上 下
607 / 2,519
偽善者と決意交わる水着イベント 十月目

偽善者と定まりゆく覚悟

しおりを挟む


夢現空間 自室


 さて、イチャイチャ宣言をしてからしばらくしたが、別に魔法使い(意味深)への資格を失ったわけではない。
 マイサンが再び仕事を始めたわけでも、ましてや【色欲】になったわけでもないのだ。


「そもそも、イチャイチャの定義を考えることから始めることにしたんだよな。俺にとってのイチャイチャとは何なのか。それが分からないと、始めるものも始められな――」

《メルス様がそんなどうでもいいことをうだうだうだうだ考えている影響が、眷属全体に反映しているのをお分かりいただけるでしょうか?》

「感情共有である程度抑制されてるんだし、本当に狂ってるわけじゃないだろう……何度かヤバかったけど」

《それらはメルス様の中で溜め込まれた感情が漏れ出し、眷属たちに影響を及ぼした結果です。始めからメルス様が英断をなさっていれば、そのようなことにはならなかったと思われますよ》


 ……ま、今までは目を逸らしていたが、俺もそろそろみんなともっと触れ合いたいし。
 つまり、覚悟を決めるべきだったのだ。


「とりあえず、デートの回数を増やしていこうと思うが……どうだ?」

《メルス様がそうお考えならば、それでよろしいかと》

「……意外だな。てっきりアンのことだから何か言ってくると思ったんだが」


 いつものアンなら、「抱け!」ぐらい言うと思ってたんだけどな。


《前向きなメルス様は珍しいですので、このままそれを維持できるサポートだけをしておいた方がよろしいと思いまして》

「珍しいって……まあ、否定できんが。今更思うと、ハーレムって大変だな」

《おや? 急にどうされたので?》


 心配してくれているようだ。
 普段から思考する時間だけは膨大にあるんだ、少しぐらい真剣なことも言えるさ。


「折角だから考えてみたんだ。どんな風なことをすれば、みんなデートを楽しんでくれるかをさ。……全然浮かばないんだよ。一つや二つ、それぐらいならどうにかなるけど、眷属全員を別々の場所に、と想定してデートプランを考えるとなると……無理じゃね?」

《それを考えるのがメルス様の義務ですよ。うちに栗鼠を冠する組織のサポートはございませんし、必要ありません。ですが、デートだけが愛情を表現をする方法ではありませんし、本当にメルス様に覚悟があるのならば、気長にわたしたちも待つことにします》


 アンの言葉はとても重く感じられた。
 俺たちにとっての気長、それは永久に続く日々のことを意味している。

 しかし、それでも待ってくれると言っているのだ。
 今の俺が、ケジメを着けるのはいつになるか定かではない。
 長大な時間を使えば、いつかは果たせると思っているが、それがすぐになる可能性はそう高くはないだろう。


「うーん、俺も魔法使いになるのを諦めた方が良いのかな? 今度相談して、できるって分かったら……そのときは――」


 そう言って、俺は部屋を出て行った。


◆   □   ◆   □   ◆

図書室


[あ、おにーちゃん]

「よう、何をしてるんだ?」

[お勉強だよ。おねーちゃんたちみたいになるには、たくさん勉強しないとダメなんだよね]

「……そうだな。うちの奴らって大体頭が良いし、カグも将来のために賢くなろうかな」

[うん]


 今までに集めてきた本が、全て纏められた図書室。
 そこでは、一人の少女がノートを広げて勉強をしていた。
 彼女の名はカグ、かつて赤色の世界で封印されていた娘である。

 未だに失声症なんだが、治るための切っ掛けが分からないんだよな。
 視た感じ、眷属たちとも仲良くやっているし……何が原因なんだろうか。

 だが、それでも会話として成り立つ文が書けるようになったので、彼女との会話は可能である。

 おにーちゃん……良い響きだ。
 いつか口で言ってほしいものである。


「今は何の勉強中なんだ?」 

[んー、これなんだけどー]

「えっと……『魔学論』? ああ、アイリスの置いたヤツか」

[うん、アイリスおねーちゃんは忙しいみたいだし、リュシルおねーちゃんもマシュおねーちゃんもいないから、誰にも訊けなかったの]

「あー、すまん。三人は今日、リーンの研究所の方に行ってるんだ」


 リーンにある研究所では、いくつかのテーマを決めて研究を行っている。
 一定期間に一度、全研究グループが集まって研究成果を発表していくのだが……少し前までややマンネリ化していてな。
 前に一度眷属をその場に連れてったら、思わぬ化学反応があったらしいんだよ。
 それ以降研究員たちは、情報交換会がある時に眷属たちを連れてきてほしいと嘆願するようになっていった。

 まあ、俺の理解できない地球の知識とこっちの常識を組み合わせたものを生み出していたよ。
 その内の一つが、『魔学』なのだ。

「――ってわけだからさ。魔学に関しては俺が説明するってことで……どうだ?」

[うん、おにーちゃんが大丈夫ならお願いしたいな。……久しぶりに、おにーちゃんと一緒にいられる]

「お、おう! 全部兄ちゃんに任せておけばバッチコイだ!」


 ……嗚呼、カグの笑顔に日々の疲れが一気に吹っ飛んだよ。
 可愛い娘が俺と居られることを喜んでくれる、それがどれだけ素晴らしいことなのか。

 今日はこのあと、カグと共に魔学についての勉強を行っていく。
 一応知識として記憶はしていたが、しっかりとした学習を行っていなかったのいい機会でもあった。

 ……ただ、最後にはカグの方が魔学について深い見解を得られたとだけ伝えておこう。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...