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偽善者と決意交わる水着イベント 十月目

偽善者と赤色の紀行 その18

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 その発言に、場の空気が凍る。
 国を建設する、歴史に刻まれそうな偉業を行おうとしているのだ。
 それは、何らかの才や力を持つ者にのみ許された所業である。

 決して、人生を舐めて生きてきたクソモブが言うようなセリフでは無い。


『国を築く、それは正気で言っているのか。夢物語と取られても仕方がないぞ』

「その通りですね。私一人でどれだけもがこうと、所詮は机上の空論。抗うことのできない現実に打ちのめされて、すぐに諦めることになるのが普通でしょう」

『ならば、何故そのようなことを』


『姫将軍』の当然の質問。
 しかし、俺にもちゃんとしたわけ(笑)があるのだ。
 決して、自分の国をこっちにも造ってハーレム帝国にしたい、などということを考えているのではないんだぞ。
 ……ほ、本当だからな。


「この格好からも分かるように、私はとある神々を信仰する一人の宗教者でございます。ですが、私と同じ景色を見ている者は既にこの場所でもいるかどうか。同胞たちは散り散りになっていて、集まることも難しい。
 私の信仰する神は、人々を救うと豪語しながら搾取しかしないホワイト教も神聖国も認めておりません。あのような教えを我らのようになるよう浄化し、人々が救われる場所を造る――それこそが、私の望む建国でございます」


 えー、特に難しいことを言っているつもりはありません。
 注釈として挙げるならば、ホワイト教と言うのがこの世界で一番有名な宗教です。
 邪炎神を絶対的な敵として認定し、瘴気は根滅すべきだと考えている宗教だ。
 ――なので、そんなクソ宗教が存在しない国を造ろう! こんな感じです。


『貴公が信じる神、それはどのお方なのだ』

「忘れ去られし炎の神、カカ様です」

『……聞いたことのない名前だ。不躾なのは分かっているが、どのようなことを教義としているのか聞かせてもらいたい』

「簡単ですよ――汝、何時如何なる時も炎に祈りと感謝を。原初の炎に関わったとされるカカ様は、そうした教義を残しています」


 ここだけ聞いて分かったら、『姫将軍』は天才を超えて未来予知や過去視を持っていると疑うレベルだ。
 カカとはこの世界において存在しない架空の神だし、教義も適当な言葉を並べてみた。
 いや、俺もちゃんと考えようとしていたんだけど……連絡付かないし、前に訊いた時に全然教えてくれなかったし。
 全部が嘘というわけではないが、九割方虚言に塗り固められた宗教であった……たちが悪いったらありゃしない。


『原初の炎……まさか……』


 何か心当たりがありそうな『姫将軍』。
 うん、そこは本当の部分だからな。
 伝承のされかたは多分違うんだろうが、その単語が何を意味するかぐらいはしっかりと伝わっていることを祈るよ。


「皆様が信じる神を否定する気はありませんし、宗教替えを強要する気もありません。我らが神がホワイト教以外の神を否定することはありませんので」


 何処からかホッと息を吐く音が聞こえた。
 えっと……幻獣人の娘かな?
 小説とかでも獣人が特有の神を信仰していることはあるし、そういうことなのだろう。


「話を戻しましょう。私はこの場所を中心として、新たな国を築く予定です」

『こ、この場所にか。随分と深い穴の底にあるのだが』

「ご心配なく、こちらで幾つか策は練ってありますので。国を造ること自体は、瞬時に可能なのです。例えば――こんな風に」

『『『――ッ!?』』』


 指を鳴らして<箱庭造り>を発動する。
 すると、壁が振動音と共に動き出し、螺旋階段を生み出していく。


「地形操作能力……とでも言っておきましょうか。地面があればなんでもできますので、建物の創造も簡単に行えます。これでこの場所に城を。上空に蓋をするように都市を創り出します……おや、どうかされましたか?」

『す、凄い。これだけの魔力……。一体、何者なのだ貴公は』


 消費したMPは瞬時に癒え、今では満タン状態になっていることは言わない方が良いだろう。
 最大MPは今や∞に近い量となっている。
 数値化できないわけでは無いが、0を幾つ書いても書き足りない程になっているのだ。


「私ですか? 私は――偽善者ですよ」


 毎度お馴染みこのお言葉を伝えてから、奴隷たちに最後の・・・命令を与えた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 さて、舞台は変わってオークション会場。
 俺は一人の商人と向き合い、商談を行っていた。


『――お見事でした、ノゾムさん。貴方は私との契約を果たし、全てを出し抜いて奴隷たちを手に入れましたね』

「出し抜くだなんて……ただ、力で捻じ伏せただけですよ。実際、今も怒った貴族や商人の方々が探していますしね」


 この場所に俺を連れて来た商人。
 色々とあった末に、俺と彼はとある契約を交わしていた。
 勝った方が負けた方の言うことを一つだけ聞く、という古典的な賭け。
 俺はそれに勝ち、そのことに関しての話をするために戻ってきたのだ。


『さて、既に大まかな話は確認していますがもう一度。私は一体、何をすれば宜しいのでしょうか?』

「全ての国の攪乱、それと同時に噂を流すことです。建国までは時間が掛かりますし、人材も欠けています。何でも屋でもある貴方には、私に足りない全てを補ってもらいます」

『ノゾムさんに足りないもの、ですか』

「対人能力、つまり人と関わる力です。何分全てを暴力で解決してきたような野蛮人ですので、何をするにもその思考が根強く残ってしまうのです。一つだけ、という願いを破っているようにも思えますが、建国という単語一つを願いだと考えてほしいです」

『構いませんよ。貴方からその言葉を聞いたときから、私の心は変わっていません。誰も経験したことの無いような、一世一代の大博打……ぜひ、参加させてください』

「そう言ってもらえると、信じてました」


 彼に用意しておいた資料を渡して、再び俺は転移を行った。
 ……博打って言われたよ。


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