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偽善者とハイシン者たち 四十月目

偽善者と配信スキル 前篇

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 始まりの街 クランホーム『ユニーク』


 リーとの逢瀬は大変ためになった。
 迷宮を使った防災訓練(戦闘有り)なんてものをやっている割に、それでも抜け切れない生まれ持っての常識を再認識できたのだ。

 まあ、だからといって審美眼を磨くだの他者を導く者としての自覚を……なんてことにはならないのが俺の限界。

 せいぜいが、これまで以上に偽善を心掛けるぐらいだろうか。
 そんなこんなで、いつも通りにやっていくつもり……だったのだが──


「──配信スキルねぇ、メタ過ぎない?」

「こっちの自由民には扱い切れないスキルだろうな。いちおう設定として、失われた異なる世界には、それが可能だった技術は存在していた……みたいな感じにはなっていたが」


 祈念者最高のクランと名高い『ユニーク』のリーダーナックルに呼び出され、出頭した俺。
 本題に入ると語った彼が告げたのは、少々ファンタジー世界から逸れた単語である。

 機械技術も存在するし、空間を繋げるような魔法だって在りはする……のだが。
 どうやらその配信スキルとやらが、今回重要な役目を担っているようだ。


「というか、そもそも配信なんてあったんだな。少なくとも、俺が[ログアウト]できた頃には無かったはずなんだが」

「それなりに後のアップデートで導入されたぞ。祈念者の誰かが、それに関する技術を見つけたってことでアナウンスが出た……聞いてないのか?」

「俺の世界はシャットアウトしているから。迷宮に潜っている時、何も無いだろう? 対策として、[ウィスパー]なんかも特定のヤツしか使えないようにしてあるし」

「……そういえばそうだった。お陰で一度、イベントに乗り遅れそうになったんだぞ」


 迷宮好きゆえに、ソロで楽しんでいたであろうお前さんが悪いよそれは。
 まあ今は、そういった点も問題ないんだろうけど。


「奥さんに管理してもらいなさいな。あの迷宮に行ったとき以外は、問題無いだろう?」

「……あそこはいい迷宮だ。デートにも何度か、使わせてもらっている。本当に、心からの感謝を。俺たちの趣味が合致する場所が、存在するわけ無いと思っていたからな」

「探せばあるかもしれないが、まあ少なくとも未発見ではあるんだよな」


 ナックルは迷宮好き、そしてその奥さんは恐竜好きなのだ。
 だが現実にそれらがセットの場所なんて無いし、AFO内でも未発見の場所である。

 しかし迷宮を用意できる俺は、一から彼らの趣味に合わせた迷宮を築き上げた。
 ……日頃お世話になっている分、きちんとお礼(?)をしたかったのだ。

 なお、彼ら用の迷宮だからといって一切加減などはしていない。
 それでも喜んでくれたのだから、こちらとしても用意した甲斐があるというものだ。


 閑話休題ジュラシックなパーク


「って、話が逸れたな。その配信スキルがどう関わってくるんだ?」

「先日、あるVライバーの動画が注目を浴びた。メルス、お前はVライバーを見たことがあるか?」

「んー、動画は無いな。いちおうSNSやらテレビなんかで、そういう仕事があるってのは知っているけど……えっ、AFOと関係があるのか?」


 V──つまりバーチャルな動画配信者、現実とは異なる姿をしている者たち。
 ある意味、AFOを現実とは異なる姿でプレイしている者たちと同じ。

 そう、つまり今の世界にとってVライバーはさして特異的存在では無くなっていた。
 まあ、それでも俺が[ログアウト]できた頃は配信なんてできなかったからな。

 だが配信スキルが存在するならば、話は別になるらしい。
 受肉する体はAFOが用意してくれる、動きも現実を忠実に再現──完璧な環境だ。


「あるんだよ、それが。大々的な参入、これまでは個人的にやるぐらいのレベルだったみたいだが、企業としてもこっちの技術のヤバさを実感したんだろう。企業勢Vライバーがそれなりの数、AFOを始めるらしい」

「……全然知らないから興奮できないけど、まさかそいつらの育成の手伝い、あるいはそれに手を出してくる連中の排除をしろとか言わないよな?」

「そういう話なら俺も頼まん。だが、今回は全祈念者に関わる話だからな──企業勢Vライバーの参入、それを記念したイベントがあるという情報だ」

「……そのVライバー、首にならんよな?」


 もしかして、運営がイベントを発表する前にそれを言っちゃったとか?
 現実でもこっちでも、情報の早期開示はいろいろと揉めるんだぞ?


「別にそのVライバーだけが言ったわけじゃない、ただ有名な人だったってだけだ。企業ごとにそれを発表して、観ている連中がばら撒いているぞ。もちろん、その後に運営も情報を開示したし、問題無いと告知していた」

「ならいいんだが……で、単刀直入に聞くけど、俺が何かやることってあるのか?」

「今回のイベント、要はVライバーが動画配信をするための下地作りのようなものだ。これまでは触れられなかったバーチャルな存在が、自分と同じ目線で触れ合うことのできる場所に居る……どうなるかはお察しだろう」


 あーうん、というかそういうのが嫌だからこそ姿を偽る配信者もいるんだよな。
 今回はそれに同意した連中だけだとは思うが、それでも近づきたいヤツは居るのか。


「ハラスメントガードがあるし、大丈夫だとは思うが……」

「あれは肉体的接触だけだろう? しかも、あくまで性的な意識を持ったうえでの。当人が許しても、ファンが許さんだろう」

「……まあ、たしかに」

「加えて言うと、お前みたいによく分からん理屈でそれが無い連中もゼロじゃないと考えるともっと危険だな。誰も彼も、解除すべく動くぞ」

「俺のは特殊だから大丈夫だと思うが、可能性が無いわけじゃないのは本当だな……」


 本来、ハラスメントガードはどのVRゲームにも存在するシステム。
 要はエロいことをしようとすれば、防がれて最悪BANされるというものだ。

 だが俺の場合、【色欲】のスキルを持っている影響からかそれが機能しない。
 ……うん、その気になれば再起動もできるけど、そうなると眷属と触れ合えないから。


「まあ、お前のセクハラはともかくとして、対策を考えたんだろうな。で、その一環で行われるのが今回のイベントだ」

「……配信スキルのことを最初に出したってことは、まさか──」

「そう、Vライバー以外の連中にも配信をさせればいいってことだ。メルス、お前にも協力してもらいたい」


 動画配信、眷属相手にお遊びでやっていたことはあるのだが。
 正直、全然盛り上がらない……というか運営、もっとやり方があるだろうに。


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