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偽善者と開かれる新世界 九月目
偽善者と五回戦 その04
しおりを挟む野郎の心象風景の描写はカットする。
別に剣が突き刺さった荒野でも、空に歯車があったり赤い空が広がっているわけでも無かった。
ただただ、『物真似』の中に存在する欲望と起源があり、それを構成していたのだ。
そんな中、異物が二つ存在していた。
一つは俺、まあ侵入者だからな。
もう一つは……なんか良く分からない靄みたいな奴だ。
剣を装備している姿から見て、あれが侵蝕したスキルと魔剣なんだろうか。
「えっと、初めまして? 早速だが出て行ってもらえないか?」
『テメェは居心地の良い場所をいきなり追い出されるとき、黙って明け渡すのか?』
「……つまり、抵抗すると」
『貴様がどうやってこの場所に来たか、私には分からないだろう。だがそれでも、力を振るうのに理由は要らない』
あ、関係無いけど、今喋ってる靄は声が二重になっている。
『テメェ』と言った方が多分スキルの意志で、『貴様』と言った方が魔剣の意志だと思われた。いや、なんとなくだがな。
『そうさ、俺は全てを奪う。技術も過去も思いも全て! テメェは黙って俺に全てを寄越せばいいんだよ!!』
『私の起源は暴くことにある。痛めつけ、泣き叫ばせ、最後に掴むのは情報だ。それが転じて魔剣と化してしまった今……私は、世界全てを識り尽くす義務があるのだ!』
……うーん、スキルの方はもうどうしようも無いからスルーなんだけど、魔剣の方は少し面白そうだな。
多分、拷問で使っていた剣が魔剣になったみたい(描写はしなかったが、ロングソード型の魔剣だ)。
能力は……痛覚を増幅させるのと、情報を吐きださせ易くするもの。
あとは、心が折れた奴のステータスを強制開示させるってヤツか。
「(おいおい、欲しくね? あの魔剣、色々と便利そうなんだけど)」
《ステータスの強制開示ですか……格も無い魔剣には、少々丈の合わない能力で》
「(もう(再現武装)で複製は可能にしてあるけど、可能性が無くなっちまう。なら、本物を持って帰った方が良いよな?)」
《……ハァ、どうぞご自由に》
いようしっ! 許可も得たぞ!
これで魔剣をテイクアウトしても、怒られなくて済む。
「……俄然やる気が湧いてきたな。お前ら、アイツはここに居ないのか?」
『ハァ? 何言ってやがる。マトリョーシカじゃねぇんだ、それに、あんな寄生主でしかねぇ奴がここに入れるワケねぇだろ』
『アヤツは仮初の主だ、真の契約を果たしていないアヤツに、私を認識することもできないのだ』
「へぇ、色々と事情があるんだな……別に関係無いけど」
再び『無槍』を構え、靄へと突きだす。
靄もまた、剣を構えて俺に向けてくる。
奇しくも外の展開と似たようなものになったが、こちらの方が強く嫌な予感を感じる。
一度距離を取って、防御の構えを取る。
『おいおい、寄生主と同じように勝てると思うなよ? アイツは俺の力を完全に使いこなせてはいない、当然だろ? 俺の力は<大罪>にも通じるもんだ、俺自身じゃねぇと完璧に使えねぇよ』
『……コヤツならば、私の過去を探って正しい使い方が理解できる。アヤツと同じようにいくとは思わない方が良いぞ』
「知らないな、俺とコイツならどんな敵でも超えられる。お前達にはここの寄生主から出ていってもらうぞ」
『……チッ、ウゼェなテメェ。そんなに出ていってほしいってんなら、力尽くでやってみろよ!』
『貴様のその意志があるならば、私のここ以上の住処を提示してみろ。少なくとも、今はこの場所だと決めているのだ』
「ハイハイ、分かった分かった。スキルの方はねじ伏せる。魔剣の方はちょっと待ってれば直ぐに分かるぞ」
そう言うと、誰も知ることの無い真の決勝戦が始まった。
◆ □ ◆ □ ◆
『無槍』の説明を続きをしよう。
虚実の極みとも言えるこの槍に、一つの固定概念を当て嵌めることはできない。
俺が認識をすれば槍は現れ、俺が認識を無くせば槍は消え失せる。
更に言えば、担い手が居なくとも、槍は自在に動くのだ。
俺が握っていると認識さえすれば、何処であろうと槍は俺のイメージのままに振られてくれる。
そもそも槍とは、紀元前から存在する武器であり、人類が知恵を得たばかりの頃から使われてきた、白兵戦で最も活躍した実用的な武器の一つだ。
現在では種類は幅広く存在し、派生品も含めると数は百を超える。
また、伝説や神話も数広く存在し、神殺しや創生を果たした槍や英雄が使ったとされる槍もある程だ。
そのため、この槍はその全てに通じるだけの能力を持てせ……ようとしたのだが、さすがにそれは不可能だと思われた。
「……ええ、私もまさかできるとは思ってもいませんでした。この槍は、全て家族の協力によって誕生した物だと今でも考えてます」
槍を創り出した者は、後にそう語った。
全ての槍に通じ、あらゆる伝承を一本の槍で再現する。
――それ即ち、世界に存在する全ての槍を敵に回すということであった。
◆ □ ◆ □ ◆
「――俺の動きを真似ようと、『無槍』の動きは読み切れない。そして『無槍』の動きは見えないから、お前たちに勝ち目はない」
『……ま、まだだ。俺は、後少しで<大罪>の一柱に……』
「おいおい、大罪ってなんだ。【傲慢】にも【強欲】にも【嫉妬】にもなれねぇよ。精々『猿真似』でも名乗るんだな」
『テ、テメェエエぶっ――』
「はい、終わり。安心しろ、お前の遺志は別の形で残しておいてやるよ」
槍の形状を十文字の形にして、靄の首の辺りを引き切った。
形の定まらない靄なので首が落ちるということは無かったが、一時的に動きを止めることに成功する。
その間に頭(だと思われる箇所)に手を突っ込み、色々と仕込んいく。
「……ふぅ、これでよし」
『私には、何もしないのか?』
「ああ。お前さんには、俺と共に来てもらうからな」
魔剣は俺の答えに疑問でも感じるのか、更に質問を重ねる。
『貴様のような者に私の力は必要無かろう。アヤツは気付かなかったが、貴様からは魔具とは言い難い魔の力が感じられる』
「おお! 誇って良いぞ、アイツらの偽装は普通の奴には気付けないはずだからな」
魔武具だからな、しかも『物真似』が求めた<大罪>の力で誕生した代物だし。
それに気付ける、それだけで魔剣に価値が見出せるぞ。
「だがな、それとこれに因果は無い。俺はお前を必要だと思うし、契約をしたいと思っている。出自や能力なんて関係無い、ただその可能性を見届けたいんだ」
『……本当か?』
「お前はお前のやりたいようにやればいい、俺はお前に何かを強制する気は無いし、共に居てくれさえすれば構わない。……ただ、俺の手を取ってほしいんだ」
『…………分かった、ただし仮の契約だ。その後どうするかは、私が決める』
「よし、ありがとうな」
『私を握れ、それが契約の始まりだ』
魔剣の柄を握り締め、魔力を流す。
すると、世界は再び変化を起こし――
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追記
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