上 下
369 / 2,733
DIY、闇に潜む

暗躍街 その02

しおりを挟む


《旦那様……その、大変申し上げにくいのですが……》

「……ああ、なんとなく察していた」

 暗躍街を移動中、体を走る嫌な感覚。
 もちろん、死期を予感した体が反射行動をしているというのもあるのだが……尋常ではない量の発汗が答えを告げていた。

「何人だ?」

《分かっているだけで三名。異常な量のエネルギー保有者が五名ほど。こちらは解析を実行中です》

 そう、さすがアドベンチャーワールドの中でもかなり闇に近い場所。
 何人もの強者がこの街に根付き、その強大な存在感を放っているのだ。

「近づきたくはない、かな? ルート案内、回避優先で情報屋の下へ」

《畏まりました》

 無暗に近づき、ひどい目に遭うのはいつもの展開だ。
 可及的速やかにタクマと接触するため、今回はそういった面倒事はできるだけ避けておく必要がある。

 超高性能AIである『SEBAS』様にかかれば、安全にタクマの元へ辿り着くルートも見つけることが可能だ。
 抜かりはない、完璧なプランだろう。



 ──と、思っていたこともあった。
 それはすぐに否定され、この街の厳しさを知ることになる。

《では旦那様、最寄りの建物の屋根へ登ってください》

「? わ、分かった」

 指示通り、『擬似転移装置』を起動させて屋根の上に登った。
 視界が切り替わり、先ほどまで同じ位置に居た人々が足元に見える。

 まさに人が■■53のようだ。

「……っと、念のため『光学迷彩』も起動しておくか」

 薄らと膜のようなものが結界越しに俺を包み込み、光を屈折させて周囲の景色と同化させてくれた。
 これで俺が激しく暴れない限り、俺の存在に気づける者はかなり減る……百パーセントじゃないんだよな。

「それで、この後はどうする?」

《できるだけ屋根を伝っての移動を。互いに領域を定めているのか、気配をあえて感じさせているように思えます。ですので、旦那様にはそれがあまり行き届いていない屋根を伝い、目的地へ向かってもらいます》

「縄張り争いね……そりゃあ、似たような実力の持ち主が何人も居ればそうなるか」

 地球でも、そんな例は多々ある。
 動物だってマーキングなどで縄張りを意識するし、人間だって(ある意味)マーキングで自分の統べるものを周りにアピールしているんだし。

「ところで、どうして屋根の上まで注意を巡らせてないんだ?」

《互いに情報は集めたいでしょうし、釣りの要素が大きいのかと。目的地は気配を巡らせていない中立地帯。ここから向かうには、いくつか跨ぐ必要がございました》

「そっか、感謝する」

《執事ですので》

 結界に吸着性を付与して、屋根を渡り歩いてみる……うん、問題ないな。

 それじゃあ、目的地まで行ってみるか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

処理中です...