見ての通り多次元に干渉することで──」
ありがたい解説のお時間のようだが、そちらは『SEBAS』に任せておこう。
俺は自分の中で渦巻く衝動を、ただひたすら抑えこむ。
──ダサい、ダサすぎる……『騎士王』、ネーミングセンスが無さすぎる!
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