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偽善者と決意交わる水着イベント 十月目

偽善者なしの水着イベント後半戦 その10

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「――わ、分かった! お、俺がやったことは全部謝る! だから、もう止めてくれ!!」

「……止めて、くれ? 止めてくれねぇ……お前、自分の立場が分かってんのか?」

「ひ、ひぃいい!」

 プレイヤーは現在、イベントエリアに滞在している。
 本来その枠から外れる者は無く、期間内に別のエリアに行くことは不可能……そのはずであった。

 彼らが居る場所は、イベントエリアであるがイベントエリアでは無い異相。
 話したいた二人の少年の内、片方の少年が形成した――いわゆる異空間という場所だ。

 そんな場所には現在、五人のプレイヤーがいた。

 目から鼻から色々な水を流し、先の少年に許しを請う、美丈夫であった金髪の少年。
 顔が酷く歪み、全身に殴打の跡が酷く残るガタイの良い茶髪の少年。
 右腕と左足を切り落とされて失い、両目も抉られた背の低い黒髪の少年。 
 喉を炙られて声が出せず、ただ何も無い場所を見つめる明るい茶髪の少女。

 そして、それらを全て行った少年。
 闇よりも深い黒髪を野暮ったく伸ばし、腰にはそれよりも妖しくい黒剣を拵えて、歪んだ笑みを浮かべる。
 少年は、地に這い蹲る彼らを見て告げた。

「これは復讐だ。俺は、お前らよりも優れた力を手に入れた。ゲームの中だからいい気になってんじゃねえ。正真正銘、純粋な力だけでお前たちをここまでできた。コイツはあくまで、この舞台を作るための装置だ。お前ら相手に使うのが惜しい程……最高の相棒だ」

 一瞬少年の表情が和らぐ……が、それも直ぐに元の笑顔に戻る。

「おっと、少し長めの時間が取れるとは言ったが、あくまで限りはあるからな。とっととお前らにやりたいことをやっておくか」

 そう言ってまず、金髪の少年に近付く。

「グラム。お前は自分の親を傘に着て、俺を散々脅したよな。周りにも根回しするもんだから、誰も助けてくれなかったよ」

「わ、悪気は――」

「ああ、一々説明しなくても良いことは知ってるだろう? ――さぁ、出番だ。いつものように頼むぜ」

 少年は黒い剣を引き抜き、そのままグラムに向けて突き出す。
 グエッと声を上げて呻くグラムを無視し、体の芯まで深く突き刺していく。

「"告げよ"、真実を教えてくれるよな? 俺は嘘吐きが嫌いなんだ」

「わ、悪気は無かったんだぁあああああ!」

「……はい、嘘々。質問にしようか、お前は俺を狙って苛めたのか?」

「ち、違う……がぁあああああああ! い、痛てぇえええええ!」

「もう少しマシな嘘――せめて自分を騙すぐらいの嘘を吐けよ」

 グラムは、少年が嘘だと感じた言葉を吐く度に、全身を靄に包まれ、激痛を感じる。
 そのときの痛みは、引っ掻き傷に塩が染みた際の何百倍の痛みにも感じられた。

「痛み以外で知る方法もあるけど、俺に色々としてくれたグラム君には、こうして質問するのが一番だよな。ほら、次の質問だ。お前は確か、前に俺から金を借りたよな? お前はそれを返す気があるんだよな?」

「…………」

「沈黙は金。はい、アウト」

「ぐぎゃああああああああああああああ!」

「あーあ、今までに奪った金が。ま、あとで全部返してもらうからな」

「……クッ。は、払ってやるもんか。力で脅すならお前の家族にも手を――」

「出させると思うか? 先に言っておくが、そもそもここから出れないお前が、そんな態度のまま生きて帰れる可能性は0だ」

「そ、そんなことをして、警察が黙っていないと思ってるのか!!」

 この世界にも、まだ警察機構は存在する。
 自分が脅していたことも忘れ、逆に少年を脅そうとするが……。

「なあ、『死人に口無し』って言葉、当然お前でも知ってるよな? ちょうどアッチの奴らが一言も喋ってないの、それを実演してくれているからだぞ」

 その言葉は、グラムはゾッとさせる。
 彼がこの場に引き込まれた時、既に他の者はああなっていたのだ。
 そこから考えつく答えは――。

「……お前、人を殺したのか!」

「んなわけねぇだろうが。俺はお前らのために手を汚すつもりはないさ」

「な、なら、なんでそんなことを」

「――お前らは、勝手に死ぬんだ。何か抱えきれない問題でも抱えて、何かに耐えられなくなったみたいにな」

「て、テメェ!」

「嗚呼、いつものグラムはそうやって俺のことを嬲っていたな。懐かしい懐かしい。もうこれで見納めとなると……少しだけ、寂しくなるかもな。そうだな……三秒くらい」

「……ふ、ふざけんなよ。お前が俺を殺すってんなら、俺も死ぬ気で抗ってテメェを逆に殺してやるよ!」

 ガクガクと震える足を、自身の持つ鞘に仕舞っていた剣を杖にして動かし、グラムは少年と相対するように立ち上がる。

「その剣の力は本物だろうよ。だけど、お前が強くなったなんて大法螺には騙されてやらねぇ!」

「あのさ、さっきまで俺にその剣も無しにやられてたお前が、よくそれを言うな。ま、俺としても、やる気に溢れるお前を絶望に堕とすのは楽しいから別に良いが」

「負けるわけがねぇ。――職業:奴隷なんかのお前に、負けるはずがねぇんだよ!」

 そう、少年はAFOにおいて『奴隷』という職業に就いた……いや、就かされていた。
 この場に居る者たちによって、無理矢理そうさせられたのだ。

 様々な制限を就いた者に与える『奴隷』。
 今まで彼らは、強制的に命令して少年を扱き使っていた。

 今まで耐えてきたのは、この世界で現実の復讐を果たすため。
 そして、それが今日なのだ。

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