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偽善者と決意交わる水着イベント 十月目

偽善者と水着イベント後半戦 その05

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『分かり合える? 魔と人とがか?』

「そうだな。人型の魔物だろうが、魔人だろうが獣型の魔物だろうと……話すだけの知性があれば、分かり合えるだろう。ま、人でも狂ってるなら無理だと思うけどさ」


 国民たちはそれを教えてくれる。
 初めはただ、言葉を交わせるから話そうと思った。
 言葉を交わせれば、相手の言いたいことが理解できる。
 故に、偽善ができると思っていたからな。

 そうして、魔物や人を自身の世界に招いていったのだが……気付けば彼らは、俺の想定以上に関係を深めていた。


「――それで思ったんだ。これは、あくまで閉鎖された空間だから起こったことかも知れない。だけど、確かにあったんだ。俺はそれがいつまでも続くようにしたいんだよ」

『……ね? 彼は変わっているだろう?』

『そのようだな。『茨姫』の言う通りだ』


 何やら二人の間で、共通の理解が生まれたようだな。
 確認してみたのだが、リアは笑って誤魔化すだけで何も教えてくれない。


「ま、別にいっか。それよりお前は、自分が誰かに倒された際に起こることを、全部理解しているか?」

『ああ、知っている……というより知らされた、という表現の方が正しいのだろうか』


 本題に入り、イルカにそう尋ねると……返答が返ってくる。
 それなら話が早い、どんどん進めよう。


「一応確認しておこうか。お前たちが倒された場合、二つのものが解放される――ここら辺に眠るダンジョンと、海底に縛られている凶悪な魔物の封印の一つ。合ってるか?」

『……その通りだ。故にこちらはなんとしても、それを守らねばならない。なのに……どうして祈念者たちは気付かないのだ!』

「あーうん、分からないんだよ。知らないんだよ。情報を制限されているし、お前たちの言葉は分からないから……大半の奴らは自分たちの目的のため、お前たちを殺すんだ」

『私意私欲のため、こちらは殺されるのか』

「そうそう、他人のために動く奴の方が珍しいだろ? 視点を変えれば、アイツらは英雄として扱われるんだ。自由民が討伐を考えていた狂暴な魔物を、彼らが討伐するんだぞ。おまけにもっと強い親玉みたいな魔物も倒せれば、まさに一石二鳥じゃないか?」


 戦争もそんなもんだ。
 勝てば官軍負ければ賊軍、敗者に口なし、英雄とは狂人のことなり。
 最後のヤツは知らんが、残り二つはよく知られた言葉だろう。

 意訳すれば――勝てば全てが手に入る、ということになる。
 情報だろうとものだろうと、奪うも弄るも自由なんだからな。


『それは……なんとも強引な理論だね』

「魔王が魔族の希望であるように、勇者が人族の希望であるように――そしてそれらが、対立する側からすれば恐怖の象徴であるように……誰が何をどうみるか、これが変われば崇められていた神ですら邪神扱いさ」


 地球において、そうしたことは多々あったとされる。

 神託を受けた聖女が、異端者として火刑によって処罰された。
 ある場所で『バアル・ゼブル崇高なるバアル』と呼ばれ崇められた神が、『バアル・ゼブブ蠅のバアル』と呼ばれる悪魔として扱われるようになった。
 女湯を覗いた勇者が、変態犯罪者として冷たい眼で見られるようになる。

 ……最後のは別にしても、何らかの意思の元に、別のものを蔑ろにするということは今では起き得ることなのだ。


『それで、お前は『茨姫』にこちらを守らせるのか』

「そうそう、お前にはリアを就ける。祈念者は諦めることのない集団だが、それでも勝てない場所にいつまでも執着する程馬鹿でも無いからな。綺麗に誘導されるだろうよ」

『よろしくね、イルカ君』

『あ、ああ……頼む』


 既に説明を受けていたのだろう。
 俺のあんまり意味の無い会話で呆然としているが、リアの言葉にはしっかりと返事をしている。

 要は眷属が強いから、今は・・眷属の居ない場所から攻略しようという方針へ、誘導しようとしてるのだ。
 無謀な戦闘狂集団でも無い限り、暴虐的な力を秘めた彼女たちに挑む者はいない。

 イベントの間だけでも、守り抜ければこちらの勝利だ。
 全てのレイドモンスターを守る必要は無いし、守る気も無いのだが、彼女たちが守ると決めたものぐらいは守ろうと思っている。

 リアは、このイルカを守ることを決めた。
 なら、俺も手伝おうでは無いか。


「――ま、俺のすることなんて……実際には何にも意味を成さないんだけどな。リア、何かしてほしいことは無いか?」

『……な、なら、一つだけ……君にしか頼めないことを……』


 まあ、この後はたっぷりと……ね?


◆   □   ◆   □   ◆

 イベントエリアの浜辺には、生産職の者が建てた店が幾つか軒を連ねていた。

「いらっしゃーい! うちの焼きそばを食っていかないか?」「山脈で採れた天然水から作りだしたかき氷、今なら200Yで食べられるよ!」「キンキンに冷えたラムネは要らないか~?」

 とある装備スキルを持った水着を装備して魔物を倒すと、魔物は夏の食べ物に関するアイテムをドロップするようになる。
 プレイヤーたちはそれらを使い、他の者たちに美味しいバフ付きの食べ物を売っているのだ。

 しかし、今回説明されるのはそうした小さな屋台では無く――。

「こ、これは! 美味過ぎる! なんだこの味は!!」「素材の味を極限まで生かし、それぞれが互いを邪魔しないようにできているのか!」「おいおい、どんだけバフが掛かるんだよ。これなら攻略も楽勝だな!」

「皆さん、列に並んでください!」「……順番こっつ」「ヤン、そっちの方はどう?」「そろそろできるよ」「メニューはこちらとなります」「お待たせしました、こちらが注文の品となります。はい、ありがとうございました」

 とある海の家――『庵楽』の様子である。

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