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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内氾濫 その20

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 大地に溢れかえった膨大な魔物たち。
 それに対し、万の剣を操り二振りの剣を振るい挑む俺──そしてそんな光景を、無限空間で見ているであろう眷属たち。


「うぉおおおおっ、やったるわいっ!」


 剣を操るのに消耗している【怠惰】の代償に負けないよう、やる気を燃やしていく。
 ついでに精神の高揚で魔力も高ぶり、身体強化が微増して攻撃の威力も上がる。

 現在、発動しているのは{夢現流武具術}の双剣の型“天為夢葬”。
 技名はともかく、要は周囲をやったらめったら合理の極みで切り刻むといったものだ。

 なんせ、ティル師匠監修の武技である。
 彼女の経験と直感が組み合わさり、とりあえずなぞっておけば殺せる──いわば初見殺しの武技となったほどだ。

 これは眷属たちにも協力してもらい、武闘派連中からもお墨付きを貰っている。
 非戦闘職の眷属でも、多少の代償(しばらく筋肉痛)を覚悟すれば使えたからな。


「レッツゴー、よいしょっと」


 剣を振り回し、魔物たちの行動パターンを把握しながら捌くの繰り返し。
 …………時間が経つと思う、これってやる意味あったかな、と。

 眷属のためならえんやこら、と奮い立たせるのも長続きはしない。
 主人公たちならまだしも、凡人の意思の強さなど所詮はその程度だ。


「──というわけで、せっかくだしコメント募集でアイデアを求めまーす。えー、それでは三番目のコメントを参考にしますかね」


 俺自身、動画配信というものを見たことが無いのでよく分からないが、自分のイメージにあるソレを基に言葉を紡いでいく。

 それが正しいのかどうかは分からないが。
 そこに眷属たちがWifoneを介して、コメントを出してくれる……かもしれない。

 もしやってくれないなら、それはそれで需要が無いので作業そのものを止めようか。
 ──なんてことを考えている間に、どうやらコメントが来たようだ。


[匿名:全裸特攻]

[匿名:非装備(下着含む)で攻撃]

[匿名:凄い技が見たいです]

[匿名:とりあえず、素手と装備解除かな]


 俺の発言に合わせ、アンが眷属たちから送られてきたコメントを表示してくれた。
 ……異様なまでに、人の身包みを剥ごうとしてくる連中に思うところがあるが、無視。


「はい、というわけで凄い技を見たいというコメントありがとうございます! ……その周辺の匿名連中、これが匿名コメントだからだよな? 安価的なネタなんだよな?」


 安価、というのはまあ掲示板とかでアイデアを求める……俺のやっているヤツだ。
 実際には少々違うのだが、大雑把な説明ならそんな感じである。

 今回は三番目に出たコメント、つまり裸縛りではなかったものが採用されるわけだ。
 …………匿名制にしなければ、連中を裁けたというのに。


「さて、凄い技って言われても正直あんまり思いつかないな……魔導で世界ごと上書き、というのも違う気がするし。まあ、とりあえず後のことは考えないでド派手な技を準備しますか──“剣器崩解リリースソード”」


 魔物たちと戦わせていた剣、それらに対して指示を下す。
 斬撃で痛めつけられていた体に、次々と突き刺さっていく剣たち。

 魔物は苦しむ間もなく──剣の中に注がれたエネルギーが炸裂する。
 何だかんだ消耗が激しかったので、凄い技のために一気に消費しておく。

 すぐに『無吸』や回復系のスキルを意識して起動し、魔力を溜め込む。
 それを更に体内で精錬し、質を高めることで一発の火力を上げていく。

 いちおう自分なりに考えた縛りとして、眷属の助力は大抵の形で無しということに。
 また武具や遺製具なども含まず、あくまで自らのスキルに関したものに限定する。


「複数の剣を使った無双じゃダメだったわけだし……視覚的に、大規模に影響を及ぼす魔法なら──“災害喚起ディザスター”!」


 発動するのは次元に干渉する魔法。
 高次元からエネルギーを引き込み、それをこちら側で暴れ回らせていく。

 結果、世界の許容できない力場が災害という形で顕現する。
 普段はその在り様を指向し、特定の災害にするのだが……今回はお任せだ。

 こういったランダム性こそが、配信を盛り上げる……のかもしれない。
 まあ、ここで良くも悪くも面白い結果を出せるかは配信者の腕の見せ所である。


「で、何が起こるかなんだけど……うわ、何か出てきた。ということは、今回発動したのは“異次元獣コズモスト”か」


 要は宇宙怪物の召喚だ。
 特撮のような感じになるのか、名状しがたい怪物になるのかはあくまでもランダム。

 次元の壁を貫き、人型の範疇に無い存在を呼ぶ魔法。
 ……何やら作為を感じるそれこそが、次元魔法“異次元獣”なのだ。

 視認したソレは、魔法の発動によって発生した亀裂から徐々に現れる。
 飛び出してくるのは触手、そこに触れた魔物たちを次々と呑み込んでいく。

 最悪の場合、アレと戦わねばならないと準備をしていたが、辺り一帯の魔物を喰らい尽くしたところで活動を停止──満足そうに触手を震わせ、次元の彼方に消えていった。


「……え、えーっと、本日はここまで!」


 うん、コメントは見ないことにする。
 魔物が再び発生する前に、俺はここから脱出──何だかんだ続いた迷宮関係の出来事は幕を閉じるのだった。


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