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偽善者とキャンペーン 十一月目

偽善者と神聖国の過去 その02

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 かつて、一人の男がこの世界に生まれた。
 その男は別の世界から神によって選ばれ、記憶を魂に刻んでやってきた転生者と呼ばれる存在であった。

 男には使命と力が与えられた。
 使命を成すための力は、男は生まれた時から他の者と格別させる。

 世界を司る七つの属性をその身に宿し、勇者や魔王すらも遥かに超越した武や智を誇っていた。
 村を襲う魔物を払いのけ、災害に苦しむ同郷の者を救う。
 大人たちは男を神童と称え、村は繁栄していく。

 生まれ育った村を旅立ち、同郷の仲間と共に街へ出た。
 男はそこでも持ち前の記憶と力を使い、魔物たちを打ち払う。

 ゴブリンの大群やダンジョンの魔物、はては暴れるドラゴン。
 男が居なければ、今その街は滅んでいるともされていた。

 さらに成長したその男は、世界を旅してあることを決意した。
 この世界には救われない者が多い、女神様との約束もある。

 ──そうだ、国を造ろう。
 
 困った人々へ手を差し伸べ、苦しむ人々を無償で助け、泣いている人々にそっと寄り添えるような国を。

 男の使命、それはとあるダンジョンに隠された門を守ることであった。
 方法は問わない、だから絶対に必要な時が来るまで守ってほしい……そう言われた。

 男はそれまでに築いた人脈を伝い、いつしか一つの国を造り上げた。
 国の地下に巨大な封印術式を刻み、何重にも保護をして立ち入りを禁止する。

 この世界に選ばれし者たちが集い、いつか七色の世界に旅立つまで……。

 ――ホワイト神聖国、後世までそう呼ばれる国家を。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「はい、ここまでが第一幕です。彼が後に、初代法王となって国を動かしていきます」


 一度映像を止め、聖炎龍に話しかける。
 記憶を再生しているだけなので、若干脳に負担がかかる。

 なのでトークタイムで時間を繋ぎ、予め読み込み時間を作って映像の編集をしておきたかったのだ。


「それは知っている。その代の聖炎龍が、その男と共に冒険を行っていたらしいからな。人化して街を巡れば、そのような話を耳にしたこともある」

「龍の命も永遠ではない、故に聖炎龍の名は受け継がれていく。やはりでしたか」

「引き継がれるのは、あくまで名という称号と力だけ。だからこそ、私はお前からその真実とやらを聞く破目になったのだがな」


 まあ、それはそうだろうと予想していた。
 聖炎、なんて単語が付いているのに、炎の神であるカカのことを知らないはずがない。

 そこから思案に耽ると、自ずと答えは出てくるものだ。


「知識だけを渡されても、真の理解は生まれませんよ。大切なのは、心と体でそれを理解すること。どれだけ時間が掛かろうと、自分の意思でそれを理解しようとする想いこそが大切なんです」


 それを俺は――<澄心体認>から学んだ。
 いや、字的にな。


「さて、お待たせしました。第二章の幕を開けるとしましょう……用意はいいですか?」

「御託は要らん。早く始めろ」

「いえいえ、大切な儀式ですから。
 ――さぁ舞台は整った、今は亡き男の想いはこの神聖国に息衝いた。だがはたしてそれは本当か? 正しき意志が、遺志のまま紡がれると思うのか。人の欲望は美徳を喰らい、罪という枷を背負わせる!」


 そして、再び映像を再生する。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 しばらくの間、神聖国は人々に慕われる国であった。
 なにせ、神を信じぬ者をも救う素晴らしい国だったのだから。

 金も食料も求めず、必要としたのは人々の笑顔だけ。
 男の決意は決して無駄とはならなかった。

 ……だが、それも最初だけ。

 男の篤き遺志を知らぬ者は、少しずつ、少しずつと国の中に悪意を振り撒いていく。
 礼と称して僅かな食料を集り、寄付という形で私腹を肥やす。

 当然それを正そうとする者もいた。
 だが、国に蔓延る悪意は蔓延しており、小さな正義では照らし尽くせない程に昏く澱んでいた。

 そしてある日、事態は変化する。
 当時の法王は思う……金が足りないと。

 散財の限りを尽くし、酒池肉林を世に実現させていた欲望塗れの法王。 
 法王は自身が信じもしない神の威光を世に知らしめ、より金を手に入れる策を練った。

 そうして行われたのは、封印術式の限定的な解除だ。

 数百に及ぶ術式の内、一枚を剥いで国家を動かすために利用する。
 封印術式は表面の一枚だけで、天候すらも操ることができる魔力を消費していた。

 悪魔の策に打って出る法王。

 誰も気づきはしない、数百ある内の一枚が減ろうと誰が気付くというのだ。
 金で手を回した神官たちと共に、法王は術式を一枚解除した。

 翌年から、法王には多大な金が回るようになった。
 村や町に余った魔力を使い豊かにすることで、何も言わずとも金がやってくるのだ。

 また数年後、当時の法王は思う……金が足りないと。

 かつての法王のような酒池肉林に憧れていたが、実際にはそのような金は無い。
 ならばどうするか、作ればいいのだ。

 法王にのみ知らされている扉の封印術式。
 絶対に封印に手を出すな、と先代の法王からも念入りに言われていた。

 だがそれでも、当時の法王は手を出した。

 ――そして、それは何度も繰り返される。

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