上 下
2,517 / 2,519
偽善者とハイシン者たち 四十月目

偽善者と配信スキル 前篇

しおりを挟む


 始まりの街 クランホーム『ユニーク』


 リーとの逢瀬は大変ためになった。
 迷宮を使った防災訓練(戦闘有り)なんてものをやっている割に、それでも抜け切れない生まれ持っての常識を再認識できたのだ。

 まあ、だからといって審美眼を磨くだの他者を導く者としての自覚を……なんてことにはならないのが俺の限界。

 せいぜいが、これまで以上に偽善を心掛けるぐらいだろうか。
 そんなこんなで、いつも通りにやっていくつもり……だったのだが──


「──配信スキルねぇ、メタ過ぎない?」

「こっちの自由民には扱い切れないスキルだろうな。いちおう設定として、失われた異なる世界には、それが可能だった技術は存在していた……みたいな感じにはなっていたが」


 祈念者最高のクランと名高い『ユニーク』のリーダーナックルに呼び出され、出頭した俺。
 本題に入ると語った彼が告げたのは、少々ファンタジー世界から逸れた単語である。

 機械技術も存在するし、空間を繋げるような魔法だって在りはする……のだが。
 どうやらその配信スキルとやらが、今回重要な役目を担っているようだ。


「というか、そもそも配信なんてあったんだな。少なくとも、俺が[ログアウト]できた頃には無かったはずなんだが」

「それなりに後のアップデートで導入されたぞ。祈念者の誰かが、それに関する技術を見つけたってことでアナウンスが出た……聞いてないのか?」

「俺の世界はシャットアウトしているから。迷宮に潜っている時、何も無いだろう? 対策として、[ウィスパー]なんかも特定のヤツしか使えないようにしてあるし」

「……そういえばそうだった。お陰で一度、イベントに乗り遅れそうになったんだぞ」


 迷宮好きゆえに、ソロで楽しんでいたであろうお前さんが悪いよそれは。
 まあ今は、そういった点も問題ないんだろうけど。


「奥さんに管理してもらいなさいな。あの迷宮に行ったとき以外は、問題無いだろう?」

「……あそこはいい迷宮だ。デートにも何度か、使わせてもらっている。本当に、心からの感謝を。俺たちの趣味が合致する場所が、存在するわけ無いと思っていたからな」

「探せばあるかもしれないが、まあ少なくとも未発見ではあるんだよな」


 ナックルは迷宮好き、そしてその奥さんは恐竜好きなのだ。
 だが現実にそれらがセットの場所なんて無いし、AFO内でも未発見の場所である。

 しかし迷宮を用意できる俺は、一から彼らの趣味に合わせた迷宮を築き上げた。
 ……日頃お世話になっている分、きちんとお礼(?)をしたかったのだ。

 なお、彼ら用の迷宮だからといって一切加減などはしていない。
 それでも喜んでくれたのだから、こちらとしても用意した甲斐があるというものだ。


 閑話休題ジュラシックなパーク


「って、話が逸れたな。その配信スキルがどう関わってくるんだ?」

「先日、あるVライバーの動画が注目を浴びた。メルス、お前はVライバーを見たことがあるか?」

「んー、動画は無いな。いちおうSNSやらテレビなんかで、そういう仕事があるってのは知っているけど……えっ、AFOと関係があるのか?」


 V──つまりバーチャルな動画配信者、現実とは異なる姿をしている者たち。
 ある意味、AFOを現実とは異なる姿でプレイしている者たちと同じ。

 そう、つまり今の世界にとってVライバーはさして特異的存在では無くなっていた。
 まあ、それでも俺が[ログアウト]できた頃は配信なんてできなかったからな。

 だが配信スキルが存在するならば、話は別になるらしい。
 受肉する体はAFOが用意してくれる、動きも現実を忠実に再現──完璧な環境だ。


「あるんだよ、それが。大々的な参入、これまでは個人的にやるぐらいのレベルだったみたいだが、企業としてもこっちの技術のヤバさを実感したんだろう。企業勢Vライバーがそれなりの数、AFOを始めるらしい」

「……全然知らないから興奮できないけど、まさかそいつらの育成の手伝い、あるいはそれに手を出してくる連中の排除をしろとか言わないよな?」

「そういう話なら俺も頼まん。だが、今回は全祈念者に関わる話だからな──企業勢Vライバーの参入、それを記念したイベントがあるという情報だ」

「……そのVライバー、首にならんよな?」


 もしかして、運営がイベントを発表する前にそれを言っちゃったとか?
 現実でもこっちでも、情報の早期開示はいろいろと揉めるんだぞ?


「別にそのVライバーだけが言ったわけじゃない、ただ有名な人だったってだけだ。企業ごとにそれを発表して、観ている連中がばら撒いているぞ。もちろん、その後に運営も情報を開示したし、問題無いと告知していた」

「ならいいんだが……で、単刀直入に聞くけど、俺が何かやることってあるのか?」

「今回のイベント、要はVライバーが動画配信をするための下地作りのようなものだ。これまでは触れられなかったバーチャルな存在が、自分と同じ目線で触れ合うことのできる場所に居る……どうなるかはお察しだろう」


 あーうん、というかそういうのが嫌だからこそ姿を偽る配信者もいるんだよな。
 今回はそれに同意した連中だけだとは思うが、それでも近づきたいヤツは居るのか。


「ハラスメントガードがあるし、大丈夫だとは思うが……」

「あれは肉体的接触だけだろう? しかも、あくまで性的な意識を持ったうえでの。当人が許しても、ファンが許さんだろう」

「……まあ、たしかに」

「加えて言うと、お前みたいによく分からん理屈でそれが無い連中もゼロじゃないと考えるともっと危険だな。誰も彼も、解除すべく動くぞ」

「俺のは特殊だから大丈夫だと思うが、可能性が無いわけじゃないのは本当だな……」


 本来、ハラスメントガードはどのVRゲームにも存在するシステム。
 要はエロいことをしようとすれば、防がれて最悪BANされるというものだ。

 だが俺の場合、【色欲】のスキルを持っている影響からかそれが機能しない。
 ……うん、その気になれば再起動もできるけど、そうなると眷属と触れ合えないから。


「まあ、お前のセクハラはともかくとして、対策を考えたんだろうな。で、その一環で行われるのが今回のイベントだ」

「……配信スキルのことを最初に出したってことは、まさか──」

「そう、Vライバー以外の連中にも配信をさせればいいってことだ。メルス、お前にも協力してもらいたい」


 動画配信、眷属相手にお遊びでやっていたことはあるのだが。
 正直、全然盛り上がらない……というか運営、もっとやり方があるだろうに。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...