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偽善者とキャンペーン 十一月目

偽善者と罰決定

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「――とりあえず、自己紹介はこれで充分にしましょう。メルスのことも、少し分かりましたので」

『絶対に少しって量じゃなかったぞ。どんだけ話してると思ってんだよ、もう三十分も話してたんだぞ。俺、そんなに家族以外と話すこと少ないんだけど』


 安心してください、わたしも似たようなものですから。
 ただ、わたしは家族ともそんなに長い間会話はしません。
 メルスもわたしも、あまりコミュ力がある方ではありませんでした。
 質問を考えることに最も時間を費やした気もしましたが、異性と話す場合に絞れば、メルスが最も長くわたしと話したことになるのでしょう。


「結局、メルスはプレイヤーですよね? どうしてあんなわけの分からない設定を?」

『バレたら面倒事になるからだ』

「――と、いう設定ですか?」

『そうそう、さらに付け加えれば追いかけて来るのは……って、本当なんだよ!』


 ナイスノリツッコミです。
 シガンも時々やってくれますが、メルスと違って若干の羞恥が出ていました。
 その点メルスはしっかりと、手までやってくれていますね。
 メルちゃんとしてもやってくれていたので試してみましたが、やはり本質的に変わりはありません。
 口調や見た目は変わっても、メルちゃんはメルちゃんのままなのです。

 というより、ゲームなんですから。
 少女が青年に変わろうと、魔物になろうと同じようなものですか。


「では、次に行きましょうか」

『……ああ、そういえばまずって言ってましたね。はいはい、分かりましたよ』

「その通りです。次は……そうですね、とりあえずメルちゃんに変身してください」

『まあ、そりゃあ別にいいけど……』


 体が淡い光に包まれると、一瞬の内にメルちゃんが現れます。


『先に言うが、メルの口調はもうやらない。あと、シガンたちの前でメルをやるのも御免被る』

「貴方に拒否権はありません。口調はともかく、わたしたちとこれからも旅をしてもらいますよ。……ええ、これは罰です。わたしというメルスの正体を知っている者が居る中、シガンたちと姿を偽って共にいる罪悪感……どうですか、充分に罰になるでしょう」


 口が勝手に動き、メルスに命じています。
 わたしとしても、これからもメルちゃんと一緒にいられるのは嬉しいことですし、少々戸惑うメルスの姿も見たかったです。


『ん? 別に構わないが。むしろ、クラーレの方が苦しくないか? アイツらは女子しかいないって思ってるのに、男が紛れ込んでいるって秘密を抱え込まないといけない。罪悪感に苛まれるのは、クラーレだと思う』

「…………そう、ですね」


 二人だけの秘密。そこだけ切り取ればとても面白そうですが、シガンたちにメルスのことを黙っておくのは確かにキツイです。
 というか、どうしてメルスはそんなに余裕そうなんでしょうか。
 わたしが奴隷になれと言ったら、本当になるのでしょうか?
 ……いえ、それは止めておきましょう。
 わたしたちの関係が、本当にSMになってしまいそうです。


「メルス、そもそも貴方はどうやったら困りますか?」

『それを俺に訊くかよ……。まあ、首にされたら正直厳しいな。せっかくこうしてクラーレとも本音で話せるようになったのに、ここでお別れってのもさ。いや、まあ別にそれが答えだって言うなら、諦めるけど』

「だ、誰がそんなことを言ったんですか? わたしは、何も反省しないメルスが反省している姿が見たいんですよ。別れたら、見れるものも見れないではないですか」

『へいへい、反省してますよ。申し訳ございませんでした、クラーレ様』


 心が全く籠もっていません。
 せめて、頭を下げるくらいしないと……。


「もういいですよ、分かりましたよ。少し妥協すれば全て解決です。――メルス、貴方には全員を説得してもらいます。女性だけのギルドでは、危険も多いですし……メルとメルスが同一人物であると自分の口から正座した状態で説明して、正式にギルドに加入してください。そして、メルスが居なくても問題無いようにわたしたちを本気で鍛えなさい」

『いや、クラーレとは約束していたから正体バラしたけど、アイツらには別に……』

「これも罰ですよ、罰。全員に認めてもらえるまで、メルスがわたしたちと距離を取ることは禁じます。わたしも少しは協力しますから、メルという変身をしなくてもいっしょに居られるように努力しなさい」


 ふふん……完璧ですね、このアイデア。
 これで、メルスがこっそりと居なくなることはないでしょう。
 実際、わたしたちの顔や体を見て近づいてくる人もいました。
 最近は、メルスがメルとして結界を張ったりして来なくなっていましたが、会う前はかなり絡んでくる男の人がいたんです。

 ですが、男としてメルスが警備役を務めていれば、そうした人たちも来なくなります。
 例えそうでなくとも、鍛えてもらえれば対処ができるようになります。

 もちろん、シガンたちみんなが受け入れてくれることが、一番いい方法なんですけど。


『え? 何、みんなを売るのか?』

「シガンにも、ギルドに入ってくれって言われていたじゃないですか。だから何も問題ありません」

『えー、何その理屈……』


 あーだこーだ言っていましたが、結局メルスは了承しました。
 本当に、甘くて優しい人なんですよね。


 SIDE OUT


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