上 下
649 / 2,519
偽善者とキャンペーン 十一月目

偽善者と月の乙女 その03

しおりを挟む


 ――戦いは既に始まっていた。
 体を痺れさせるような衝撃と共に、開幕の鐘は轟く。
 これから行われるは、月の乙女たちによる災厄討伐。
 夢現を司るその厄災の名は――」

「余裕ですね!」

「ああ、だって余裕だしな」

 棒を伸ばして攻撃を行うクラーレ。
 メルスはほんの少しだけ、体を捻って回避行動をする。
 棒は魔力を通じて軌道をカーブに変更するが、それでもメルスの回避はそのギリギリを通過した。

「だいたいさ、物理も魔法も効かない相手にどうしようってんだ? 甘い甘い、それを聞いたらどう動くかまで分かるところがさらに甘い」

「うざ~い」

「物理と魔法を同時にやれば通る? そんな考えが陳腐なものだ。これはゲームであって遊びではない的な、リアルなゲームに弱点のない敵はいるのかな?」

 ストレートに罵られるも、独り言をしているという体を見せて誤魔化す。
 プーチが放った魔法も、ディオンとシガンの連携による攻撃も結界で防ぐ。

「というか、まだ攻撃してないんだが……そろそろ攻めていいか? それじゃあ、結界が攻撃を反射するから気を付けろよー」

 そう言った途端、メルスに向けて攻撃を放つ者たちに痛みが走る。
 これまで敵が与えてきた苦痛、それらは自らへと翻り痛みを感じさせた。

「みんな! "エリアヒーr――」

「よいしょっと、"ディスペルブレイク"」

「ちょっと、真似しないでよ!」

「『譎詭変幻』に定まった形は無い。有形にして無形、まさに自由なんだよ。それより、どんどんやらないと負けちゃうぞ」

 クラーレによる回復も、メルスによって魔法ごと無効化される。
 直接届く距離では無かったが、<領域干渉>の能力を以って遠隔発動を行った。

 ダメージを受けた者は仕方なく、限りがあるポーションを飲んで自身のHPを癒す。
 メルスはそれを邪魔することはせず、ジッと回復する時間を与えた。

「邪魔、しないんですね」

「邪魔したらすぐ勝っちゃうだろ。それに、それ俺が作ったヤツだし……どうせなら、俺もしっかり使ってほしかったしな」

「……あっ」

 若干の照れを見せるメルスとクラーレ。
 その思いは恐らく同じではないが、両者共に見せた動きは変わらない。
 頬を赤らめ、少し顔を窺おうとして……目が合ってバッと逸らす。
 互いに隙が生まれ、残った五人はメルスを攻撃するチャンスを手に入れる。

 だがしかし、結界を破壊しなければ届くことはない。
 メルスの展開する反射結界は、存在する限り攻撃を撥ね返す。
 籠められた魔力は膨大な量なため、正面から破壊することは不可能。
 しかし、内側から攻撃されることは予測されていない――

「……2、1――"クロノブレイク"!」

「あ、ヤベっ、壊れた」

 メルスの知らない、シガンの新たな【未来先撃】の使い方。
 置いておいた斬撃を(時空魔法)で転移させることで、好きな場所へ攻撃を送れるようになった。

 結界は内部から強烈な一撃を撃ち込まれ、そのまま軽快な音を鳴らして破裂する。
 メルス自身は新たに結界を生成し直して、余裕を持って攻撃を防ぎ切る。

 だが、反射結界は破壊された。
 もちろんすぐに張り直すこともできるが、内側からの衝撃を気にする必要を教えてくれた礼として、そのまま戦闘を継続する。

「はーい、破壊おめでとう。ご褒美に、俺も武器を使いますか」

「あの双剣ね」

「ノンノン、剣だろうと槍だろうと弓だろうと盾だろうと……何でも使って見せよう。それがオールラウンダーの利点だ」

「なら、素手でいてほしいわね」

「……現状維持ね、了解っと。籠手だけは嵌めさせてもらうぞ」

 彼女たちは知らないが、そう言ってメルスが取り出したのは『救世の籠手』。
 本当ならしっかりと武器を使って戦おうとしたが、素手と言われて気分が変わる。

 メルスの考えている通りの展開になれば、好ましい明るい未来が誕生するのだから。

「それじゃあ一気に吹き飛ばすから、全員死ぬなよー」

「えっ――」

 瞬間、彼女たちは体が浮く感覚を覚える。
 痛みは感じなかった、それでも実際に体が飛んでいることは事実だ。
 視界は高速で変化し、メルスとの距離が遠くなっていった。

「それじゃあ、次は上に飛ばすぞー。掛け声はもちろん――たーまやー、かーぎやー!」

 その声は、彼女たちの下から聞こえた。
 ふわりと浮かんだ体が仮初の空へと近づくが、今度はしっかりと感覚を掴む。
 慣れた視界で状況を把握すると、自分たちが宙に舞っていることに気づく。

「軽気功って言うんだけどさ、最初の一撃でお前ら全員にそれを使わせた。体が超軽くなるから、そうやってふわりと浮かぶんだぞ。あ、方法は企業秘密な」

 気の流れを自在にコントロールできるようになったメルスは、他者へその技術を一時的に押しつけられるようになっていた。
 ただ、浮くために使っている気は本人のものなので……常時APを消費させている。

「くっ、“グラビティ”!」

「プーチ、口調が変わってるぞー。まあ、重力で戻すのもいいけど……こういうのも楽しくならないか? ――“ゼログラビティ”」

 重力を魔法で増加させて地上に戻ろうとするが、メルスが彼女たちにかかる斥力を完全に無にしたため、その目論見は失敗する。
 軽気功の発動を外部から切断され、彼女たちは水の中に居るような感覚に襲われた。

「舞台は二次元から三次元へ! シガンの演算もキツくなるんじゃないか? 空を飛びたきゃ翼を生やせ、空を舞いたきゃ風を纏え、空を統べたきゃ宙を蹴ろ!」

 メルスは『パーティエンス・ブーツ』で空中を歩きながら、宙で浮く者たちへ告げる。
 彼女たちの中で最もMPのある者、プーチが全員に風属性の魔法を行使し、一時的に空での活動を可能とした。

「時間は~、たぶん五分ぐらいだよ~」

「いやいや、それじゃあつまらない。もう少し楽しませてやろう――"トランスファー"」

「……どういうつもりかな~?」

 プーチは自身の中に何かが流れてくるのを感じた。
 ステータスを確認すると、それが魔力であることが分かった。
 ……それを送ったのがメルスでなければ、彼女もありがたく使ったことだろう。

「粋な魔力のプレゼントさ、これなら攻撃にも参加できるだろ? なあ、もっと俺を楽しませてくれよ」

「チッ、死ね」

「…………」

 ショボンとした表情をスキルで隠し、メルスは宙を蹴って攻撃へ向かう。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...