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偽善者と決意交わる水着イベント 十月目
偽善者と水着イベント後半戦 その01
しおりを挟むつまらないジョークで締めてから、数日が経過した。
既に水着イベントの前半戦も終了し、今では後半戦が本格的に始動する前の、いわゆる準備期間的なものへと移っている。
……ああ、前半も色々あったよ。
要約すると――釣りやキャンプ、水着によるファッションショー(by眷属)。
どれをやってもトラブルばかりであった。
俺の運の無さ……というより凶運の酷さがそれを起こしていたのかもしれないが、その結果手に入れられた物も沢山あったので、いい思い出として記憶している。
さぁ、そんな細かく一日ごとに説明していたら描き下ろしになるんじゃ!? ぐらいの思い出は一先ず置いておいて、今は後半戦の説明でもしておこう。
後半戦はずばり――レイドバトルだ。
イベントが始まると、イベントエリアの何処かに何体かのレイドモンスターが現れる。
プレイヤーたちは、水着を装備して海中に潜む強敵たちに挑むのだが……普通に挑んでも、全然勝てない設定になっている。
何故なら、驚異的な回復力や圧倒的な攻撃量、そして一定ダメージ以下の攻撃を無効化する障壁を有しているからである。
他にもレイドモンスターが圧倒的に有利な能力を幾つか保持しており、言うなれば負けイベント確定状態なのだ。
これを解決するための方法が用意されているからこそ、恐らくこのイベントは盛り上がると思うぞ。
島や海の何処かに眠ったダンジョンを攻略することで、レイドモンスターの持つ能力を封印できるのだ。
ダンジョンの難易度によって封印できる能力は変わるが、一番簡単な、それこそ初心者限定ダンジョンであろうとも、レイドモンスターの防御力を割くのに一肌脱いでいた。
……ただ、装備破壊:女性水着があるとされるダンジョンは、常時男性のプレイヤーが攻略されないように、見張りをしていただかしていなかっただか。
まあ、要はダンジョンを攻略して弱らせてからレイドモンスターを討伐する――それが今回のイベントなのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「……例の準備はどうだ?」
『ふっふっふ、とっくにできているよ』
何も無い白い空間で、一組の男女が密談を行っていた。
男にも女にも何故かノイズのような物が絡みついているため、その場に誰か他の者が居ようとも、恐らく正体に気付くことは無い。
――まあ、俺とフーカだけどさ。
扇風機の風を浴びながら、アーアー遊びつつ会話を続ける。
『流石にレイドモンスターの書き換えまではできなかったから、封印の条件の方を弄らせてもらったよ……これであの能力だけは延々と、モンスターたちの中で輝き続けていられるはず』
「ああ、やはりアチラもそれなりの策を用意してあるということか。まあ、自分の傑作を穢されるわけにもいかないのか」
『メルメル、わたしはあくまで頼まれた分しかやらなかったけど……全部しなくて良かったの?』
「仕方ないだろう。それが問いに対する答えだったんだから。俺はそれを尊敬するし、邪魔するわけにもいかない。救いの手を伸ばせるのは、助けを乞うた奴だけだよ」
『偽善者も大変だねー』
「そうそう、一度は救われないものさ」
『ふふっ。本当に、メルメルは大変だねー』
いや、そうでも無いのかもな。
そう答えようとしたが、それはそっと心の奥底に仕舞い込んだ。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「それで、今の状況は?」
「……少し待て……」
イベントエリアにある島の何処かで、二人の男が密会を行っていた。
そこは断崖絶壁の崖であり、荒れ狂う波が常時彼らに飛沫を吹きかけている。
どちらも外套を身に纏っていて姿を見ることはできないが――片方はその姿が陽炎のように歪み、もう片方は腰に黒い意匠で拵えられた剣を下げていた。
「……『弓』はダンジョンを即席パーティーで巡っているらしい。『剣』は大衆の中で侍らせている。『盾』と『杖』はレイドに参加中だ……」
「『十字架』は」
「……ログアウト中だ……」
「そうか。アイツにも言いたいことは幾つかあったが……まあ、それは今でなくても問題ない。それより、今はアイツらとのけりを付ける方が先か」
剣の男の感情に呼応して、腰に下げた剣は黒い靄のような物を周囲に漂わせていく。
「お前のことも忘れていないさ。お前が俺に力を貸す限り、俺もまた、お前のために協力しよう」
「……それが、魔剣か……」
「呪われた装備、だけどな……悪かったよ。俺はちゃんと、お前に感謝しているさ。だけど、客観的に見ると……な?」
「……すぐに行く気か……」
「いや、悪役ってのはなんでも最後に出てくるのが一番だろ。アイツらのことだ、俺を見ても舐めプしかしないだろうし、俺の味わった分をそのまま……いや、それ以上にして返してやるのが日本人って者だろうよ」
魔剣と呼ばれた剣を握った男は、そう言って……ニヤリと嗤った。
◆ □ ◆ □ ◆
「(もしもーし?)」
【……『復讐者』は予定通り。魔剣の状態も確認済み……】
「(へー、覚醒していたか?)」
【……はい、念話では無く口頭での会話でしたが……】
「(俺側で、やった方が良いってことは何かあるか? 最も強い感情か、突然正の感情を混ぜ込むのが面白いと思うんだが)」
【……でしたら、『十字架』の少女を惨殺場に締めで送るのが宜しいかと……】
「(なるほど……参考にしてみるよ)」
【……では、これで……】
◆ □ ◆ □ ◆
様々な思いが交錯する今イベント。
プレイヤーは、イベントに力を籠める。
偽善者は、守るべき誓いを立てる。
復讐者は、憎悪に満ちた報復を行う。
一つ一つが純粋な、そして強い思いで築かれた願いであった。
それがもし、重なった交わったならば――
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