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偽善者と決意交わる水着イベント 十月目
偽善者と水着イベント後半戦 その03
しおりを挟むとまあ、ネロがダンジョンを守護していたことからも分かるように――今の俺は、一部のみだがダンジョンボスを派遣するお仕事をしていた。
一番重要な個所はそこでは無いのだが、プレイヤーが気付いている中で最も攻略する意義のある場所はあそこである。
なので、みんなのマットサイエンティストことネロに、あそこの守護を頼んだのだ。
……だと言うのに、まさかプレイヤーを実験材料にしているとは。
まあ、プレイヤーを実験台にすること自体には何の問題も無いわけだが、物にも限度があるという言葉を捧げておこう。
被害に遭ったプレイヤー、ちょっと心が病みかけてたんだからな(偽善者が丁寧に修繕しておきました)。
ネロの被害者には黙祷をしておくとして、今イベントにおいて、眷属たちはあらゆる場所へと進行している。
それは、ダンジョンの中かもしれない。
それは、フィールドの外かもしれない。
それは、安息の地の近くかもしれない。
それは、狙いの魔物の傍かもしれない。
――と、いうわけで今回の俺は出番は無しである。
細かいことは眷属に任せておいて、少し暇になった眷属を癒す作業に集中するよ。
「……ん? 確かあの場所には……よし、最初はそこに行ってみようか」
何処に向かおうかと考えていると、ここからそう遠くない場所でレイドモンスターとプレイヤーが戦闘をしているのが確認できた。
物見遊山の気分だが、早速観にいくことにした俺である。
◆ □ ◆ □ ◆
「しかし、こんな所に現れるのかよ」
「……多分」
「多分!? おい、確実な情報なんじゃねぇのかよ!?」
「どうせ俺たちじゃダンジョンの攻略はできないんだし、近くの雑魚でも倒そうぜ」
「でもさ、ダンジョンってまだ全部が開放されてるわけじゃないんだろ?」
「らしいな。別のダンジョンを踏破したら開放されたヤツとか、一定数の魔物を討伐するとか、自由民の奴らから聞くと開放されるとかあるらしいけどな」
とある男たちが、静かな砂浜を歩く。
踏み行く砂は煌びやかなガラスのように輝き、波打つ海は水晶のように澄んだ場所。
彼らは、そんな地に現れるとされるレイドモンスターの一体――晶子鯆クリスタルドルフィンを討伐するため、この地へとやって来たのだ。
「確か、攻撃を喰らうとすぐに逃げるんだっけか?」
「そうそう。鳴き声を一度上げて、それからこっちが攻撃すると逃げるんだ」
「……それって、プレイヤーと話そうとしてただけじゃねぇのか? ほら、イルカって賢いんだろ?」
「そう思って(魔物語理解)を持ってる奴が話そうとしたらしいんだが、結局何にも分かんなかったらしいぞ。だから、それは対話の意志じゃ無くて戦闘の意志。そう考えておけばいいんじゃないのか?」
男たちはそう言いながら、砂浜を踏み躙って進んでいく。
――だが、このときはまだ知る由も無かったのだ。
世界最強の存在、その眷属が目的地に居るとは……。
「ここが……『燦護の入江』なのか……俺でも綺麗だと感じられるぞ」
「お前、そういうの疎いしな」
「うっせー」
不思議な色を放つ珊瑚が、その場所には点在していた。
珊瑚が海を円状に囲ってできたその場所には、未知の輝きが満ちている。
その幻想的な光景は、芸術に興味を持たない男たちにも『美』を感じさせる程だ。
しかし、これから彼らが行おうとしていることは、その地を穢そうとする行いである。
――故に、ソレは動いたのだ。
『また、祈念者が来たのか』
「おい、鳴き声が聞こえたぞ! 全員、攻撃準備をしろ!」
海の中から、キューキューと生き物の鳴き声が聞こえ始める。
それを耳にした彼らは、自身の魔法や武器で臨戦状態へと移行する。
そしてそれを、ソレは嘆いていく。
『……やはり、言葉は届かないのか。こちらはただ、この地を守りたいだけなのに。何故こうも上手くいかないのか』
「来るぞ、来るぞ……来たぞ!」
『仕方が無いか。この地に自分を結び付ける呪縛が外れぬ今、相手を追い出すしか選択は無い……帰ってもらうぞ』
「やれ、一気に殺すぞ!」
彼らとソレ――クリスタルドルフィンの戦いが幕を開けた。
(……こ、こんなはずでは……)
「さ、さすがトウリョウさんっす! 俺達だけじゃあ絶対に負けてました!」
「気にするな。コイツを倒せば、この先にあるダンジョンに行けるようになる。これはプレイヤー全員が目指すことだ。助け合うのは当然だろう」
「あ、あざーす!」
(クッ、他の者たちに救援を求めるわけにはいかない。だけど、このままでは……)
クリスタルドルフィン――以降イルカ――は悩んでいた。
戦闘中に新たに加わったプレイヤー達、巨大な金槌を振り回すプレイヤーに連れられたパーティーによって、有利に進んでいた戦況は翻って危機へと移っていたのだ。
トウリョウと呼ばれた男が、先程まで烏合の集であった者たちも統制し、イルカを追い詰める結果を生み出したのだ。
既に体はボロボロになっており、力を十全に振るうこともできない身になっている。
それでも必死にプレイヤーたちに戦いを挑むその姿は、子を守る母のようでもあった。
「では、そろそろトドメを……いや、救援が来てしまったか」
(……え?)
もう自身の命を賭すしかない、そう思った瞬間――周囲の地形に変化が起こる。
珊瑚から緑の柱……いや、茨が伸び始め、プレイヤーとイルカ、そして入江全てを囲んでいく。
プレイヤーとイルカが戸惑う中、茨の一部が螺旋階段のような形状に変化し、そこから一人の少女がゆっくりと降りてくる。
「――そのイルカを殺すのは待ってもらえないかい? 君たちがダンジョンを開放するのは、もう少し後にしてほしいんだ」
「……誰だ、お前は」
スラッとした体で男物の黒いタキシードを着こなして、日照で輝く銀髪を括る男装の美少女は、囀るように彼らに向かって――こう告げた。
「ぼくは――うん、『茨姫』だよ」
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