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偽善者と開かれる新世界 九月目

偽善者と加入

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 はて、良い子のみんな、元気かな?
 俺、メルスは元気だよ~。
 召喚の魔方陣に乗って移動した先は、泥だらけのダンジョン。

 少女の願いを叶えるために狼と戦い、女の子を蹴り飛ばし、剣になったりしたよ。

 そして、依頼も無事完了。
 元の場所に帰ろうとした俺に、悲劇が訪れたんだ――。


「あれ? 魔方陣が機能しない……」


 一度剣から元の妖女(誤字に非ず)モードに戻り、解析系の能力で現状を把握する。
 召喚時に体にリミットを掛けた所為で少々心許無いが、理由ぐらいなら分かるかな?


『……ぉ』


 ……ふむふむ、これは俺のミスだな。

 俺の召喚は結晶を割るだけで行われる。
 その際の状態を半恒久化することで、封印されていない能力を偽装したりする予定だったんだが……元に戻る際に、俺を俺だと認識する機能をしっかりさせてなかったや。


『……ぉ、……-ん?』


 魔方陣を使えるのは俺であって、妖女のメルでは無い。
 平時のモブキャラにしか使えないものを、プリティなメルには使えないんだよ。

 ……うん、自分で言ってて悲しくなるが、メルが可愛いのは眷属公認らしいから。


『あのぉ、メルちゃん?』

「――ん? どうしたの、ますたー」

『いえ、突然メルちゃんが悩みだしたので、どうしたのかなーと思いまして』


 俺が一時期共に旅(?)をした少女、クラーレがそう言う。

 ……うん、少々の罪悪感を感じてはいるんだよ。
 気持ち悪い男を握り締めさせていたことにはさ。
 あ、俺がメルに変身したこと自体には特に何も思わないぞ。

 羞恥心は……捨て(させ)られたからな。


「ますたー、暫く一緒に居ても良い?」

『え? ノゾムさんの所に戻るんじゃないんですか?』

「うーん……理由は分からないけど、戻れなくなっちゃったから……お願い!」

『……少し、みんなと相談してきますね』


 クラーレはそう言って、仲間達の元へと向かっていった。

 にしても、今の俺がやることかー。
 【固有】能力の侵蝕に関しては本当の話だし、彼女達に寄生して【固有】持ちを探すのも面白そうだよなー。
 あ、"ユニーク"の奴らは既に折れてるから問題無しだぞ。

 【固有】スキルにそんな効果がある……プレイヤーがこれを知ったら、運営へのクレームも大量に送られるんだろうなー。

 運営自体はその件に関して殆ど干渉できないから、それはお門違いなんだけど、プレイヤーに担当部署へとクレームをつけられる奴なんてそうそういないからそこはいいや。

 俺のスキルは眷属たちの完全バックアップによって、パーフェクトな処理が施されております故、持ち主に害は一切ありません……極一部を除いては。

 {感情}はどういうワケか何にも分かっていないので、眷属達にもどうしようも無いな。
 ――俺に悪影響の無い効果であることを祈るのみだな。

 おっと、クラーレが戻って来た。


『メルちゃん、少し訊いても良いですか?』

「うん。内容にもよるけど、ますたーの質問なら大体答えるよ」


 あ、別に俺が彼女をますたーと呼ぶことに特に理由は無い。
 ただ、呼ばれたからにはそう言うのが決まりって感じがしたからな?
 暗殺者系の用事だったら、『お母さん』でも別に良かったんだが……未婚の少女に、さすがにそのセリフはな。

 質問にだって、今の演技中の俺ならばどんなことであろうとも、大体答えられる。
 全ては俺の気分次第であったのだ。


『えっと、メルちゃんは召喚獣のような存在なんですよね?』

「うん、広義的にはね」

『ということは、メルちゃんはこちら側の――つまり、自由民なんですか?』


 自由民とは、NPCのことだが……俺自体は一応プレイヤー。
 だけどそれを剥奪されかけてるし……どう答えればいいんだ?


「……私は、プレイヤーによって創られた存在だよ。知識もその人から継いでいるから沢山のことを知っているし、みんなとの会話もできる。うーん……要するに、お助け自由民みたいな感じかな?」

『お助け……ですか?』

「うん! ますたーの願い事を訊いて行動するお助けだよ。ただ……終わったけど帰れなくなっちゃったし、もう少しますたー達と一緒に居ようかなーってね?」

『そ、そうなんですか……』


 ま、[スキル共有]で魔法を借りれば即座に帰還できるんだがな。
 今の俺には魔法系統のスキルが全く存在せず、今までの行いも、殆ど物理的に起こして来た。
 まぁ、<箱庭造り>さえあればどうにかなると思ってたからな。

 とりあえず、俺についてはもうNPC扱いで良いかな? と思えてきた。
 ……うん、細かいこと考えるの面倒だし、プレイヤーみたいなことができない存在、とだけ理解してくれれば充分だ。



 それから、もう少し掘り下げた質問を幾つかされた。
 あの結晶は何なのか? とか、俺みたいな存在は他にもいるのか? とかな。

 別に答えても構わない部分はある程度、そうでない部分もそれなりに答えて――遂に質問は最後となった。


『それじゃあ、最後の質問ですよ。
 メルちゃんはわたしたちと……友達になってくれますか?』

「うーん……なっていいの? というより、ますたーのこれって質問なの?」

『わたしにとっては、これが一番重要な質問ですよ』


 いや、俺にはそう思えないんだけどなー。
 確かに答え辛い問いではあるが……。


「……ますたー、答えが分かっていることは質問にならないんだよ。
 私もますたーたちとお友達になりたい」

『メルちゃん!』


 ブワッと涙を流して、こちらに駆け寄って来るクラーレ。
 他の人達もなんかえぇ話や~みたいな目でこっちを見てくる。

 止めて! そんな純粋な瞳でこっちを見ないで! 俺の汚れた心が、全て浄化されていく! ……ってことはないか。

 そして、俺の転属先が決まったとさ。


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