上 下
518 / 2,519
偽善者と開かれる新世界 九月目

偽善者とPK 前篇

しおりを挟む


始まりの草原


 今日も今日でクラーレたちに呼ばれないため、暇な時間を過ごすことになる。
 いっそのこと眷属を呼べば楽しい時間が過ごせるんじゃ、とも思うが、お仕事で忙しい者や戦闘に明け暮れる者が多いので、今日は止めた。

 最近、ここでゴブリンにフルボッコにされたことが懐かしいので、今日はとある能力値とスキルを解放して、俺はこの地にて闘争に身を委ねていた。

 そして今――


『――――』

「…………」


 星が見える綺麗な闇の世界で、明らかに怪しい風貌をした存在と俺は対峙している。


少し時間を遡って
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「"キック"……そいやー!」

 GYAAA!!

 始まりの草原の奥地、そこで俺は一体のゴブリンと戦闘していた。

 武技を発動し、目の前にいるゴブリンを蹴り飛ばす。
 光を纏った俺の右足が、頭という名のボールに向かい――シュート!!

 ゴブリンはそのまま死という名のゴールににネットインして、息の根を止めた。

 ……うん、武技もちゃんと扱えるな。
 制限した状態でも、武技のマニュアルアクションができている。

 チャルの所持する(武技限界突破)により、武技をマニュアルで発動できるようになっている。
 ……だが、最近はプレイヤーもマニュアルにできるようになったとのことだ。

 武技を行うと宣言して、その武技の動きをなぞる……それだけで発動するんだから、今まで練習していた甲斐があるってもんだ。

 あ、{夢現流武具術}を持っていると、本当にイメージするだけで補正が入るので、適当な感じで武技を使っても武技として発動してくれる。
 ……うん、チートですね。

 蹴り飛ばしたゴブリンの元へ向かって、『ヤンデレ包丁』で解体する。
 スキル結晶も素材も解体できているが、あまりレア度も高くないな。
 (錬金術)とか(合成)で纏めればそれなりに価値を作れそうだし、裏バザーで売り出すのもありだな。

 周囲にプレイヤーの反応は……今のところは確認できない。
 もう、ここら辺で狩りをするようなプレイヤーはいないのか?
 だいぶゲームとしても進んだだろうし、狩場ももっといい場所が見つかったのかも知れない。

 第四陣とやらがチュートリアルに没頭する時期は終わっているので、今この場に来るのは、依頼としてだけだろう。


「"指定召喚:ゴブリン"」

 GUGYYAAA!

 かつてダンジョンから解析して手に入れた魔方陣、それを組み込んだ(召喚魔法・偽)によってゴブリンを召喚する。
 これなら、集団戦を多く行うゴブリンと闘うことができるのだ。


「よし、次はこれ――"閃空斬"」


 行うイメージは嵐脚、狙うはゴブリン。
 右足をゴブリンの首の辺りに構え――薙ぎ払う。

 シュパッ

 すると脚から斬撃が放たれ、ゴブリンの首が体から離される。
 脚に血液が飛ぶことも無く、綺麗な断面を残してゴブリンはバッタリと倒れた。

 ……うん、剣の武技だけで使えたな。
 これなら鎌鼬だろうが真空波だろうがやりたい放題使いたい放題だ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そうして色々な武技の練習を行い、気付けば周囲は暗闇に変化している。
 上空には、終焉の島では見ることのできなかった星々が見えており、なんだか感慨深いものがあるなー、と感じた
 それでも俺は、夜戦用の訓練を続ける。


「さて、次は……って、そこに隠れているのは誰だ? 早く出て来い!」


 ゴブリンを解体していると、<八感知覚>に反応があった。
 (望遠眼)と(魂魄眼)でそれを視認して、本当にこの場に誰かが居ることを察する。
 ……魂を偽装するのは、中々に骨がいることだからな。

 魂には様々な色が存在し、その色によって本人の特徴を表している。
 そんな本人そのものとも言える魂を隠すということは、自身の存在そのものをこの世から隠すということになる。
 ……うん、凄く難しそうだな。

 魂の色は――灰色、確か意味は……調和。
 黒と白の間の色で、無彩色だが有彩色でもある。
 何色とでも上手く馴染めて、周囲の色を引き立てる……そんな色だ。
 プラスに言えば穏やかで、マイナスに言えば地味。
 一体、どんな奴が来るんだ?


「ほら、さっさと出て来い!」

『――――』

「おっ、やっと出て来たか」

『――――』


 再び警告すると、ソイツは俺の普通に見える範囲に現れた。
 陽炎のように空気を歪ませている。
 外套を被り、視界に入っているようで入っていないようにも感じる……そんな不思議な奴だった。

 俺はソイツと対峙して、無言のせめぎ合いを行っていく。

 そして、冒頭部分に戻る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 いつまで経っても攻めて来ず、何をしたいたが皆目見当が付かな……ハッ!


「お前……まさか、PKなのか!」


 PK――プレイヤーキラーの略である。
 他のプレイヤーに対し、悪意を持って攻撃する悪質と思われる行為を続けるプレイヤーのことだ。

 AFOでもPKは存在し、噂で存在自体は聞いていた。
 AFOではPKは公認であり、キルされた場合アイテムや、何より膨大な経験値を落とす。
 PKはそんな落とし物を拾う欲に何かを感じ、殺戮を続けているのだ。

 ……色々と種類があったり、それの対応となるプレイヤーキラーキラーPKK、またそれらのみが関わることができる職業やスキルもあるのだが……今はその説明は良いか。

 コクコク

 俺の質問に多分頷いたと視える。
 ……歪んでてめっちゃ分かり辛いけど。

 何故今の弱々しい俺を狙うかは分からないが、相手も殺人桜桃を捨てていないなら、こうした弱者を狙う理由にもなる。

 初めてはいつも緊張するものだ。
 俺の場合は魔物は食べるという微妙な戦闘と、その後の{感情}による精神の異形化で全然気になっていなかったから関係無いが。

 ……そもそも、あっちの桜桃を捨て切れない俺に、それを言う資格は無いのかもな。

 今の俺は何も武器を装備しておらず、完全に無手の状態である。
 対して相手は外套の中に大量に武器を隠して持っている可能性もまた存在した。

 ……どうやって、対処しようかな?


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...