上 下
2,518 / 2,519
偽善者とハイシン者たち 四十月目

偽善者と配信スキル 中篇

しおりを挟む


 ナックルに会ったら、配信スキルについて説明をされた。
 動画配信者が多くAFOを始める関係で、そちら関係のイベントが始まるらしい。

 そしてなぜか、俺にもその動画配信をするように依頼してきた。
 動画配信者──Vライバーたちから、目を逸らすとか何とか言っていたが……。


「俺がやる必要あるか? これ、上から頼まれたとかそういうのか?」

「いや、そういうのじゃない。ただ、少し前の新人育成以上に、確実に荒れるからな。無策で当日を迎えるのもアレだから、クランを集めて話し合ったりもしたんだ。俺たちも、動画を配信する予定だ」

「まあ、お前さんらユニークが動画を出すっていうなら盛り上がるよな。他にも有名処もってなると、やっぱり俺は必要ないんじゃ──」

「いやいやいや、何を言うか。俺なら観る、俺じゃなくてもお前を知っているヤツなら絶対観る。たとえ一言も発さずとも、お前がお前らしく振る舞っているだけで視聴率は爆上がりのはずだ」


 少なくとも、無言でプレイしているだけでそうなるのは有名な配信者だけなんじゃ?
 正直に言おう、イベントとしてやる意味があるなら別に配信ぐらいしていいとは思う。

 ナックルの言う通り、最悪無言で配信して勝手に観てもらうだけならいいわけだし。
 まあ、まったくの無言は俺としても飽きるので、何かやりたくなるかもしれないが。

 何より、偽善を広めるのにはある意味向いているのかもしれない。
 俺は別に誰にも知られずやりたいわけでもない、聖人みたいな善性も無いからな。

 ──が問題が一つ、忘れられているかもしれないが、俺は運営神から狙われている身。
 そんな居場所がバレバレな動画配信、それこそ顔出し配信者ぐらい危険だろう。


「身バレがな……」

「ん? ああ、運営の公表だと動画配信用にアカウント名は弄れるらしいぞ。ステータスは無理でも、フレンド登録を迫られたりした場合に対策するために。機器側の方でやるらしいから、干渉はできないと思うが……」

「……うーん、そっちの方面に詳しいヤツに聞いてから、検討してみる。問題無かったらまあ、一度か二度くらい。不評ならやらなければいいだけだしな」

「! 可能なら何度でもやってくれ、当然スパチャはするぞ!」

「スパチャ? ……ああ、分かった」


 スパチャ……何の略称かは分からんが、たしか金が貰えるとかそういうのだっけ?
 イベントとしてやるなら、そっちも何か特別なものを使いそうだな。 

 だが実際にやるのかは、これから向かう先で聞ける話の内容次第。
 ……毎度お世話になっている分、支払うべき代償を受けてからだな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???


「──うぉおおお、くらうのだぁあ!」

「ごふっ……!」


 激しいワンツーのジャブによるラッシュ。
 武技は使われておらず、純粋に当人の努力により磨かれた鋭い連撃の果て、渾身の右ストレートが鳩尾に撃ち込まれる。

 俺もまた一切のスキルなどを使用せず、かつ能力値も最低レベルまで調整済み。
 ……マゾとか言わない、これを向こうが求めてきたんだよ。

 トドメの一撃を受けたことで、俺の体は重力に従い床とのハグを果たす。
 一方的に俺を殴っていた彼女──リオンはふーっと汗を拭い、満足気に笑みを零した。


「まあ、一割ぐらいはスッキリしたのだ」

「……今ので?」

「おぉん? ならもう少し、スッキリしてもいいのだぞ?」

「すみません、本当勘弁してください。割とキツいんです邪神様の拳は」

「……ふん、減らず口を叩けるぐらいにはまだ余裕なのだ。でも一度言ったのだ、今回はこれぐらいにしてやるのだ」

「ありがとう、ございます……」


 はっきり言って、俺が彼女に行っている要求を考えると、フルボッコにされても何ら文句を言えない。

 見た目幼女な彼女が任されている仕事の量は、ブラック勤めのリーマンでも裸足で逃げ出すレベルなのだ。

 それでもそれをこなせるだけの力が、幸か不幸か彼女にはある。
 AFOの運営処理、俺と眷属の情報偽装、世界の監視……いろいろやっているからな。


「それで、今回は何の用なのだ?」

「次のイベントで配信者的なことをするみたいなんだが……リオン、知ってる?」

「……ああ、あれなのだ。そもそもそういう祈念者用のスキルって、大抵がわれの手掛けたスキルなのだ。次のイベントで使うから再点検しろと、連絡が来ていたのだ」

「…………なんか本当、すまんないろいろ」


 運営神の雑用担当のような立場にある彼女は、ただ一人の友人(神)以外の運営神からは雑に扱われている。

 仕事の押し付けなんかも含まれており、ある意味そのお陰で俺たちも抗争などせず自由にやっていられるのだが……リオンという犠牲ありき、なんだよな。


「配信スキルを俺が習得して、それでどうにかできるか? 俺も参加してくれって、頼まれたんだが」

「モロにバレるのだ。それこそ、今までの作業が全部無駄になるレベルで」

「……アカウント偽装したり、情報の隠蔽とかできたりしない?」

「スキルを別に移して、アカウントもそっちと紐づけた偽装アカウントに繋げれば……いちおうできなくはないのだ。どうせ派手に動くのだ? ハァ……またリソースが減っていくのだ」

「すまん、補填はきちんとしておくから」


 差し当たっては、祈念者リソース何人か始末かくほしておく必要が生まれた。
 合法なヤツ……動画配信内容は、シ刑系配信者かな?


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~

Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。 彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。 「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」 そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。 「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」 正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。 いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

処理中です...