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偽善者とキャンペーン 十一月目
偽善者と月の乙女 その03
しおりを挟む――戦いは既に始まっていた。
体を痺れさせるような衝撃と共に、開幕の鐘は轟く。
これから行われるは、月の乙女たちによる災厄討伐。
夢現を司るその厄災の名は――」
「余裕ですね!」
「ああ、だって余裕だしな」
棒を伸ばして攻撃を行うクラーレ。
メルスはほんの少しだけ、体を捻って回避行動をする。
棒は魔力を通じて軌道をカーブに変更するが、それでもメルスの回避はそのギリギリを通過した。
「だいたいさ、物理も魔法も効かない相手にどうしようってんだ? 甘い甘い、それを聞いたらどう動くかまで分かるところがさらに甘い」
「うざ~い」
「物理と魔法を同時にやれば通る? そんな考えが陳腐なものだ。これはゲームであって遊びではない的な、リアルなゲームに弱点のない敵はいるのかな?」
ストレートに罵られるも、独り言をしているという体を見せて誤魔化す。
プーチが放った魔法も、ディオンとシガンの連携による攻撃も結界で防ぐ。
「というか、まだ攻撃してないんだが……そろそろ攻めていいか? それじゃあ、結界が攻撃を反射するから気を付けろよー」
そう言った途端、メルスに向けて攻撃を放つ者たちに痛みが走る。
これまで敵が与えてきた苦痛、それらは自らへと翻り痛みを感じさせた。
「みんな! "エリアヒーr――」
「よいしょっと、"ディスペルブレイク"」
「ちょっと、真似しないでよ!」
「『譎詭変幻』に定まった形は無い。有形にして無形、まさに自由なんだよ。それより、どんどんやらないと負けちゃうぞ」
クラーレによる回復も、メルスによって魔法ごと無効化される。
直接届く距離では無かったが、<領域干渉>の能力を以って遠隔発動を行った。
ダメージを受けた者は仕方なく、限りがあるポーションを飲んで自身のHPを癒す。
メルスはそれを邪魔することはせず、ジッと回復する時間を与えた。
「邪魔、しないんですね」
「邪魔したらすぐ勝っちゃうだろ。それに、それ俺が作ったヤツだし……どうせなら、俺もしっかり使ってほしかったしな」
「……あっ」
若干の照れを見せるメルスとクラーレ。
その思いは恐らく同じではないが、両者共に見せた動きは変わらない。
頬を赤らめ、少し顔を窺おうとして……目が合ってバッと逸らす。
互いに隙が生まれ、残った五人はメルスを攻撃するチャンスを手に入れる。
だがしかし、結界を破壊しなければ届くことはない。
メルスの展開する反射結界は、存在する限り攻撃を撥ね返す。
籠められた魔力は膨大な量なため、正面から破壊することは不可能。
しかし、内側から攻撃されることは予測されていない――
「……2、1――"クロノブレイク"!」
「あ、ヤベっ、壊れた」
メルスの知らない、シガンの新たな【未来先撃】の使い方。
置いておいた斬撃を(時空魔法)で転移させることで、好きな場所へ攻撃を送れるようになった。
結界は内部から強烈な一撃を撃ち込まれ、そのまま軽快な音を鳴らして破裂する。
メルス自身は新たに結界を生成し直して、余裕を持って攻撃を防ぎ切る。
だが、反射結界は破壊された。
もちろんすぐに張り直すこともできるが、内側からの衝撃を気にする必要を教えてくれた礼として、そのまま戦闘を継続する。
「はーい、破壊おめでとう。ご褒美に、俺も武器を使いますか」
「あの双剣ね」
「ノンノン、剣だろうと槍だろうと弓だろうと盾だろうと……何でも使って見せよう。それがオールラウンダーの利点だ」
「なら、素手でいてほしいわね」
「……現状維持ね、了解っと。籠手だけは嵌めさせてもらうぞ」
彼女たちは知らないが、そう言ってメルスが取り出したのは『救世の籠手』。
本当ならしっかりと武器を使って戦おうとしたが、素手と言われて気分が変わる。
メルスの考えている通りの展開になれば、好ましい明るい未来が誕生するのだから。
「それじゃあ一気に吹き飛ばすから、全員死ぬなよー」
「えっ――」
瞬間、彼女たちは体が浮く感覚を覚える。
痛みは感じなかった、それでも実際に体が飛んでいることは事実だ。
視界は高速で変化し、メルスとの距離が遠くなっていった。
「それじゃあ、次は上に飛ばすぞー。掛け声はもちろん――たーまやー、かーぎやー!」
その声は、彼女たちの下から聞こえた。
ふわりと浮かんだ体が仮初の空へと近づくが、今度はしっかりと感覚を掴む。
慣れた視界で状況を把握すると、自分たちが宙に舞っていることに気づく。
「軽気功って言うんだけどさ、最初の一撃でお前ら全員にそれを使わせた。体が超軽くなるから、そうやってふわりと浮かぶんだぞ。あ、方法は企業秘密な」
気の流れを自在にコントロールできるようになったメルスは、他者へその技術を一時的に押しつけられるようになっていた。
ただ、浮くために使っている気は本人のものなので……常時APを消費させている。
「くっ、“グラビティ”!」
「プーチ、口調が変わってるぞー。まあ、重力で戻すのもいいけど……こういうのも楽しくならないか? ――“ゼログラビティ”」
重力を魔法で増加させて地上に戻ろうとするが、メルスが彼女たちにかかる斥力を完全に無にしたため、その目論見は失敗する。
軽気功の発動を外部から切断され、彼女たちは水の中に居るような感覚に襲われた。
「舞台は二次元から三次元へ! シガンの演算もキツくなるんじゃないか? 空を飛びたきゃ翼を生やせ、空を舞いたきゃ風を纏え、空を統べたきゃ宙を蹴ろ!」
メルスは『パーティエンス・ブーツ』で空中を歩きながら、宙で浮く者たちへ告げる。
彼女たちの中で最もMPのある者、プーチが全員に風属性の魔法を行使し、一時的に空での活動を可能とした。
「時間は~、たぶん五分ぐらいだよ~」
「いやいや、それじゃあつまらない。もう少し楽しませてやろう――"トランスファー"」
「……どういうつもりかな~?」
プーチは自身の中に何かが流れてくるのを感じた。
ステータスを確認すると、それが魔力であることが分かった。
……それを送ったのがメルスでなければ、彼女もありがたく使ったことだろう。
「粋な魔力のプレゼントさ、これなら攻撃にも参加できるだろ? なあ、もっと俺を楽しませてくれよ」
「チッ、死ね」
「…………」
ショボンとした表情をスキルで隠し、メルスは宙を蹴って攻撃へ向かう。
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