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偽善者と開かれる新世界 九月目

偽善者と秘湯

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 カポーンと鹿威しが偶になる秘湯。
 沸き立つ湯気が幻想感を醸し出し、上空で輝く偽物の星々が雰囲気を作る。

 そんな場所で俺は、二人の少女と念話をしていた。
 ……あ、もちろん彼女たちは秘湯の外にいるままだぞ。
 俺、そんな誰でも誘うような節操無しじゃないからな。


「(それで、どうして俺を追いかけ回したんだよ。特に急用なんて無いだろ?)」

《今まで音信不通で、前に会った時もロクに会話もさせてくれなかった主様を、追いかけ回さない理由が無いとでも?》

《ペルちゃんとだけお話しして、お兄ちゃんはすぐ帰っちゃったからねー》

「(ああ……あまりに濃い時間を過ごしてた所為で、すっかり忘れてた。そんなこともあったなー)」


 うんうん、ペルソナね。
 ちょいとスキルの改造実験の被検体をやってもらった娘だ。
 <天魔騎士>なんて変なスキルを渡しちゃったことは、若干の罪悪感を感じてしまってたしな。

 ん? そういえば、最後に会ったのはそのときだったんだっけ?
 そもそも、アレは若干のバグが込みの現象だったし、直接会ったら会ったで即消滅されそうだなーって想像が付いたから、会うのは控えてたんだよなー。


《濃い時間って……。本当に、何をやってたのよ》

「(眷属にフルボッコにされた。その後はみんなとワイワイやってたな)」

《どんなことをやってたの?》

「(そうだな~……鬼ごっこ……かな?)」


 貞操を賭けた鬼ごっこ……アレを称するには丁度良いな。
 殆どの眷属が鬼役で行われたため、正直、もう奪われるかと思ったよ。


《私もやりたーい》

「(……か、勘弁してくれよ)」




 後ろ向きな俺のテンションに疑問を抱いているだろうが……本当に大変だったんだよ。
 話を逸らさないとヤバいかな?


「(そ、それよりほら! 俺になんか用でも無いのか? 俺だけでできることなら、大体聞いてやらんこともないこともないぞ!)」

《どっちなのよ。……そうね、なら私たち用の温泉も造ってくれない? こっちでお湯に浸かるなんて、やったこと無いのよ》


 眷属用の風呂かー。
 {夢現空間}には存在するけど、そういえばこっちの方には用意してなかったな。
 国民は(生活魔法)で浄化するか軽くお湯で拭くぐらいだし、入浴施設の建設も行うべきなのか?

 ま、それも後の話だし、ティンス達が今風呂に入る方法は――。


「(ん? なら一緒に入るか?)」

《え、良いの!?》

《オブリ! 騙されちゃ駄目よ。メルスだってあれでも男、オブリの艶姿なんてものを見たら野獣になるわ》

《……お兄ちゃん、野獣になるの?》


 やれやれ、どうやら大切なことをティンスは理解していないようだな。


「(いいか二人共。俺はこの世界であれだけ美少女や美女を眷属にしてるんだぞ? それなのに、今でも貞操を貫き徹している仙人とも呼べるような崇高な存在だぞ? 今更お前達の裸の一つや二つ見ようとも、元々三次元に興味の無い俺には何の影響もない!!)」

《カッコイイと思っているんなら大間違いだからね、ただのチキンな二次コンじゃない》


 うぐっ、事実をそのまま告げやがったな。
 だが、それでも……俺は……。


「(ええい黙れ! 確かに俺はチキンだが、それでも肉食獣から逃げれるだけの力を持った優秀なチキンだ! それに俺が野獣になる問題は皆無だ! ほら、こっちを見てみろ!」)

《ばっ! み、見るワケ無いでしょうが!!》
《あ、お兄ちゃん。女の子になれるんだね》

《……え?》

「ふふん、どーだティンス! これで問題無いだろ!」


 最近よくなっているメルへと変身し、彼女たちの前に姿を現す。
 水に濡れた髪が背中に張り付いて、何だか不思議な感覚だな。
 普段の俺はそんな女性のように髪を伸ばさないし、あんまりそういう経験が無いんだよなー。


『……え、これが……メルスなの?』

「ん? 何か問題があるのか? 正真正銘、この俺がメルスに決まっているだろう。ほれほれ、ここに[眷軍強化]の印もあるだろ?」

『あ、本当ね……というか、なんだかその声と口調に違和感を感じないのが恐いわね』

「さぁオブリ、一緒に入ろうか! 美味しいコーヒー牛乳もイチゴ牛乳も用意してあるから、留守番はティンスに任せて行こうぜ」

『はーい』


 結界の設定を少し弄り、オブリだけが通れるようにする。
 そうしてから俺と一緒に結界を潜り、秘湯へと近付いていく。

 オブリが装備を外そうとしたその瞬間――結界の外から怒声が聞こえる。

『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!』

「ん~? どうしたのかなー、ティンスさんは? 俺みたいな野獣と一緒じゃ駄目なんだろう? 残念だがここの秘湯は混浴でなー、それが嫌なお客様は、お断りしてるんだよ~。嫌ー残念だな~、折角色んな食べ物を用意してあったのにな~」

『くっ、弱いところを突いて……』

「別に、裸になれなんて一言も言ってないしできないだろ? 俺は訳ありだから全裸になれちゃうけど、普通のプレイヤーは規制的な問題で絶対にインナーが装備されるんだし」


 そう、一応彼女たちにとって、これはゲームである。
 ドギツイR18のヤバいゲームでも無いし、しっかりとした倫理規制が用意されている。

 例として、インナーの自動装備が挙げられるな。
 着脱不可能・耐久度∞なので、真の危険にはならないだろう。

 そうしたことを頭の中で折り合いを付けていくティンス……そして――。


『あぁもう、私も入るわよ! メルス、早くここを通れるようにしなさい!!』

「えぇ~、それが人に頼む時の態度かよ~。なぁオブリ、こういう時はどうするんだっけか?」

『ティンスお姉ちゃん――ね?』

『うぐぐぐぐぐ……』


 お願いします。
 ティンスはそう言って頭を下げた。
 ……いや、別に頭まで下げなくても良かったんだけどな。

 結界を再び弄り、ティンスを通行可能にしてから、可視の物へと変更する。
 外からはモザイクのように見えるから、中が見られることは無いだろう。

 そして、俺たちは一緒に湯に浸かった。
 ……肌に張り付いたインナーは、素晴らしい性能を持っていたとだけ言っておこう。


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