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偽善者とキャンペーン 十一月目
偽善者と神聖国の過去 その03
しおりを挟む結界の数は年を重ねるごとに減っていく。
歴代の法王は私欲を尽くすため、初代法王である男の編んだ術式を削っていった。
幸いにして、重要な最後の一枚だけは自身にも危害が及ぶと察し削られることはなかったが、扉の表面にあった術式は全て削がれていた。
だが、表面を削り終えた次代の法王もまた思う……金が足りないと。
しかし、扉の術式を削れば莫大な財が手に入ることに気づいていた。
深く考える、どうすれば自分も歴代の法王のように金を手に入れられるのか。
先代までの法王たちに毒を吐きながら、それでも必死に考え……行きついてしまった。
自分の安全を、守ってもらえる存在を用意しよう。
適当な嘘を話し、同情を買い、無償で守護させればいいのだ、と。
都合よくその存在がいた。
法王は古の盟約に則り、その存在に連絡を行った。
そして、その者の名は――。
◆ □ ◆ □ ◆
再び映像を止める。
ここまではいっしょだが、観客の様子は全く異なっていた。
「先代は、そのようなことのために……」
「真の善人など世にどれだけ居ることやら。少なくとも、指の数よりは少ないと思われますね」
「…………」
無言で前足をグッと握る聖炎龍。
牙もチラリと口からはみ出、グルルルという声が聞こえてくる。
そりゃあ怒るよな。
術式が弱まっていったのは、経年劣化よりも法王たちの欲望のせいだもん。
術式を調べてみたが、ダンジョン内の魔物調整機能まで付いていた結界だったんだぜ。
なのにそれを剥すから、なおのこと現状に陥るのを援助していたってわけだ。
「第二幕までをご観覧いただき、誠にありがとうございます。彼らは自らの欲を満たすため、初代の想いを売ったわけでございます。初代の清き願いなど疾うに廃れ、汚れた願いが今の世界に蔓延する。……はたして、人間とは守るべき存在なのか?」
「黙れ」
「はい、黙りますよ。私はすべてを守るようにしていますので」
「守る? お前が? 悪しき者を呼び起こした、張本人が? 笑わせるな!」
「悪しき者、とは誰のことでしょうね。私には、歴代の法王……いえ、この国そのものだと思いますけどね」
もちろん他国にも汚れた輩はいるし、神聖国内に清い奴も居る。
だがしかし、それとこの物語は関係ない。
俺がこの話をするのには意味が有り、それには歴代の法王を断罪する必要があった。
その協力者として、聖炎龍を俺は選んだ。
「そもそも、悪しき者など中にはいませんでした。居たのは何も知らない悲劇の少女。知らぬが故、正義を謳う自称勇士たちによって封印されてしまったかつての神の転生体。はてさて、無抵抗の少女を襲うことに、意味などあったのでしょうか?」
「……瘴気の侵蝕を抑えた、ではないか」
「なら世界に瘴気が蔓延る理由は? ……意味など無かった。それこそ、あの少女を贄に世界を救ったなどと喜劇をするぐらいなら」
カグに罪はない。
有ったとしてもそれはカカのものであり、何も知らないカグに押し付けてよいものではない。
だが大人たちは、そんな少女に罪を押し付けた――己が欲望もまた、瘴気の侵蝕を促すエネルギーとなっていたのに。
そろそろ編集の方が終わる。
再び仰々しいポーズと台詞を並べ、映像を準備する。
「さぁ、ついに物語は第三幕へ。黒き澱みが聖炎龍と出会い、今に至る物語。人を愛し、人を守るべき存在は、まさに聖者がごとき愛で人を救うおうとする。また、人の世に遂に現れた邪を司る神、その者の正体はいったい何者なのか。これで全てが明らかに、役者の芝居は終わり、今こそ狂乱の宴が始まる!」
血眼になった聖炎龍の前に、スクリーンを出して上映を開始する。
◆ □ ◆ □ ◆
盟約に従い人の世にやってきた、当時の聖炎龍は驚く……なんと汚れた街のなのかと。
汚職は多発し、亜人と呼ばれる獣人や森人などの種族を普人が差別する。
そうした現状に強く怒りを感じながら、聖炎龍は神聖国に辿り着く。
そして当時の法王は語る――扉の封印術式が弱まり、世界に悪意が広がっていると。
たしかにそれも間違ってはいない。
試練用の魔物を生むため、神聖国は最も世界の中で膨大なエネルギーを獲得できる星脈と呼ばれる力が噴き出す穴に造られた。
それを魔力に変換し、試練用の魔物は作られている。
だが、そのエネルギーを調整する術式すらも削られてしまったため、溜まった魔力は負の魔素となって地上に蔓延し始める。
人の心は澱み、魔物は狂暴化、自然環境すらも人に厳しいものとなっていく。
そうした理由を、全て結界が減っていったこと、その一言で纏めて聖炎龍に説明を行う法王。
当時の聖炎龍は悩み、そして自身がこの場所を守護することを誓った。
法王は裏で黒く嗤い、涙を流して聖炎龍に感謝した。
愚かな龍など所詮は羽の生えた蜥蜴、どれだけ強かろうと知性で人には敵わない。
こうして聖炎龍は神聖国の地下を守護し、削がれた封印の代わりを行っていた。
以降の法王は封印を削ぐ代わりに、聖炎龍の存在をチラつけて他国を威すようになる。
だがあるとき、大きく事態は急変する――黒き炎が世界に現れたのだ。
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