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偽善者と開かれる新世界 九月目
偽善者なしの闇泥狼 前篇
しおりを挟むそれから少しの間は何も無く、平和に過ごしていた。
第一世界で技術発展を行ったり、ウーヌムの町の観光をしたりとかな。
町の特徴を探してみたんだが……食べ物以外はあんまり無かった気がするよ。
魔物の素材を使った料理や、地域の素材を活かした料理など……中々に楽しめる料理であった。
ま、俺は食べるのに【暴食】を発動しているから、もしかしたらその素材が体に不備を起こすものであったとしても、全く気付かずに食べてしまう。
……故にみんなに配った時に被害が起きても分からない、なんて問題もあるんだがな(多めに買って、国民の一部に任意の試食をしてもらっている。先に解析をして毒などが無いかは、一応見ているけど心配なんだ)。
あ、他にも第一世界の海を改造したな。
自分の世界では俺の制限が殆ど解除されているので、自分のやりたいことが自在に行えている。
ある時は世界をAFOから完全に隔離し、ある時はダンジョンを巡ってフロアボスたちと会話をしたり……それはそれで、とても有意義に楽しんでいた。
――そう、その瞬間までは。
「……意外と早く、使われるもんだな~」
今日もまたフラフラと歩いていた俺の足元には、魔方陣が展開していた。
……うん、自分で設計した魔方陣だから良く分かるよ。
必要に応じて俺を召喚する魔方陣。
これにも制限を解除する効果が籠められており、俺が召喚先で無双する為の道具となっている。
「行き先は……ダンジョンか? なんでそんな所に行ってるんだろうね~。あと、必要な情報は……うん、特に無いか」
普通のプレイヤーがそれなりに苦戦する相手ならば、俺はそれに小指一本で勝ってやる的なフラグも立てられる。
しかし、今回は色々と準備しておいた方が良いのかも知れないな。
SIDE クラーレ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
わたしはクラーレ、ギルド『月の乙女』のメンバーである、普人族の司祭です。
ノゾムさんと共にウーヌムの町へ来た後、わたしはギルドのみんなの元へと向かうために、一度町から出て、森林地帯へと移動しました。
『クラーレ、遅いじゃないか』
「……わたしも、急いで来たんですからね。いつの間にかもうこっちに来ていただなんて……ハァ」
『まぁまぁ、良いじゃないの別に』
「ノエル……もう少し、待ってくれればノゾムさんにも会わせられたのに」
そこには五人のパーティーメンバーが、わたしのことを待っていました。
『ノゾム? それって男? 女? それとも無しか両方?』
「男の人でしたよ。第一陣の無職だと言ってました」
『へぇ~。第一陣にそんな人がいるんだ~って、無職って何!?』
最初に話したのがディオン、堅固な鎧を身に纏って戦う『盾騎士』です。
その後にわたし達を宥めたのがノエル、回避を得意としている『くノ一』です。
ノゾムさんの性別を訊いたのがコパン、巨大なハンマーを振り回す『魔壊士』です。
そして、わたしと同じツッコミをしたのがプーチ、宝石の埋め込まれた杖を使って大量の魔物を一気に倒す『魔女』です。
『クラーレ、遅かったわね。集合場所を変更したのは悪かったと思うけど、貴女の実力ならもっと早く来れたんじゃないの? もしかして、その男と何かしていたのかしら……』
「いえ、町に着くまでは歩いてましたので」
『感心しないわね。MPの温存があるんだから魔法を使用して、とまではいかないけど、それでももう少し急いだ方が良かったわ。あの魔物は私たちだけが狙っている物じゃないのよ。だから誰よりも速く向かって、倒さないといけない。そのことを理解しているの?』
「……それは」
わたしにそう言ってくるのは、時計型の魔道具を装備した伏し目の少女。
ローブに身を包んでいますが、腰には剣も携える。
――所謂、魔法戦士というタイプです。
彼女こそがわたしたちのギルドのリーダーであり、固有スキルの持ち主――シガンなのです。
彼女はわたしに遅刻したことを注意してきますが……わたしの心はその反省とは別のことを意識してしまいます。
(やっぱり、段々と厳しくなってる)
元々、彼女はここまで時間に厳しい女性ではありませんでした。
わたしと彼女は、リアルでも友達なので良く分かります。
このゲームを始める前の彼女は、確かに自分自身が時間を守ることを大切にしていました……が、それを他人に押し付けるようなことはしませんでした。
――ですが、AFOを始めてからある日を過ぎて……彼女はその有り様を、少しずつ変質させていきました。
とあるクエストで魔物を倒した時、彼女はある魔道具とスキルを手に入れました。
それこそが、彼女が今も腕に巻いている時計と【固有】スキルなのです。
当初は彼女もその魔道具やスキルの力を純粋に喜び、仲間と共に楽しんでこのゲームをしていました。
しかし、時が経つにつれて……彼女から楽しさというものが失われていきます。
効率を考えた行動。
それを最も尊び、何をするにも時間を最重要としていきます。
そして、最近はわたし達にもそれを押し付けていくように……。
『――さぁ、みんな行くわよ』
『『『『はい!』』』』「……えぇ」
こうしてわたしたちは、討伐対象の住まうテリトリーへと入っていきました。
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