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偽善者と決意交わる水着イベント 十月目
偽善者と定まりゆく覚悟
しおりを挟む夢現空間 自室
さて、イチャイチャ宣言をしてからしばらくしたが、別に魔法使い(意味深)への資格を失ったわけではない。
マイサンが再び仕事を始めたわけでも、ましてや【色欲】になったわけでもないのだ。
「そもそも、イチャイチャの定義を考えることから始めることにしたんだよな。俺にとってのイチャイチャとは何なのか。それが分からないと、始めるものも始められな――」
《メルス様がそんなどうでもいいことをうだうだうだうだ考えている影響が、眷属全体に反映しているのをお分かりいただけるでしょうか?》
「感情共有である程度抑制されてるんだし、本当に狂ってるわけじゃないだろう……何度かヤバかったけど」
《それらはメルス様の中で溜め込まれた感情が漏れ出し、眷属たちに影響を及ぼした結果です。始めからメルス様が英断をなさっていれば、そのようなことにはならなかったと思われますよ》
……ま、今までは目を逸らしていたが、俺もそろそろみんなともっと触れ合いたいし。
つまり、覚悟を決めるべきだったのだ。
「とりあえず、デートの回数を増やしていこうと思うが……どうだ?」
《メルス様がそうお考えならば、それでよろしいかと》
「……意外だな。てっきりアンのことだから何か言ってくると思ったんだが」
いつものアンなら、「抱け!」ぐらい言うと思ってたんだけどな。
《前向きなメルス様は珍しいですので、このままそれを維持できるサポートだけをしておいた方がよろしいと思いまして》
「珍しいって……まあ、否定できんが。今更思うと、ハーレムって大変だな」
《おや? 急にどうされたので?》
心配してくれているようだ。
普段から思考する時間だけは膨大にあるんだ、少しぐらい真剣なことも言えるさ。
「折角だから考えてみたんだ。どんな風なことをすれば、みんなデートを楽しんでくれるかをさ。……全然浮かばないんだよ。一つや二つ、それぐらいならどうにかなるけど、眷属全員を別々の場所に、と想定してデートプランを考えるとなると……無理じゃね?」
《それを考えるのがメルス様の義務ですよ。うちに栗鼠を冠する組織のサポートはございませんし、必要ありません。ですが、デートだけが愛情を表現をする方法ではありませんし、本当にメルス様に覚悟があるのならば、気長にわたしたちも待つことにします》
アンの言葉はとても重く感じられた。
俺たちにとっての気長、それは永久に続く日々のことを意味している。
しかし、それでも待ってくれると言っているのだ。
今の俺が、ケジメを着けるのはいつになるか定かではない。
長大な時間を使えば、いつかは果たせると思っているが、それがすぐになる可能性はそう高くはないだろう。
「うーん、俺も魔法使いになるのを諦めた方が良いのかな? 今度相談して、できるって分かったら……そのときは――」
そう言って、俺は部屋を出て行った。
◆ □ ◆ □ ◆
図書室
[あ、おにーちゃん]
「よう、何をしてるんだ?」
[お勉強だよ。おねーちゃんたちみたいになるには、たくさん勉強しないとダメなんだよね]
「……そうだな。うちの奴らって大体頭が良いし、カグも将来のために賢くなろうかな」
[うん]
今までに集めてきた本が、全て纏められた図書室。
そこでは、一人の少女がノートを広げて勉強をしていた。
彼女の名はカグ、かつて赤色の世界で封印されていた娘である。
未だに失声症なんだが、治るための切っ掛けが分からないんだよな。
視た感じ、眷属たちとも仲良くやっているし……何が原因なんだろうか。
だが、それでも会話として成り立つ文が書けるようになったので、彼女との会話は可能である。
おにーちゃん……良い響きだ。
いつか口で言ってほしいものである。
「今は何の勉強中なんだ?」
[んー、これなんだけどー]
「えっと……『魔学論』? ああ、アイリスの置いたヤツか」
[うん、アイリスおねーちゃんは忙しいみたいだし、リュシルおねーちゃんもマシュおねーちゃんもいないから、誰にも訊けなかったの]
「あー、すまん。三人は今日、リーンの研究所の方に行ってるんだ」
リーンにある研究所では、いくつかのテーマを決めて研究を行っている。
一定期間に一度、全研究グループが集まって研究成果を発表していくのだが……少し前までややマンネリ化していてな。
前に一度眷属をその場に連れてったら、思わぬ化学反応があったらしいんだよ。
それ以降研究員たちは、情報交換会がある時に眷属たちを連れてきてほしいと嘆願するようになっていった。
まあ、俺の理解できない地球の知識とこっちの常識を組み合わせたものを生み出していたよ。
その内の一つが、『魔学』なのだ。
「――ってわけだからさ。魔学に関しては俺が説明するってことで……どうだ?」
[うん、おにーちゃんが大丈夫ならお願いしたいな。……久しぶりに、おにーちゃんと一緒にいられる]
「お、おう! 全部兄ちゃんに任せておけばバッチコイだ!」
……嗚呼、カグの笑顔に日々の疲れが一気に吹っ飛んだよ。
可愛い娘が俺と居られることを喜んでくれる、それがどれだけ素晴らしいことなのか。
今日はこのあと、カグと共に魔学についての勉強を行っていく。
一応知識として記憶はしていたが、しっかりとした学習を行っていなかったのいい機会でもあった。
……ただ、最後にはカグの方が魔学について深い見解を得られたとだけ伝えておこう。
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