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【強者の権利】面倒事対処 その05【最下の義務】

スレ88 料理はできて困らない

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 気配を感じ、意識が覚醒する。
 視覚よりも先に、気力と魔力による感知がその者が誰なのかを示す。

「──サーシャか、おはよう」

[おっは]

「いや、そんな挨拶初めてなんだが……」

[習った]

 まったく、誰がそんな適当なやり方を。
 いろいろと言いたいことはあるが、まずは凝り固まった体を解すことを優先する。

「なあ、サーシャ……うーん。キンギル、先生は、何をしてた?」

[監視]

「やっぱりバレるよな……うん、別にいいんだけどさ」

[全部はまだ]

 異世界人かその子孫、ぐらいの見解か。
 対抗戦に召喚した国の姫が居たし、情報はとっくに漏れている……彼らがどうなったのか、俺としても少しだけ気になるな。

「監視の監視、ご苦労様。契約っていろいろとズルいよな。互いに居場所が分かるんだから、そこから逆算すれば他にも誰か居るってすぐに分かるとこら辺とか」

[YES]

「いえ……まあ、いいや。悪かったな、こんなこと頼んで。本当だったら、アイツらと楽しくパジャマパーティーだったんだろ?」

[それはした。寝てから来た]

 サーシャに頼んでいたのは、キンギル先生が行う監視に対する監視だ。

 別にバレてもいいが、できるだけクラスメイトに怪しまれないように出てきてもらったのだが……普通にやってたのね。

「サーシャ、レベルはどうなった?」

[丸々盛り盛り]

「本当、羨ましいよ。どの世界に、主の経験値を根こそぎ掻っ攫う従者が居るんだか」

[ここ]

 俺が呪いで成長できない代わりに、どうやら俺の経験値はすべてサーシャのものになるということが発覚している。

 知恵者ハルカ曰く、俺の中で溜まることのない経験値が繋がりを通じてそちらサーシャへ行くらしい。

「俺にとってはレベルなんて悲しくなるからどうでもいいけど、サーシャは進化とか転職するために必要だしな。どんどん強くなって俺を守ってくれよ」

[り]

 どうやら“虚無偶像アバター”はしっかり使命を果たしてくれたようだ。
 辺りに散らばっていた素材はすべて回収されており、意識して確認した“虚無庫ストレージ”の中にはそれらが格納されていた。

「それじゃあ、帰りますか」

[り]

「あー、朝食なんだろうなー。できるなら、ちゃんと食べられるものがいいー」

[……]

 ちょ、ちょっと、なんで三点リーダなんて打っちゃうのかな?

  ◆   □   ◆   □   ◆

 なんだか久しぶりに戻ってきた気がする建物の中、そこにはすでに朝食を並べている学友たちが席に着いていた。

「おはよう」

「おいおい、アサマサ。初日から寝坊なんてどんだけワクワクしてたんだよ」

「悪い悪い、サーシャ様に起こしてもらうまでぐっすり寝れたんだよ。朝食の手伝いができなくて、悪かったな」

「気にしなくていいわよ、アサマサ。この馬鹿も料理なんてできないから、皿運びくらいしかしてなかったから」

 おい! とツッコむブラストとフェルのやり取りが続く。

 キンギル先生が予め、どういう風にクラスメイトに説明したのかを教えてくれていた。
 そのシナリオ通りに話を通せば、ご覧の通りいちおうは怪しまれずに済む。

 嘘は吐きたくなかったが、俺の言った台詞についてはいっさい嘘を吐いてはいない。
 実際、クタクタになっていたところをサーシャに起こしてもらったわけだし。

「──なぁ、お前もそう思うだろ!?」

「……ん? ああ。悪い悪い、まだ寝ぼけてたのか聞いてなかった」

「だから、男に料理なんて不要だろ! そういうのは、女に任せとけばいいんだ!」

「ああ、そういうことか。残念だが、俺は料理ができるぞ。サーシャ様に振る舞う料理は俺が作ることもあったし、そもそも冒険者だからな──それなりの腕前だと思うぞ」

 料理が旨い……いや、上手いヤツにしっかり習ったので、アイツらを喜ばせようとあれこれ工夫を凝らしたものだ。

 この世界に来てからは、理論しか聞いていなかった魔物料理を作るのに苦労したよ。

「マジか……お前、料理作れんのか!?」

「もう朝食はできてるし、夕食の時間にでもお見せするよ。下拵えの関係上、昼に作るのは無理そうだ」

 などと話をしていると、これまたナイスなタイミングでキンギル先生が現れる。

「ちょうどいいですね。では、アサマサ君。本日の晩御飯は君に任せましょう」

「分かりました。食材の方は、厨房にある物でどうにかします」

「できるなら、なるべく新鮮な物・・・・を使ってみてはくれないかな?」

「……了解しました。ですが、ある程度は認めてくださいね」

 この世界の人々は、異世界人が持ち込んだ常識によって昼飯を当たり前のように取る。

 だから昼食も当然あるんだが……料理に手間が掛かってしまうのもまた、習った相手よりも劣化してしまった部分だな。

「ところで先生、本日の予定は?」

「Xクラスにはまだ先輩が到着していませんので、今日は自由時間ですよ」

「ああ、クーフリ先輩か」

「そういえば……あの人、まだいないわね」

 そんなに軽くていいのだろうか、先輩の扱いって。
 まあ、自由時間というのならば……俺も料理に専念できるってことか。

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