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偽善者とハイシン者たち 四十月目
偽善者と配信スキル 中篇
しおりを挟むナックルに会ったら、配信スキルについて説明をされた。
動画配信者が多くAFOを始める関係で、そちら関係のイベントが始まるらしい。
そしてなぜか、俺にもその動画配信をするように依頼してきた。
動画配信者──Vライバーたちから、目を逸らすとか何とか言っていたが……。
「俺がやる必要あるか? これ、上から頼まれたとかそういうのか?」
「いや、そういうのじゃない。ただ、少し前の新人育成以上に、確実に荒れるからな。無策で当日を迎えるのもアレだから、クランを集めて話し合ったりもしたんだ。俺たちも、動画を配信する予定だ」
「まあ、お前さんらが動画を出すっていうなら盛り上がるよな。他にも有名処もってなると、やっぱり俺は必要ないんじゃ──」
「いやいやいや、何を言うか。俺なら観る、俺じゃなくてもお前を知っているヤツなら絶対観る。たとえ一言も発さずとも、お前がお前らしく振る舞っているだけで視聴率は爆上がりのはずだ」
少なくとも、無言でプレイしているだけでそうなるのは有名な配信者だけなんじゃ?
正直に言おう、イベントとしてやる意味があるなら別に配信ぐらいしていいとは思う。
ナックルの言う通り、最悪無言で配信して勝手に観てもらうだけならいいわけだし。
まあ、まったくの無言は俺としても飽きるので、何かやりたくなるかもしれないが。
何より、偽善を広めるのにはある意味向いているのかもしれない。
俺は別に誰にも知られずやりたいわけでもない、聖人みたいな善性も無いからな。
──が問題が一つ、忘れられているかもしれないが、俺は運営神から狙われている身。
そんな居場所がバレバレな動画配信、それこそ顔出し配信者ぐらい危険だろう。
「身バレがな……」
「ん? ああ、運営の公表だと動画配信用にアカウント名は弄れるらしいぞ。ステータスは無理でも、フレンド登録を迫られたりした場合に対策するために。機器側の方でやるらしいから、干渉はできないと思うが……」
「……うーん、そっちの方面に詳しいヤツに聞いてから、検討してみる。問題無かったらまあ、一度か二度くらい。不評ならやらなければいいだけだしな」
「! 可能なら何度でもやってくれ、当然スパチャはするぞ!」
「スパチャ? ……ああ、分かった」
スパチャ……何の略称かは分からんが、たしか金が貰えるとかそういうのだっけ?
イベントとしてやるなら、そっちも何か特別なものを使いそうだな。
だが実際にやるのかは、これから向かう先で聞ける話の内容次第。
……毎度お世話になっている分、支払うべき代償を受けてからだな。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「──うぉおおお、くらうのだぁあ!」
「ごふっ……!」
激しいワンツーのジャブによるラッシュ。
武技は使われておらず、純粋に当人の努力により磨かれた鋭い連撃の果て、渾身の右ストレートが鳩尾に撃ち込まれる。
俺もまた一切のスキルなどを使用せず、かつ能力値も最低レベルまで調整済み。
……マゾとか言わない、これを向こうが求めてきたんだよ。
トドメの一撃を受けたことで、俺の体は重力に従い床とのハグを果たす。
一方的に俺を殴っていた彼女──リオンはふーっと汗を拭い、満足気に笑みを零した。
「まあ、一割ぐらいはスッキリしたのだ」
「……今ので?」
「おぉん? ならもう少し、スッキリしてもいいのだぞ?」
「すみません、本当勘弁してください。割とキツいんです邪神様の拳は」
「……ふん、減らず口を叩けるぐらいにはまだ余裕なのだ。でも一度言ったのだ、今回はこれぐらいにしてやるのだ」
「ありがとう、ございます……」
はっきり言って、俺が彼女に行っている要求を考えると、フルボッコにされても何ら文句を言えない。
見た目幼女な彼女が任されている仕事の量は、ブラック勤めのリーマンでも裸足で逃げ出すレベルなのだ。
それでもそれをこなせるだけの力が、幸か不幸か彼女にはある。
AFOの運営処理、俺と眷属の情報偽装、世界の監視……いろいろやっているからな。
「それで、今回は何の用なのだ?」
「次のイベントで配信者的なことをするみたいなんだが……リオン、知ってる?」
「……ああ、あれなのだ。そもそもそういう祈念者用のスキルって、大抵がわれの手掛けたスキルなのだ。次のイベントで使うから再点検しろと、連絡が来ていたのだ」
「…………なんか本当、すまんないろいろ」
運営神の雑用担当のような立場にある彼女は、ただ一人の友人(神)以外の運営神からは雑に扱われている。
仕事の押し付けなんかも含まれており、ある意味そのお陰で俺たちも抗争などせず自由にやっていられるのだが……リオンという犠牲ありき、なんだよな。
「配信スキルを俺が習得して、それでどうにかできるか? 俺も参加してくれって、頼まれたんだが」
「モロにバレるのだ。それこそ、今までの作業が全部無駄になるレベルで」
「……アカウント偽装したり、情報の隠蔽とかできたりしない?」
「スキルを別に移して、アカウントもそっちと紐づけた偽装アカウントに繋げれば……いちおうできなくはないのだ。どうせ派手に動くのだ? ハァ……またリソースが減っていくのだ」
「すまん、補填はきちんとしておくから」
差し当たっては、祈念者を何人か始末しておく必要が生まれた。
合法なヤツ……動画配信内容は、シ刑系配信者かな?
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