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偽善者と開かれる新世界 九月目
偽善者と裏バザー
しおりを挟む始まりの町
やることが無かった為、今日は初心者プレイヤーへと偽善を行うことにした。
……ランダム召喚をやり続けても良いんだが、また『?』付きの魔物が出てヤバいことになっても困るからな。
じっくりと調べ、法則をある程度理解してから、もう一度やることにするよ。
――で、今やっていることの詳細を説明すると。
『おい、おっさん。アンタの武器、詳細が全然(鑑定)できねぇんだけど』
「んあ? んなもん、商品の情報なんて自分で確かめるに決まってんだろうが。スキルに頼るなんて、お前さんは馬鹿か?」
『ば、馬鹿だと! こ、のNPCが!!』
「えぬぴーしー? お前さん、急に何ワケの分かんねぇことを言ってんだよ。おい! 誰か治療師をここに呼んでやってくれ! こいつはどうやら頭が逝っちまってるようだ!!」
俺のその言葉に、周りの人たちは笑みを浮かべる。
……うん、今までにこのやり取りを何度か見ている人たちだからな。
俺は現在、市場で武器を売っている。
もちろん、売っても問題無いレベルの商品ばっかりだがな。
しかし、周りで商品を売っている奴らと異なることがある。
――それが、商品の詳細を全く視ることができない点だ。
『ちょ、調子に乗りやがって!』
俺の発言に我慢ができなくなったのか、商品を視ようとしていた男のは、拳を振り下ろそうとする……が、
『んなっ! 痛痛痛痛痛!!』
「え? 板だって? そんなら隣のとこで沢山売ってんじゃねぇか。ほら、店はそっちだぞっと!」
合気道をイメージした動きで、男をそのまま地面に叩き付ける。
そして、木材を売っている隣りの奴の近くにポイッと投げつけた。
『……また、いつも通りで良いのか?』
「あぁ、好きにしてくれ」
『そうか……感謝する』
隣で木材を売っていた男は、俺にそう言ってから気絶した男をどこかへ引き摺って運んでいく。
……この先は説明しなくても良いよな。
ほら、ちょうど聞こえてきた――。
『アッー!』
……まぁ、そういうことだ。
いづれ男も『職業:男娼』を手に入れて、表の世界へ帰って来れるだろう。
この場で商品を並べるのは、別に初めてでは無い。
(変身魔法)で姿を偽り、おっさん風な姿になって商品を売っているのだ。
場所を確保するのに裏世界のボスと取引をしたり、こうしたクレーマーの処分を任せたり……本当、色々あったんだよ。
あ、今俺がいるのは路地裏である。
丁度ここでティンスとオブリに会ったんだよなー。
初心者が本当に買い物で困った時、ここに来るそうだ。
表のバザーじゃ買えない物を、裏では簡単に売っているからな。
そんな甘い誘惑に誘われた愚か者が、さっきのようにパクッと喰われるワケ(意味深)。
そこで偽善者である俺は、ある取引を裏のボスと行った。
――俺の商品を買った者に手を出すな。
色んな力を駆使してそれを納得させ、俺はこの場で商品を売っている。
……売ってるんだけどなー。
『旦那、アンさんの商品、一体どれだけ売れたんですかい?』
さっきの男と反対側で商品を売っていた男が、俺にそう尋ねてくる。
こいつ、分かってやがるクセに。
「……だよ」
『へ? 良く聞こえないんですが』
「――0だよ! 誰も買ってくれねぇよ!」
確かに俺の商品は(鑑定)ができない。
だが、見る人が見ればすぐに優れた物だと分かる物の筈だ。
……だが、そもそも優れた奴はこんな所に来る筈が無かった!
なので、俺の元に来るのは未来の男娼候補ばかりであり、商品は売れずに商品を作るばかりである。
「お前らの分は契約で用意してあるからな。ほら、『ハッピーポーション』だ」
『さっすが旦那! これで仕事も楽になりやすぜ!』
俺から二ダース分のポーションを受け取った男は、そう言って自分の"収納空間"にそれらを仕舞っていく。
あ、"ハーピーポーション"の詳細?
飲んだ奴が幸せになるドリンクだ。
別に、麻薬成分があるとか中毒性があるとか、そういう犯罪的な物では無い。
ただ……ちょっと強くなれるだけだ……そう、色んな意味で。
「そういや、ボスは元気なのか?」
『ええ、当然でさぁ。あの人はいつもアッシらのことを考えてくれていやす、ボスの体調はアッシら全員で気にしていやすよ』
「そうか。なら、ついでにこれも持って行けよ。不思議と眠気が失せて、栄養も勝手に満タン状態。おまけに元気が百倍になる。臨床実験は俺も含めて何人かで済ませてあるし、お前らの方で一度確認してから、ボスに渡してやってくれ。あの人に倒れられると、俺としても不便になりそうだからな。あの人、一体いつ休んでんだか……」
『全くでさぁ。旦那の用意した代物なら、それは間違いなく使えるんでしょう。ボスが本当にヤバくなった時ゃぁ、直ぐに使わせてもらいまさぁ』
そうして取り出した二本のポーションも、男は出現させた異空間へと収納する。
臨床実験は、主に内政官に試させた。
それによって無限機関のように仕事ができるようになり、とても複雑な笑い方をしていたのが目に焼き付いているよ。
「それじゃあ、俺はもう少し店をやってるから。ボスによろしくな」
『……(鑑定)ぐらいさせてやってやりゃあ、旦那の商品はバカ売れですのに』
「真の価値が分かる奴を、俺はスカウトしたいんだよ」
『そいつぁいけねぇぜ、そんな奴はうちでも欲してますからね』
そんな会話をしてから、俺と男は自分のやるべきことを行っていく。
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