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偽善者と開かれる新世界 九月目
偽善者と赤色の世界 その01
しおりを挟む赤色の世界
再びやって来たその世界は、相も変わらず紅蓮の業火が辺り一面に広がっていた。
「暑いのはどうとでもなるし熱いのもどうとでもなる。だけど、心の篤さだけはどうにもならないな」
有り余る魔力で身を包み、冷却飲料を飲むことで炎に関しては対処可能だ。
しかし、俺の体の中で燻ることもしない冷めきった炎に関しては、本当にどうしようもない。
扉を開いてやって来たのは良いものの、暇潰し感覚でしか無いこの冷めた感じ。
……異世界に来たって気がしないよな。
まぁ、日帰り異世界記が人気になってたこともあったし、直ぐに帰っても大丈夫か。
この世界の地図がある程度完成し、人と国が存在することが判明した。
人がいるということは必ず困っている人がいるということであり、それ即ち偽善者のいる所! というワケで遊びに来たのである。
「やっぱり、誰か連れて来た方が良かったのかな? いやでも、異文化交流はまず独りで行うのがボッチ転移の義務だし」
前回共にこの場所に来たガーとリオン、二人共が別々の仕事を行っていたので、今回は俺独りということになった。
さぁ、この世界の説明だ。
仮名『赤色の世界』は、面積の七割を炎の海に持っていかれた世界である。
人々が住むのは残った三割の部分であり、そこら辺は地球と大体同じようなものだな。
ただ、大きさは地球よりもだいぶ小さい。
違いはもちろん、海が炎であるということだぞ。
詳しいことは観測できなかったが、この世界にも魔物は存在し、陸と海の両方で生息している。
人々もまた灼熱への耐性を獲得し、結局は地球と似たような生活を行っている(つまり、漁業もできているということだ)。
だが、地球の人間が深海に生息できないのと同様に、こちらの世界の者にも生息できない場所がある。
あまりの熱気にドローンが熔けてしまい、そのまま壊れる……なんて場所も存在する。
その周囲には人間が全く存在せず、魔物達の楽園と化していた……魔物は凄いよな、そういう危険地でも住めるんだから。
まぁ、そんな世界だ。
魔王がいるならそんな危険な場所にいそうだな。
いきなりそこを刊行してみるのも面白そうだし、ゆっくりと諸国を巡るのもわくわくするよ……普段の俺のテンションならな。
正直、今はただ寝ていたいよ。
しかし、この世界は蒸し暑いから寝るのには向かない。
……うーん、どうすれば良いのかなー。
<箱庭造り>で弄っても、炎と地面関係のこと以外は直ぐに戻されそうだしな、この世界だと。
「ま、とりあえず移動してみるか」
"パーティエンスブーツ"――通称忍耐の靴で空を歩き、この世界での放浪を始まる。
……ハーレムメンバー、いないかなー。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この世界でのファーストコンタクト、それは人では無く――
『コイツ、ウマソウ』
??? Lv20
魔物? アクティブ
地上 格下
魔物だった。
見た目は赤いゴブリンだ、少々逞しいのでホブゴブリン級か?
(鑑定眼)を使っても視辛いんだが、これは多分……異世界だからだな。
そもそも下地となる情報が少ないのが原因だろう。
だから魔物にも念の為の『?』が付いている、そう思えばなんとなく理解できた。
でも、いきなり餌扱いか。
まぁ、基本的に知性の足りない魔物は常時腹を空かせているからな。
どれだけ食べても腹は満ちず、何度でも何度でも食料を求めて人々を襲う。
魔物の神がいたら訊いてみたいものだ。
――どうしてそういう風に創ったんだと。
閑話休題
今の俺は地面に足を着けている。
(空歩)で移動中に<八感知覚>が見つけてくれたので早速対話を、と思った結果がこれであったよ。
おっと、お腹を空かせたゴブリンが俺を見ていたな――対処しなければ。
「えっと、初めま――」
『飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯ーーーッ!』
「して、そしてさようなら(――"抜刀")」
手を手刀の形にして、襲い掛かるゴブリンに一閃させた。
すると、ゴブリンは何の抵抗も無くあっさりと頭と体が分かれていった。
……うん、血も付いてない。
完璧な居合斬りと言えるんじゃないか?
"ヤンデレ包丁"を突き刺して解体すると、『???の○○』シリーズとスキル結晶がドロップする(◯◯は爪とか牙とか皮だ)。
ここから分かることは、分からない魔物の素材の名前は表示されないことと、この世界にもスキルの概念があるということだな。
うーん、さすがファンタジー。俺の期待を裏切らないぜ。
<八感知覚>によると――今のははぐれのゴブリンで、周囲に他の魔物の存在は確認できないとのことだ。
いきなり魔物が一匹だけ出て来るっていうのも、なんだかご都合主義みたいだな。
群れで出て来いよ、群れで。
金が無いから売れる魔物の素材が欲しい、今の俺はそう思っている。
本当に困ったら偽装でも隠形でもして入国するが、基本的には普通に入りたいしな。
「はー、せめて知的生命体に会いたい」
この場合の知的生命体とは、俺と対話できれば何でも良いということになる。
超越スキル:言の葉:の力で対話をすることは容易いので、本当に知性があればどんな種族でも良いんだ。
そんなことを考えながら、俺は熱気を帯びた大地の上を歩いていった。
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