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偽善者と開かれる新世界 九月目

偽善者と赤色の世界 その10

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 やっと地に足を着けることができた。
 これこそ、船酔いをする人が陸に上がった時の気分なんだろうか。
 空中での速度制御を行わなくても良くなった今、(限界突破)を解除しても平気でいられるぞ。

 魔力は何処からか漂い続け、地面には立てたが目的地が分からないのが現状だ。
 何処から魔力がやって来たのかが分かればいいんだが、やっぱり拒絶の意思によって全く判明していないよ。


「……って言っても、<八感知覚>の大部分は機能しないから探せないんだよなー。やっぱり、困った時は分析本能凶運に任せて歩いてみるのが一番かー」


 感は状況を見ての捜索、勘は俺の眠れる野生の力を使った捜索、勘は……もう適当な捜索だな。
 野生にはあんまり縁の無い一般ピーポーな俺に、二つ目はあんまり関係無いのだが……スキルとして(直感認識)があるし、多分どうにかなるだろう。


「さぁ、どこにいるのかなー?」


 鞄も机も無いので見つけにくいとかそういうレベルの話ではないが、きっとどこかに居るだろう。
 そんな不思議なことを考えながら捜索を始めていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 結論から言おう、かなりの時間が掛かったが発見された。
 ここに『無事』という単語が入っていないのには、少々ワケがあるが……。


「うーん、次はどうやって開けようかー」


 俺の目の前には、真っ黒な球体が地面すれすれに浮かんでいる。
 濃密過ぎる魔力が形を成した強固な壁なのだが、これが全くと言っていい程に破壊できない。
 まぁ、そこから未だに漏れている魔力の吸引も行っているので、演算処理の必要な強めの技は使えないんだけどな(制御しないと中に居る奴に、どんな影響を与えるか分からないし……)。

 おまけに、黒い球体自体にも封印が欠けられている。
 これは人類がどうにか頑張ったって証拠なのか?
 解除しようとすると、今まで抑え込んでいた魔力全てを解放し、全てをリセットしようとするという卑劣な仕掛けを確認できる。

 なので、破壊からの"夢現返し"という王道パターンもできずに困っているのだ(さすがに膨大な魔力ごと消すのは難しいんだよ)。


「せめてこう、爆弾処理みたいに答えのある問題にしてほしかったよ」


 あれは基本的に、雷管と呼ばれる小型の爆弾に繋がるコードを切れば止まるという簡単な仕組みだ。
 雷管が爆発さえしなければ、メインとなる爆弾の方も爆発しないんだからな。

 だが、俺の解除しようとしている封印の場合は、そのコードに触れただけで爆発するという鬼畜仕様だ。
 現実的な爆弾処理法(凍結・遠隔処理)も不可能だし……本当にどうすれば良いんだ?
 ん? 雷管って確か、火薬があるから爆発するんだよな――当然だけど。


「なら……火薬を抜けば、良いのかな?」


 束ねていた"不可視の手"を再び細かい素の状態に戻していく。
 その数は、司教様を遥かに超える――正にムゲン●ザ●ハンド状態になっていた。
 そして、見えたならばSAN値直葬間違いなし! な感じで、それらは一気に黒い球体にしがみ付くように張り付いていく。

 俺は両手を(それとは別に生み出した)穴の中へと突っ込み、作業を行い始める。


「なんだか最近、色々と無茶をしている気がするなー。……ま、別にいっか。それより今は、一気にやる――"奪魔掌"!」


 膨大な量の魔力が魔手を通じて体内を掻き回していく。
 回路が、脳が、腕が、脚が、心臓が、体全てが……その暴力的な力の奔流に悲鳴を上げて壊れていく。

 そうして体を壊す魔力は、破壊された回路と腕を通じて穴の中へと送られていく。
 穴の先は虚空へと通じており、理論上はこの空間に存在した魔力全てを溜めて置くことが可能であった。

 ……それをやらなかったのは、そこに他人の魔力を送るのが命懸けだからだ。

 人造魔石の場合、集束させて詰め込むだけで完成した。
 だが、虚空は魔力とは異なる絶大なエネルギーを扱う<虚無魔法>のための空間である。
 幾ら濃密な魔力とはいえ、あくまで魔力は魔力だ。
 虚無エネルギーへと変換しない限り、その力を虚空へと納めることは不可能であった。


(しっかし、やっぱりこうなるよなー。でも一度にやらないと爆発するワケだし、俺も死ぬワケじゃないし……おーるおっけーだな)


 ひらがな表記なのは当然、全く言葉に感情が籠もっていないからだぞ。
 絶賛自壊中だというのに、どうすれば問題無しなんて言えると思うんだよ。

 体の中に封印に使われている魔力全てを取り込み、それを体内で虚無属性の魔力へと変換していく。
 そして、それを再び体内を通じて虚空へと送り出す。

 加えて、封印の術式を消滅させる作業も同時に行っている。
 魔力を回収する作業を雷管から火薬を抜く作業に例えると、これは本体の解体処理として例えられるな。

 魔力が封印されている者を供給源として生成され続ける限り、封印は半永久的に発動する――そんな厄介な術式は、人類の汗と涙が籠められた特殊な石によって発動している。
 俺もその石を持っているのだが……詳細は省こう。

 そんな石の中に記された術式の核部分を見つけ出し、"魔法破壊"でぶっ壊そうとしているワケなんだよ。


(肉体損害……死亡級、賢者の石……術式確認。"魔法破壊"を発動……賢者の石の機能停止を確認。肉体修復……<物質再成>を発動して修復。みたいな感じだな。お兄様風の小難しい単語はやっぱり似合わないな)


 ちなみにだが、さっき言ってた石は『賢者の石』だぞ。

 この世界では万物の変換機能を持っているので、人類はそれを利用して封印を作ったみたいだ(封印された者の意と反して、魔力を封印の核に変換していた)。

 術式云々といえば、お兄様だよな。
 あれは術式を保存できるって設定だったけど、これもそんな感じのことができる。
 ……便利過ぎるだろ、賢者の石って。


 そんな賢者の石に刻まれていた術式を破壊すると、魔力が一気に俺の元へと飛び出してくる。
 ……あ、封印関係無く魔力が溜まっているの、忘れてた。

 急激に増大した魔力に耐えることもできずに、俺はお空の彼方へ吹っ飛ばされた。


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