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【強者の権利】面倒事対処 その05【最下の義務】

スレ76 待ち人現れず

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 予想した通り、次の階層には迷宮の核がポツンと置かれていた。

 奈落に叩き落された最初の迷宮、あそこも百層だったな……迷宮の核のサイズが同じくらいだったので、つい昔を思いだす。

「転送陣はこれか……写メ写メっと」

 スマホを向け、パシャリと写真を撮る。
 何があるか分からないし、予め撮っておけば何かしら使える可能性があるからな。

 そして、辺りを見渡し何か特別な仕掛けが無いかを探し……見つける。
 隠されたもう一つの転送陣、巧妙に隠されたそれは地面と同じ色で描かれていた。

「うわっ、性格最悪だな……」

 そちらも写真に写し、編集して線を描くように黒く塗り潰しを行う。
 やはり同じように転送する魔法陣だが、見比べて気づくことがあった。

「一枚目は帰還陣か、本当に意地悪い」

 つまり、乗ったら最後ふりだしに戻るってことだ。
 代わりに隠してある方は、極限まで魔力を抑えられた転送陣──目的地は、判明不可?

「なんだ、この座標……迷宮内のエラー空間なのか。つまり、『*いしのなかにいる*』のと同じ状態を偽装している?」

 まあ、できないことはないだろう。
 微粒子サイズの魔物でも用意し、それが通れる通路でも作れば可能だし。

「こっちの核も……ああ、ダミーか。ピッタリ百階層だったから疑ってなかったな」

 さて、いつまでもここで時間を潰していると本当に時間が過ぎてしまう。
 いちおう、遅れるという連絡はしておくとして……会いに行こうか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そこに居たのは影だった。
 いや、その表現は雑すぎるか。

「待ってましたよ、アサマサ師匠!」

「ああ、だいぶ時間がかかった……まさかいきなり戻されるなんてな」

「あれ、実は予想外だったんですよ。ここの罠は日ごとに変わるそうなんですが、ピッタリあそこになるのは奇跡的な確率だって教わりました」

「……それはそれで、腹が立つな」

 そこに置かれた九つの椅子。
 レイルを除く全員が、ノイズのような黒いナニカだった。

「あと、そっちの空席は?」

「一位と二位、それに三位と四位と六位と七位と八位の席ですね」

「つまり、ここを見ているのは五位だけ……少なすぎないか?」

「あはははっ、ぼくのときの空席は一位と二位だけだったんですけどね」

 うん、全員と言うのは言い過ぎだったか。
 ほぼ空っぽの席、影は一つだけである。

『きみがアサマサくんだね? お噂はかねがねギルドにも届いているよ』

「そう、でしたか……お恥ずかしい限りで」

『謙遜することはない。ただ、きみがギルドに所属していないのは残念なことだ。ぜひ、加入してもらいたいものだよ』

 学園序列五位──『大賢者』。
 その正体は、冒険者ギルドにおける最高権力者であるギルドマスターとのこと。

 たしか、エルフ系の長命種らしい(男)。

「私のような者が入っては、冒険者ギルドの株も下がってしまうでしょう。申し訳ありませんが、その話は辞退しておきますよ」

『そうかい? きみという貴重な宝石を否定するぐらいなら、その者たちを排斥した方が正しいと思うんだけどね。ちなみに、レイルくんの方はどうかな?』

「師匠が入るなら、入ります」

『それだと、アサマサくんにより価値が付いてしまうよ』

 ノイズは姿だけでなく、声にも入る。
 だがそれでも、彼が苦笑しているのはなんとなく理解できた。

『きみの目的は、たしか四位と七位に会うことだったかな? ここに姿を現さなくても、映像自体は確認できたんだよ。だから、きみのことはどこかで観ていただろう』

「しかし、全然居ませんね」

『こちらが把握している限りで説明しておくと、三位と六位と八位は仕事らしい。四位と七位はきみたちが知っている通りいっしょにいるだろうね。一位と二位はもっと単純に居ないだけさ』

 ギルドマスターも忙しいだろうに、わざわざ来てくれた五位に感謝したい。
 居ない数が多すぎるせいか、ついそんなことを思ってしまう。

『さて、本題といこうか。きみは序列の座をこの一月守り抜いた。その時点で、きみは序列入りが確定している。……だが、その人間性について問われているようだね』

「四位が言っていたそうですよ」

「……ああ、そういうことですか」

 風紀委員や生徒会とやらかした結果、それに加えてリア充たちを屠り続けたことが原因だろうか。

「自分の身を守り、秩序を守ろうとしたが故の結果です。後悔はしていませんし、する気もありませんよ。貴方から見て、私はどのような人間に見えますか?」

『……そうだね。あの子は少し、悪を憎みすぎるところもある。私にはきみが、あの子の言うような凶悪性を秘めているようには……思えなくてね』

「それでは……」

『私はきみが序列入りすることを、歓迎したいよ。もちろん、ギルドに入ってくれるのであればなおのことね』

 最後が冗談のようではなく、真剣だったこと以外はとてもいい言葉だった。

 レイルも同じように思っているのか笑っているし、とりあえずはここで落とし前としておこうか。

「では、そろそろ帰ってもよろしいでしょうか? 友人と食事をする予定がありまして」

『そうかい? 帰還陣はそこだ、早く帰ってあげるといい』

「ありがとうございます」

 そして、俺は迷宮から帰還した。

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