上 下
61 / 121
【異世界学園の】面倒事対処 その04【劣等従者】

スレ60 試合結果は闇の中へ

しおりを挟む


 会場中が魅せられた。
 互いにスキルを必要としない、絢爛にして剣嵐な舞の数々に。

「負けるかぁぁぁぁっ!」

 猛り狂う獣のように吼えながら、剣を振るうレイル。
 しかしその剣技は正確無比のもので、一撃一撃に映えを感じさせる。

「いいや、お前さんは負ける」

 明鏡止水──澄み切った邪念無き剣技で、アサマサはレイルを翻弄する。

 努力が生みだす結果を許されない彼が身に着けた、弛まぬ修練が表す至高の武術。
 そこにはあらゆる人間が到達できる、可能性が秘められていた。

「剣技──『流星』」

 怒涛の勢いで放たれた剣撃を、アサマサは自身の剣を以って誘導していく。
 洗練された技術を持つ達人だけが成せる、見る者の心を奪う優美な剣閃。

 それを他者の剣で行わせ、自身は相手に攻撃を加える。

「ぐあっ!」

「ほらほら、もっと本気を出せよ。技術に頼るか、それとも──」

「対価──ぼくの強化スキル全部!」

「より強大……いや、凶大な力を取るのか」

 アサマサがそうボソリと呟いた瞬間、高速で移動を行ったレイルがアサマサに向けて鋭い剣閃を払う。

「だから、これとこれ、それにここの力を入れすぎだ。もっと丁寧に、脱力するぐらいの方が斬りやすくなる」

 脚に気を籠め、ヌルヌルと回避しながらアサマサは再び指導を行う。

 叩かれる度に『流星』を受けたときのように剣技に磨きがかかり、美しい剣術として洗練されていく。

「というか、精神も面倒だな。とっとと元に戻れ──『魂柔』」

「う……かはっ!」

 アサマサは自身の練り上げた気を、直接レイルの中へ流し込む。
 たび重なる【貪狼縛枷】の効果で疲弊していた精神が、魂魄単位で癒されていく。

「あ、あれ? アサマサ、ぼくは……」

「気にするな。どうせプラン通りだ」

「プラン?」

「俺の作戦通りだってことだ。お前がそうして暴走するとこから、俺が戻すところまで」

 ハッと、これまで自分が何をしてきたかを思いだすレイル。
 そして、少ししょんぼりとしだす。

「また、制御できなかったんだね」

「けど、今はできてるだろ? だからまだ、効果は継続している」

「あっ……」

「俺は精神に作用させただけで、肉体には何もしていない。だからお前のスキル……グレイプニルだっけ? は、停止していない」

 気絶など、本人が活動不能になれば稼働を止めるスキルが多い。
 しかし今回のケースの場合、レイルが気絶したわけでもないので止まらなかったのだ。

「ほら、もう少し剣技を磨け。そして、この恩を忘れるな」

「恩……ですか?」

「お前の師匠は優秀なんだろうが、俺の師匠たちの方がもっと優秀だ。そして今、なんの因果か俺はお前の剣技を磨かなければならない状況にある」

「えっ、どういうこと?」

 説明を求めるレイル。
 しかしアサマサは沈黙を貫き、すべてを黙殺することを選んだ。

 そして剣を構え、自ら前へ出る。

「面倒だし、体で覚えろ。俺の師匠はそりゃあ立派な奴だが……俺に問題があって、剣技は全部その身で覚えた」

「……まさか」

「教え方なんて分からないし、見て覚えてくれ。おっと、ここからは企業秘密にでもしておこう──“闇幕ダークカーテン”」

 指輪に籠められる限界まで魔力を注ぎ、会場一帯に闇を敷き詰める。
 視界が奪われた中、アサマサが別の指輪を嵌めて灯りを生みだす。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 不思議そうな顔をしているレイル。
 照明を用意したのが、いけなかったのかもしれない。

 ──それとも今さら……俺が光属性を使ったからか?

 けど、どうせ全属性分の指輪を持っているわけだし……隠す必要はないんだよな。

「俺が習ったのは、基本一通りの武術だけだが……レイルは何を使う?」

「剣を主に使うんだけど、だいたい全部使えるようにしてあるよ。ぼくの【貪狼縛枷】の関係上、できるだけ多くのスキルを持っていた方がいいからね」

「いちおうだが、そのグレイプニルってスキルの効果は聞いてもいいか? まあ、言わなくてもいいんだけど」

「大丈夫だよ。対価としたモノを永劫的に消失させることで、支払った分だけ強化が行われるスキルなのさ」

 ずっとロスト……ってことじゃあ、きっと無いんだろうな。
 そんな俺の表情を見たからか、コクリと頷いて説明を続ける。

「もう一つ、【干天慈雨】ってスキルを持っていて、一度失ったり強く欲したスキルの習得率と成長率が高くなるんだ。ちなみに雨が降っているとより高まるね」

「……何、そのチートスキル」

「チート? ああ、異世界人が使う便利で強力なスキルのことだね。たしかに自分でも、少しばかりチートだと思うよ」

 イケメンスマイルでそんなこと言われてしまうと、ほんの少しだけ憎悪が……。

 俺なんて、どれだけ強く願ってもスキルは手に入らないし(鑑定)と(言語理解)は戻ってこないのに……。

「まあいいや。この勝負、俺の勝ちってことでいいか?」

「……うん、そうだね。ぼくは自分自身に負けていた。君との勝負は、その時点で決していたんだ」

「自分でそう思うなら、それでもいいけど。あとで足腰が立たなくなるまで、しっかりと学んでもらうからな」

「分かりました──師匠!」

 師匠、ね……ずいぶんと懐かしい言葉だ。
 俺もよく、そう言わされていたな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武
ファンタジー
All Free Online──通称AFOは、あらゆる自由が約束された世界。 主人公である少年は、チュートリアルを経て最速LvMAXを成しえた。 Q.有り余る力を何に使う? A.偽善の為に使います! これは、偽善を行いたい自称モブが、秘密だらけの電脳(異)世界を巻き込む騒動を起こす物語。 [現在修正中、改訂版にはナンバリングがされています] 現在ハーレム40人超え! 更新ノンストップ 最近は毎日2000文字の更新を保証 当作品は作者のネタが続く限り終わりません。 累計PV400万突破! レビュー・感想・評価絶賛募集中です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...