虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
323 / 2,831
DIY、大陸を渡る

陰陽師 その02

しおりを挟む


 はるか昔、貴族や将軍などに謁見した者たちは皆、こんな気分を味わったのだろうか。
 遠近法の問題か、『超越者』判別機はまだまだ遠くを指し示している。

(あ、圧倒的な圧迫感だな……)

 視界に入る光景は三つに分けられる。
 右に映る式神たち、左に映る式神たち。

 ──そして、中央に映る巫女っぽい少女。

 高校生ぐらいだろうか。
 純和風、黒髪ロングの少女がそこには鎮座している。
 巫女っぽい、であるのは恰好が十二単を改造した動きやすい恰好だったからだ。

「あら、お越しやす『生者』はん。ささっ、どうぞこちらへ」

 優しく告げられたその言葉、遠くにいるはずなのにはっきりと耳に入る。
 周りの式神たちは俺の挙動を逐一確認し、何かを確かめていた。

 ゆっくりと歩を進め、『陰陽師』と呼ばれる少女をじっくりと調べる……などといったことはしない。
 女性が男性を観察するのはまだしも、その逆パターンはどうにも犯罪臭がするよな。

「初めまして、『陰陽師』さん。今回はお招きいただき、誠にありがとうございます」

「気にしておくんなさいな。ウチとて理由もなく、あんさんをお呼びしたわけじゃないんです」

「そう……ですか。こちらとしても、一度は会ってみたいと思っていましたので。お会いできて光栄ですよ」

 無礼だとは分かっているが、俺はどっかりと胡坐を組んで座った。
 その瞬間膨大な殺気があらゆる所から向けられてくる……が、それらはすべて俺の糧となっていく。

「──実に『陰陽師』さん想いの方々みたいですね。たしか……式神、でしたっけ?」

「誠心誠意向き合えば、みんなウチ以上に働いてくれる子ばかりや。ただ、少しうちのことに過剰に反応するんやけど」

「……それは、頼もしいですね」

 式神の少女の一人に『陰陽師』が視線を配ると、すぐさま殺気は止む。
 偽装の意味もないので演技はせず、そのまま平然とした状態で話を続ける。

「単刀直入に言いますが、私に【魔王】をどうこうすることはできませんし……貴女自身それが、ただの名目であることもなんとなく理解できました」

「へえ……。なら、うちがウチさんを呼んだのは何のためやと?」

「さあ、分かりかねますよ。分からないことが分かった。『超越者』の皆さんと言葉を交わしていると、これが分かるだけでもだいぶ思考の幅が広がることを学びました」

「新人さんは大変や。ウチらも元はただの人やのに、そこまで深読みしてはるなんて」

 だが実際、凡人が喰らいつくためにはそれぐらいはやっておかないと足りない。

「私は『生者』の名を持つ者として、それなりにやっていきたいんですよ。もちろん、死ぬこともなく」

 それは矛盾した言葉だろう。
 だがそれでも、そう願いたかったんだ。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

処理中です...