上 下
515 / 2,519
偽善者と開かれる新世界 九月目

偽善者と裏バザー

しおりを挟む


始まりの町


 やることが無かった為、今日は初心者プレイヤーへと偽善を行うことにした。
 ……ランダム召喚をやり続けても良いんだが、また『?』付きの魔物が出てヤバいことになっても困るからな。
 じっくりと調べ、法則をある程度理解してから、もう一度やることにするよ。

 ――で、今やっていることの詳細を説明すると。


『おい、おっさん。アンタの武器、詳細が全然(鑑定)できねぇんだけど』

「んあ? んなもん、商品の情報なんて自分で確かめるに決まってんだろうが。スキルに頼るなんて、お前さんは馬鹿か?」

『ば、馬鹿だと! こ、のNPCが!!』

「えぬぴーしー? お前さん、急に何ワケの分かんねぇことを言ってんだよ。おい! 誰か治療師をここに呼んでやってくれ! こいつはどうやら頭が逝っちまってるようだ!!」


 俺のその言葉に、周りの人たちは笑みを浮かべる。
 ……うん、今までにこのやり取りを何度か見ている人たちだからな。

 俺は現在、市場で武器を売っている。
 もちろん、売っても問題無いレベルの商品ばっかりだがな。
 しかし、周りで商品を売っている奴らと異なることがある。
 ――それが、商品の詳細を全く視ることができない点だ。


『ちょ、調子に乗りやがって!』


 俺の発言に我慢ができなくなったのか、商品を視ようとしていた男のは、拳を振り下ろそうとする……が、


『んなっ! 痛痛痛痛痛!!』

「え? 板だって? そんなら隣のとこで沢山売ってんじゃねぇか。ほら、店はそっちだぞっと!」


 合気道をイメージした動きで、男をそのまま地面に叩き付ける。
 そして、木材を売っている隣りの奴の近くにポイッと投げつけた。


『……また、いつも通りで良いのか?』

「あぁ、好きにしてくれ」

『そうか……感謝する』


 隣で木材を売っていた男は、俺にそう言ってから気絶した男をどこかへ引き摺って運んでいく。
 ……この先は説明しなくても良いよな。

 ほら、ちょうど聞こえてきた――。


『アッー!』


 ……まぁ、そういうことだ。
 いづれ男も『職業:男娼』を手に入れて、表の世界へ帰って来れるだろう。

 この場で商品を並べるのは、別に初めてでは無い。
 (変身魔法)で姿を偽り、おっさん風な姿になって商品を売っているのだ。
 場所を確保するのに裏世界のボスと取引をしたり、こうしたクレーマーの処分を任せたり……本当、色々あったんだよ。

 あ、今俺がいるのは路地裏である。
 丁度ここでティンスとオブリに会ったんだよなー。

 初心者が本当に買い物で困った時、ここに来るそうだ。
 表のバザーじゃ買えない物を、裏では簡単に売っているからな。
 そんな甘い誘惑に誘われた愚か者が、さっきのようにパクッと喰われるワケ(意味深)。

 そこで偽善者である俺は、ある取引を裏のボスと行った。

 ――俺の商品を買った者に手を出すな。

 色んな力を駆使してそれを納得させ、俺はこの場で商品を売っている。
 ……売ってるんだけどなー。


『旦那、アンさんの商品、一体どれだけ売れたんですかい?』


 さっきの男と反対側で商品を売っていた男が、俺にそう尋ねてくる。
 こいつ、分かってやがるクセに。


「……だよ」

『へ? 良く聞こえないんですが』

「――0だよ! 誰も買ってくれねぇよ!」


 確かに俺の商品は(鑑定)ができない。
 だが、見る人が見ればすぐに優れた物だと分かる物の筈だ。
 ……だが、そもそも優れた奴はこんな所に来る筈が無かった!

 なので、俺の元に来るのは未来の男娼候補ばかりであり、商品は売れずに商品を作るばかりである。


「お前らの分は契約で用意してあるからな。ほら、『ハッピーポーション』だ」

『さっすが旦那! これで仕事も楽になりやすぜ!』


 俺から二ダース分のポーションを受け取った男は、そう言って自分の"収納空間"にそれらを仕舞っていく。

 あ、"ハーピーポーション"の詳細?
 飲んだ奴が幸せになるドリンクだ。
 別に、麻薬成分があるとか中毒性があるとか、そういう犯罪的な物では無い。
 ただ……ちょっと強くなれるだけだ……そう、色んな意味で。


「そういや、ボスは元気なのか?」

『ええ、当然でさぁ。あの人はいつもアッシらのことを考えてくれていやす、ボスの体調はアッシら全員で気にしていやすよ』

「そうか。なら、ついでにこれも持って行けよ。不思議と眠気が失せて、栄養も勝手に満タン状態。おまけに元気が百倍になる。臨床実験は俺も含めて何人かで済ませてあるし、お前らの方で一度確認してから、ボスに渡してやってくれ。あの人に倒れられると、俺としても不便になりそうだからな。あの人、一体いつ休んでんだか……」

『全くでさぁ。旦那の用意した代物なら、それは間違いなく使えるんでしょう。ボスが本当にヤバくなった時ゃぁ、直ぐに使わせてもらいまさぁ』


 そうして取り出した二本のポーションも、男は出現させた異空間へと収納する。

 臨床実験は、主に内政官に試させた。
 それによって無限機関のように仕事ができるようになり、とても複雑な笑い方をしていたのが目に焼き付いているよ。


「それじゃあ、俺はもう少し店をやってるから。ボスによろしくな」

『……(鑑定)ぐらいさせてやってやりゃあ、旦那の商品はバカ売れですのに』

「真の価値が分かる奴を、俺はスカウトしたいんだよ」

『そいつぁいけねぇぜ、そんな奴はうちでも欲してますからね』


 そんな会話をしてから、俺と男は自分のやるべきことを行っていく。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...