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偽善者と開かれる新世界 九月目
偽善者と赤色の世界 その09
しおりを挟むそれから先は頭の損傷があまりに激しいものになったため、今の俺は魂を分離した状態にならざる負えなくなった。
抜け出した魂から一本の線を体に繋ぎ、そこから体を動かしている(有線ケーブルだ)。
それならば、巨大魔手を操作しても俺の魂が傷付くことが無いからな。
<物質再成>を定期的に発動させつつ、ゆっくりと魔力の壁を消して進んでいく。
<八感知覚>に反応は無く、未だに封印されている者は発見されていない。
体を持たない存在であろうとも、魔力の感覚ならば見つけられる筈なんだけどな~。
まだまだ深い場所に、その者は居るということだろうか。
現在の俺は、最初の地点から約1km下の辺りにいる。
それでもまだ見つからないって……どれだけ深い所なんだろうな。
魔力に意思を籠めれば、周囲を暗くするぐらいならできるだろうし、闇に溶け込んで紛れている、という考えも捨てがたいけどな。
(――おっと、交換の時間かよ。折角大きくしたのに、これでも足りないのとか……どんだけだよ)
そうした更に下へと潜っていると、巨大化させた筈の石が飽和状態になっていた。
理論上、MPが一億は入る筈なんだが……どれだけの間、封印されていればそんなに魔力が貯まるんだろうな。
巨大人造魔石を"収納空間"に仕舞い、複製しておいた同じ石を巨大魔手に持たせる。
(もう少し大きくしたいけど、これ以上は本当にヤバいしな~)
今でさえ、体が悲鳴を上げることも無く破壊されているのだ。
もっと作業を増やしたら間違いなくただでは済まない。
なので、同じ大きさの物を使う必要があるのだ。
再び石を持った魔手は、俺の意思に沿って動いていく。
魔力の濃い部分に進み、その魔力を収束させて吸い上げる。
更にそれが溢れて暴走しないように、循環するように力の流れを制御する。
……どれもこれも面倒な作業だよ。
(えっと……これで八個目だっけか?)
再び石が人造魔石(魔力満タン)になり、新たな石と交換する作業を行う。
それが複数回行われた結果、俺が進めたのは5km程である。
一体、どれだけ深いんだろう……と思いたいのだが、ただ魔力が濃密になっていることで底が見えないだけな気もする。
(よし、九個目開始!)
巨大魔手は石を握り締め、また空間内の魔力を掻き集めていく。
すると――
(おっ、もしや……"暗視"、"千里眼")
二つの(神眼)を起動させて、下の覗いて視ると……遂に、地面が確認できた。
底はまだまだ遥か下の方なのだが、それでもゴールが見えただけで、やる気が湧くってもんだ。
慣れてきた作業の大半を直勘で行い、新たにもう一つ巨大魔手を生み出して同じことを行わせる。
移動系統の動作は手動なのだが、集束系と調整系は同じようにやればどうにかなりそうだしな。
(……って、血が! 血が出てるよ! 俺の体ってどんだけ脆かったのさ!)
処理能力が悲鳴を上げ、今まで抑えられていた血液が溢れ出していく。
今までの動作で70%の脳処理をしていたとして、先程直勘に切り替えたことでそれらは40%にまで落ち着いていた。
なので、似たような動作をそちらと連動させて行えば、50%ぐらいで収まるかな~っと思ってたんだが……120%の処理能力が必要みたいだ。
緊急で(限界突破)の一部を発動し、脳の性能を一時的に引き上げる。
それによって120%の処理能力を獲得し、どうにか目から流れた血は収まった。
<肉体操作>……は、処理が無理か。
代わりに(氣魔直接操作)で体内に直接回復系統のエネルギーを循環させて、体を内部から癒していく。
……眷属達なら、『体交法』を試そうとか言ってきそうだが、生憎俺は『神交法』派である。
エネルギーの循環が体に良いとしても、間違いなく『玉女採戦』になること間違いなしの未来しか視えないのに、それを行う必要は無いな。
(なんということでしょう。二つの石が働くことで、今までは見ることのできなかった地面が覗けるようになりました……って、実はここ、冥界か根の国なんじゃないのか?)
確かに魔力が少しずつ減っていき、降りるべき場所は分かるようになってきたんだ……なのに、どうしてこうも昏いんだろうか。
何だか嫌な予感がして(死霊眼)と(魂魄眼)に神眼を切り替えると――まぁ、何ともおどろおどろしい光景が、視界いっぱいに広がっているではありませんか。
魑魅魍魎に悪鬼羅刹、悔恨の念を持った昏い魂たちが、眠ってるは眠ってる!
え? これって全部、封印されている奴に恨みを抱いてるパターン?
負の魔素に汚染された魂全てが、ここに集まっている的な感じですか?
(よくは分からないが……汚物は消毒じゃボケー! ヒャッハー!)
アマルたちぐらい理性を保っているなら、偽善者として救おっかな~とか思うが……さすがに負の魔素に染まり切って、SAN値がだだ下がりな状態の亡霊相手に同情は湧かないよな~。
それならむしろ、浄化してやるのが偽善みたいに感じてきた。
("聖域顕現"、"聖氣"、"拍掌")
軽く掌を二回合わせ、三度目でパンッと大きな音を出して手を打つ。
すると、地の底で眠りに着いていた存在たちは、何だか色々な反応を示しながら消えて逝った。
恨めしそうに見ている奴がいたんだが、どうせ女に浄化してもらいたかったとか、そういう理由だろうな。
さて、そんなワケで地面も綺麗になった。
それじゃあ、探すとしますか!
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