546 / 2,519
偽善者と開かれる新世界 九月目
偽善者と迷いの森 その02
しおりを挟む『クッ、殺せ!』
「うわー」
『幾らなんでもベタ過ぎるだろ……』
鎖の先には、恥辱に顔を真っ赤にした森人の姿があった。
俺たちの方を酷く恨めし気にキツく睨み付けて、強烈な殺気を放っている。
そう、このシーンはまさにクッ殺エルフ的なヤツなのだろう。
主人公に出会ったエルフが最初はそんなことを言っておいて、最終的には永遠の誓いをしたり、その剛直な一本の剣……いや、棒によってあっさりと屈服したりな。
だが、そんな展開は今回に限って……というかこの先も、この森人とは起こらないだろうよ。
だって――。
『メルス、ここでクッ殺エルフにここまで期待ができないことってあるんだな』
「あぁ、俺もビックリだよ」
『おい、貴様ら! 大人しくこの鎖の拘束を外すんだ!』
「いやー、萎えるねー。俺もさ、モブとはいえある程度この展開を求めていた筈なんだけどな。でも、ここが俺と主人公との圧倒的な違いなんだろうか。運が無いのか?」
『……いや、今までの所業からして、お前にそのセリフを言う資格は無いからな』
『貴様ら! こそこそと話す暇があるなら、早くこの俺に謝罪して鎖を外すんだ!』
「いやー、まさか男に言われるとはなー」
うん、この一言に尽きるな。
捕まえた森人は男、クッ殺を言ったのも当然その男の森人……萎えるねー。
一度も使ったことのない息子もそうだが、いつものテンションゲージまで、ガクッと下がっている気がするよ。
「お前さん、一体どうして何の確認もせずに旅人を殺そうとしたんだ? お前さんらの種族って、そんなに野蛮な種族だったのか?」
『――ッ! そんな筈があるか! 我らは誇り高きルナの血を継ぐ一族であるぞ!』
「ルナ? ……あぁ、月か。例え昔のお前たちのご先祖様が優れていようと、それがどうして今のお前達の評価に関わるんだ? 俺がこれから知るのは今のお前たちであって、大昔の偉人様じゃないんだぞ」
『だ、黙れ! さっさと解け!』
思考停止か。
少なくともこいつを基準に考えたら、この種族はその内滅ぶって思えちゃうな。
「カナえもーん、こんな時はどうすれば良いのー?」
『……メル太君、こんなどうでも良い状況でだけ頼らないでくれよ』
カナえもんは冷たいな。
というか、ほぼ全ての◯◯えもんが力を貸してくれないじゃんか。
そんな風に心でツッコミを入れて和もうとしてたのだが――。
『おい、そこの穢れ! さっさとこれを外させろ……って、な、なんだ貴様』
「黙れ。お前は今なんて言った」
『き、貴様が俺の拘束を解くつもりが無いのだから、そ、そこにいる穢れを代わりに動かそうとしただ――ッ!!』
突然体を硬直させる森人。
おいおい、まだMPは全然解放してないんだぞ。
それに……俺はもう少しやりたい気分なんだがな。
「幾らでも、俺を貶すことを言うことは構わないぞ。眷属はそれを否定するが、俺が最底辺のカーストを徘徊するただのモブであることは自明のことだからな。だけどさ、カナタはそうじゃないだろ? お前が言っているその言葉が、多分種族的な視点から生まれた侮蔑の言葉だというのは分かっている。だけどさ、どうしてそれを俺が聞き逃さなければいけないんだろうな。それがお前だけが考えているのか、はたまた種族全部が思っているかは分からないが……次にそう言ったら俺は自分を抑えられない気がする。分かってくれるよ……な?」
主人公って凄いよな。
全ての人々に、平等に友愛を注ぐことができるんだから。
俺には無理だし、する気も無いや。
眷属という家族を貶されただけで、暴走寸前にまで【憤怒】が発動してしまう。
効果で俺のステータスの所々が上昇し、怒りと共に放たれる魔力が増幅していく。
……穢れ、穢れねー。
ダークエルフが堕落した証、的な設定でもあるのかね?
運営も今時、そんな面倒なもの引っ張って来るなよ。
カナタのどこに穢れがあるって言うんだ。
陰陽師でも連れてくれば祓えるのかよ?
「もう、絶対に言うなよ……ってのはどうせ無理か。そんな強制はむしろお前が裏で呟くための免罪符になるしな。鎖は外すし、お前が俺たちに全面的に協力してくるなら、今回のことも許してやろう」
『条件……』
「お前らの住処に案内するだけだよ。お前らの親玉に直接訊けば、大抵の悩みは解決するだろうさ」
『ふざける――ッ!!』
「あのさ、お前に選択の権利があると思っているのかよ。これはそう銘打っただけの強制イベントだぞ? お前が正しい選択を選ばなければ、残る未来はバッドエンド――終わりだけだからな」
尋問にも、薬やスキルなどの選択肢が存在するし……。
一応の偽善者としての優しさが、そうした【希望】の選択肢を残してやっているんだぞ。
ちゃんとそれを選んでほしいものだ。
『……わ、分かった』
「お、ありがたいな。早速これは回収しておくぞ。――はい、これでオッケー。あ、俺はメルスって言うんだ。この森を満喫してから西に行こうとしている旅人だよ。あ、こっちは相棒のカナタな」
『……その相棒のカナタだ』
『…………イアス』
「そっか、よろしくな。イアス」
偽名かも知れないが、呼ぶだけならばそれでも構わない。
(鑑定眼)を使えばその真偽も直ぐに分かるけど……ま、これからどうなるか分からない場所に住む奴の名前は覚えなくても問題無いよな。
そしてイアスの案内の元、俺たちは霧に包まれた森の中を進んでいった。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる