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偽善者とキャンペーン 十一月目
偽善者と特訓用魔導
しおりを挟む「――懐かしい奴を見たな。思い返そうとしたからこその出会いなのかもしれないな」
俺をフレンドに、と誘ってくれたリア充組の皆さん。
心を温めてくれたお礼として可変式の魔道具を渡したんだが……まさか、連絡に使用限界があると思っていたとは。
仮にもコンソールのスキルをそのまま移したようなウィスパー機能。
使用回数など∞なのだが……まあ、彼らなりの決意があるのも分かったので納得しておこう。
「そういうことなら、こちらからでプレゼントを渡しておこうか。いつか使ってもらえると嬉しかったんだが……このままだと一度も使ってもらえなそうだしな」
黒い魔本の中から一ページを開き、そこに描かれた魔方陣に魔力を籠める。
すると、そこから一体の霊体が現れる。
ユラユラと揺らめき、無重力で浮かぶ液体のように宙を漂う。
『お呼びですか、偉大なる御方』
「そんな大層な呼び方はせんでいい。……あそこにいる四人組を見張っておけ。そして、ピンチになったらあの魔道具を遠隔で起動させろ。お前ならできるだろう」
『仰せのままに』
霊体は透明化し、四人のプレイヤーたちに近づいていく。
それなりに強いので、聖属性の魔法だろうと問題ない。
「……あと少し、最後まで進めますか」
この後もチェックは続けてみたものの、彼らのような懐かしい人物を見かけることはなかった。
――やはり一度誰かを見ると、もう俺の運は尽きてしまうな。
◆ □ ◆ □ ◆
夢現空間 修練場
「よし、今日は修業にしよう」
せっかく案件を思い出したので、それらをこなそうと思ったが……家から出る気が失せてしまう。
たいていのことはいつでもできる、それならやりたいことをやるのがベストだろ。
「それで、今日の監視はミントなのか」
「うん! パパが危ないことをしないか、私がちゃーんと見てるからね」
「そうかそうか! うん、程々にするよ!」
父親は娘に甘いものだ。
ミントの言葉に、考えていた修業プランの約九割が中止となる。
父親は娘を守るものだ。
新たに自らを犠牲にはしないが、それに近い方法で眷属を守る力を得られるプランを練り始める。
「──それじゃあ、まずは戦いを」
イメージするのは、ゲームでもよくあったアレ。
過去の亡霊が行く手を阻み、繰り返される歴史を再読み込みするだけの儀式。
それを今、この世界で再現する。
「魔導解放――“再生せし闘争の追憶”」
その言葉が、辺り一帯に強く働きかける。
存在しない者を現界させ、なおかつ維持させられると世界の理を書き換えていく。
条件を満たし、現世にいない記録の復元。
永遠の時を夢現の中で生き続ける過去の幻影を、俺という存在を楔として生みだす。
「……いや、まだ未完全だな。すみません、そんな状態で呼んでしまって」
『――――』
「言語の方も話せませんか。重ね重ね、申し訳ありません」
その場に現れたのは、ノイズだらけのナニカである。
即席で編み出された魔導では、やはり彼らのような者たちを呼び起こすのは難しかったようだな。
「パパ、あの人は誰なの?」
「彼はね、歴戦の勇士なんだよ。名前は俺も知らないけど、とても強い人さ」
「……パパよりも?」
「そうだね、今の俺じゃあ負けちゃうな」
勇士さん(仮)とは、俺の記憶を元に俺やネロが収集してきた魂の中で最も最適な者。
この世界で知った情報は、全て{夢現記憶}内に保存されている。
今回の魔導はその{夢現記憶}内から俺の求めるデータを抜粋、それに該当する魂を一時的に現界させるものなのだ。
求めたのは、優れた傭兵。
さまざまな戦場を渡り歩き、善悪問わず生き延びることだけに特化したしぶとき者。
相手がどのような者であろうと、あらゆる手を費やして逃げ延びてきた猛者。
……ミントには悪いが、全力が振るえない状態だと分が悪いんだよ。
これを使っている最中は、さらに修行用のリミットをかけれちゃうからな。
「それじゃあ、お願いします」
『――――』
互いに最初は剣を構える。
俺はゆっくりとそれを相手に向け、勇士はそれを投擲の構えで……あ、ヤバい。
『――“――”』
超高速で放たれた剣は、慌てて動かした顔の横を通過する。
勇士はその隙に暗器を取り出し、再び投擲しながらこちらに迫ってくる。
「なら、こっちは!」
ティルに習った動きをなぞり、放たれた針のような暗器を払っていく。
だが、相手も慣れた動きで暗器を放つ。
それらは一度に捌けない角度で、多方面から発射されていた。
「……っ」
体を動かすのに必要な部分だけを防ぎ、後は自ら動いて躱そうと試みる。
それすらも読まれていたのか、数本の針が体に突き刺さる。
同時に、状態異常の効果に襲われる。
猛毒、麻痺、睡眠、脱力、酩酊……即効性のある毒を塗られた針だったのか、体にそうした負担がかかる。
訓練中は{夢現反転}を封印すると決めていたので、効果は全て正常に機能した。
「……ァ! ……パァ!」
「大丈夫だ、心配するなミント」
「パ……」
ミントの声もどこかぼんやりとしか聞き取れないが、【一蓮托生】や{感情}の共有機能によって心配していると知る。
呂律を筋肉を刺激することで無理に回し、正常に聞こえるようにしてミントに応える。
──心配が安堵になってくれたので、俺の方もホッとする。
「――――」
俺が避けた剣を何かのギミックで回収し、勇士は読みづらい動きで迫ってくる。
……ちょっと、舐めプしすぎたかな?
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