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偽善者とキャンペーン 十一月目

偽善者とスロート

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スロート


 ゲーム内で一日が明け、彼女たちは無事次の町へ辿り着いた。
 スロートと呼ばれるこの町は、港町に向かうための中継地点として存在するらしい。
 そのため、日持ちするように加工された魚が多く売られている。


「ますたー、何か用があったら言ってね」

『はい、今日もありがとうございます』

「うん、それじゃあねー」


 "空間転移"で彼女たちから離れた場所に移動し、再び(変身魔法)を発動する。
 体は高校生程の大きさとなり、髪色は茶色に、頭部から獣の耳が生えた状態になる。


「さて、俺も観光をしますか」


 男のケモ耳に需要を感じないのは同感なのだが、これの方が<八感知覚>の効果が強くなるのだから我慢してくれ。
 誰に言うでもなくそう思った俺は、ふらりふらりと町の中を練り歩いていった。


 特にこれといったイベントも無く、暇な時間が続きそうだったので眷属を呼んだ。
 白い翼の生えた、文字通り天使のようなレミル様だ。


「いやー、偽装を掛けても美人なことに変わりは無いからな。見ろよ他の奴ら、みんなレミルのことを二度見してるぞ」

『そうでしょうか? メルス様、何か特別なことでもしたのではないでしょうか?』

「いやいや、羽を隠しただけだからさ。畳んでも見えるんだから、消しただけ。可愛い顔に手は入れてないよ」

『か、可愛いだなんて、そんな……』


 うちの眷属レミル、マジ天使。
 本当は顔も偽装して隠しておきたかったけど、既に撲滅イベントに出てたし今更だと感じて止めた。
 それに、可愛い顔に俺が手を加えられる点など無いし、したら必ず俺が後悔する気がしたんだ。
 うん、とにかくレッツデートだ。


「……で、これから何をしようか」

『何を……ですか?』

「よくよく考えると、俺が満たしたいものと言えば知識欲しか無い」


 闘技大会の最中にデートをしていたが、あれもあれで縁日的な気分で遊んでいることが多かった。
 あれからしばらく経って、魔力飯以外のいろいろな物を食べられるよう、新たにスキルも創った。
【暴食】と(胃酸強化)を解析した結果生まれた、(完全消化)というスキルである。

 だから別に、食べ物を食べても今は何も問題ないのだが……食欲も性欲も睡眠欲もその気になれば遮断できる俺たちに、本当にそれは必要あるのだろうか?


「めでたいイベントがやっているわけでもないし、平日だから特別なことが起きているわけでもなさそうだ。なら本屋でも探して、と思ったが……それってデートじゃなくても一人でできるからなー」

『何か、お土産を買ってみるというのはどうでしょうか? この辺りにはリーンの者も来たことがありませんし、形に残る思い出というのも良いかもしれません』

「そういうのは自前で作れるけど……ま、そういうのはその場所で買うことが大切か。レミル、一緒に良いお土産を探してくれ」

『はい、分かりました』


 自分とは違う視点って、大切だよな。
 現実と違って金はほぼ無限にあるし、そういうことをやるのも一興か。
 アクセサリーも食べ物も用意できるのだから、一体俺は何をお土産として渡せばいいのだろうか。
 そう考えていると、いつまで経っても用意できないんだろう。


『メルス様、こちらのお店で訊いてみるのはどうでしょうか?』

「よし、行ってみるか」


 レミルが示したのは、様々な人形が並ぶ店であった。
 木彫りの人形やブリキの人形など、お土産にはピッタリそうだ。


「すいませーん」

『はい、いらっしゃいませ。こちらでは、スロートで作られた人形の他、たくさんの民芸品が売られております』

『民芸品、ですか?』

『はい! どれもこれも一品ですので、一度手に取って確かめてみてください!』


 女性店員は、レミルを相手に商品の説明を始めた。
 俺はその様子を窺いながら、自分の目でお土産に良い品を吟味していく。


『こちらの人形は』『こちらのナイフには』『これは彼の英雄ファナビアが持っていたとされる弓を模した物でして……』『恋人のあの人に、ぜひこのミサンガを』

『え? あ、あの、その……』


 マシンガントークを続ける店員に、たじろいでいるレミルも可愛いな~。
 あと、しっかりとカップルとして認識していたことは合格だ。



 それから少しして、俺たちはいくつかの商品を買ってこの店を出た。
 モブと美女という組み合わせで、荷物持ちという答えを出さなかったお礼でもある。
 何より品の質が良かったからな、国民に分け与えるのも喜ばれそうだ。


「けど、これじゃあまだまだ全員に配るには足りないな。アンテナショップでも作って、そこで売ってみるか?」

『それでは、お土産で商売をしているではないですか』

「……裏で俺に関する物を、こっそり売っているんだから今さらだろ」


 どうして、(信仰)が(崇拝)の域に達してしまうのだろうか。
 一部の者のスキルの変化に、当時はかなり焦ったものだ。


「それはともかく、アンテナショップが有れば他の地域の物も楽しめるようになるし、派遣組にできるだけ物を買ってくるように指示しておくか……物流が崩れない程度に」

『何事も、ほどほどにですね』


 スロートの町をもうしばらく、俺たちは散策し続けていった。


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