虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
478 / 2,831
DIY、地平線を拝む

野生児 その15

しおりを挟む


「これ、なんでしょう?」

「……手袋か?」

「ええ、その通りですよ」

 何の変哲もない陳腐な手袋。
 ツクルはそれを取りだし、手に嵌める。
 ごくありふれた行動だが、【獣王】には何から裏があるように思えた。

 そしてそれは、ツクルの口から語られる。

「摸倣神器、というヤツです。神器の力を人工的に再現しようと、あの手この手で苦労した品ですよ」

「神器だと!?」

「そう、神器です」

 神が振るい、時折地上の者たちに授けるとされる……一種の力という概念。
 それそのものが神の力を宿し、所持神の権能を強く発揮する入れ物とも呼べしモノ。

 ──それこそが神器、すなわち神の威を魅せし器なのであった。

「もちろん偽物です。とある神器を参考に、私自身が生みだした品なだけです。ただ、似た能力は再現できますよ?」

 そう言って、握られた拳。
 強くも大きくもない、弱々しい拳……そして何より距離があった。
 だがそれでも、【獣王】の脳内でナニカが警鐘を鳴らす。

 地面を蹴って場所を変えると、ついさっきまで居た場所に異様な圧がかかった。
 一方に吹く風のようなものではなく、周りから追い囲むようにしてかかるものだ。

「ご理解いただけましたか?」

「……離れた場所に手が届くのか」

「ご明察。そしてそれは、こういった組み合わせで用います──『拳王』」

 ある『超越者』の名を告げた途端、ツクルの動きは如実に変化する。
 やったこともないスポーツに挑む保育園児から、超一流のアスリートへ……。

「行きますよ──疾ッ!」

 軽めのジャブ、『拳王』であれば牽制にすら使わない非力な一発。
 だが彼の動きになぞられたソレは、他者からすれば回避不能な音速の一撃。

「甘い!」

 それを素の動体視力と聴覚だけで把握し、姿勢を屈めることで回避した【獣王】。
 下げた頭の少し上辺りを通過した風にニヤリと笑みを浮かべ、姿勢を走りやすいものにして全力で地面を蹴る。

「ワン、ツー」

「ほっ、はっ!」

 躱して避けて、回って跳ねて……相殺以外のすべてを用い、【獣王】はツクルの攻撃から逃れていく。
 戦闘狂と称された【獣王】だったが、無作為に挑み敗北する結果を望むわけではない。

「“疾駆”!」

「おっと、危ないですね」

「チッ、外したか」

 自身の種族である兎耳族の脚力を最大限に生かし、縦ではなく横に飛ぶ。
 そのまま爪で首を一撃、といきたかったのだがそれは失敗する。

 突然体を動かすことなく、ツクルの立ち位置がズレたからだ。

転移・・か……」

「ええ、転位・・です」

 手袋を嵌めたまま拳を振るうツクル。
 避けていても仕方がない、【獣王】はそう思い拳圧と拳を交え始める。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

処理中です...