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偽善者とキャンペーン 十一月目
偽善者と空間の裂け目
しおりを挟む夢現空間 修練場
修練場では、今日も今日とで【英雄】姉妹の特訓を見ることができる。
スーの結界関係の技術を学び終え、戦闘狂共との武術関係の特訓が行われていた。
今日のフーラは方天画戟を、そしてフーリは蛇矛を……二人共、三国志でも読んだのだろうか?
あれからお土産も配り終え、とりあえずではあるが、アンテナショップに関する話も進めている。
国民たちはよりいっそう、世界の外側に向かおうとしてくれるだろう。
『それはどうだろうか、我が主よ』
「えー、まだ何かあるのかよ」
俺の明るい思考を割くように、リョクがそう告げる。
修練場を使う奴らの邪魔にならないよう、ひっそりと隠れていたんだ……繋がっている眷属にはすぐバレるか。
『国民の大半は、我が主に忠誠を誓っているのだ。今更外を見ろと言われても、主の指示で見たも同然だ』
「自主的じゃないってことか?」
『もともと、外に出るのも試験があったからな。狭き門を通った者だけが、世界から出て別世界と関わっている。なのに突然、外に出ずとも外を知れる物が現れた。さて、国民たちはどうなる』
「ふんふん、特に出る必要も無いのか」
『我が主の提案で、ほとんどの者が力を手に入れようとしている……が、それでも閉じた世界で満足する者もまた、多いのだ。何しろここは、広大だからな』
楽園のような世界、それは退廃に満ちた混沌の世界なのだろう。
俺はそうならないよう、いくつかの試練を国民たちに課している。
災害や魔物の襲来、そうしたことに対する防衛を行えるよう伝えてあった。
そうした苦しみから逃げる者もいた。
だが、楽園で生き延びられない者に、普通の世界で安寧など手に入れられるはずなど無かった。
そうした者たちの経験を糧に、国民たちは今も楽園で生きている。
「――とまあ、適当なナレーションが浮かんでみたんだが、結局は俺のせいだな。国の管理をリョクとジーク、それに色々と頭の良い奴らに任せっきりだったんだから。リョク、それでも俺が言えば外に出てくれるのか?」
『うむ、我が主の指示であれば、だがな』
「エンヴィーサーペントのときに、気付いておけばよかったか。あのときは息抜きの気分でしかなかったしな」
『そうであったな』
「……子供たちには社会見学でもさせるとして、大人をどうするかだな。無理矢理外に連れ出す必要もないけど、外がどうなっているか、ぐらいは知っておいてもらいたいし」
新聞記者でも用意しようか。
活版印刷の技術は、いつの間にか研究所の奴らが発明していたし。
新聞を書かせて国民に配る、それで世界情勢に興味を持ってくれると嬉しいな。
「これだけだと、まだ子供が考えた机上の空論でしか無い。リョク、その内お偉い様方と話し合う機会を用意してくれ。割り込んで用意しなくてもいいから、スケジュールが空いた時にしてくれ」
『ハッ! 承知いたしました!』
仰々しいポーズを取って、応えるリョク。
うん、女になっているけど、それでもイケメンっぽさが残ってるな。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの町
やることもなかったので、今日は裏路地でふらふらと彷徨っていた。
眷属強化キャンペーンを観る、ぐらいの予定しかないんだよ。
「誰も~いない~この惨状を~、独り~ただ歩く~♪」
悲しい独り言を歌い、グルグルと歩く。
歌自体に:言之葉:の力が宿るので、俺以上の実力の持ち主でないと、俺を認識できないようになっている。
……例え歌手が音痴だろうと、しっかりと機能してくれるからありがたい。
「結界~絶界~博覧か……ん? 何、あのいかにも怪しい空間の裂け目」
そこには、ただ壁が存在する。
だが、気になる場所に(魔視眼)を使うと、空間属性の力によって作られた穴があった。
転移や転位の場合は、座標指定などの面倒な仕込みの末、自身とその場所を入れ替えるといった感じで発動する。
だが、目の前にある裂け目はそうでなく、この世界がある位相と異なる場所へと開かれているのだ。
「まあ、もっと分かるように言えば、ハリーに出てくる9と3/4番線だな。同じ場所にあるけど、違う場所でもある。ちょっと違うけど……だいたいあんな感じか」
ただし、異世界とは別だ。
同じ世界に存在するが、認識できる者とできない者がいる。
いわゆる、現代ファンタジーものによくある設定だな。
「しかもこの裂け目、あるにはあるけど条件があるみたいだし……解析解析っと」
えっと、条件は大きく分けて二つ――
・時間制限――この世界で三十日に一度
・能力制限――合計能力値60以下
定期的に開いて、どうするつもりなんだろうか。定期市か?
「能力値の制限があるってことは、初心者救済キャンペーンの入り口かな? いやいや、そんなの裏路地でやる必要ないか」
それなら堂々と、表通りの噴水の近くでやれば客がたくさん入るだろう。
少数精鋭を求めているといっても、裏路地に入り口を置く理由がさっぱり分からない。
自由民を招く? うーん、そういう考えもいちおうあるのか。
「…………ま、とりあえず入ってみれば問題なしか。大丈夫だろ? リッカ」
《はいはい、伝えておくわ。ただし、危なくなったらすぐに戻ってきなさいよ》
その答えはなあなあにしておいて、決まったからにはどんどん行こう!
両手に<次元魔法>を纏わせて――無理矢理空間の裂け目を広げて入っていった。
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