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偽善者と開かれる新世界 九月目

偽善者と敗北

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始まりの草原


 ログアウト?
 あぁ、そういえばそんな機能もあったっけかな?

 昨日は天空の城でぐっすりと眠り、俺は現在、草原をぶらぶらと散歩している。

 ――どうやら、今の俺はログアウト厳禁の状態とのことだ。

 なんでも、俺がログアウトを押すとメルスのアバターが運営神の支配下に入り、自在に能力値やらスキルやら権限を操作できてしまうらしい(最悪の場合、ログインできなくなるとのことだ)。

 だからなのか、ログアウトは絶対にしてほしくない、とGMやリオンたちに言われてしまった。

 俺がもうこの世界とは縁を切って生きていくのならばそれでも構わなかったのだろうけど……今の俺は、この世界と深く関わり過ぎた、的な感じなので、彼女たちの言う通りにしている。

 この世界にハーレムを作ったのに、そんな虚しい選択するワケ無いだろう!
 戻って俺に何が残ってるっていうんだよ!

 ま、そんなこんなで俺はそのままAFOを行っているワケだが……今回は終焉の島に飛ばされる前にやらなかったことをやってみようという企画を上げた。

 その一つとして、倒すだけ倒しておいて行けるようになった始まりの草原の奥、次の町へと行くことになったのだ。
 ……もちろん、情報は掴んでいるぞ。

 次の町の名前はウーヌム(ラテン語で1)。
 特徴は…………特に無いかな?
 いや、正確にはあるんだが、俺にとって有益なものは無かったと言うかなんと言うか。

 大体、{夢現記憶}は完全保存とダウンロードができるんであって、全てを常時覚えているってワケじゃ無いんだ。
 あんな超速読をしている状態で、ウーヌムの細かな情報のみに意識を集中させてはいなかったんだよ。

 ま、旅ってのはその町の特徴を直接味わうものだと思うし、行ってから見つければ良いと考えているんだよ、俺的に。

 今の俺の恰好は、かつての快適装備を纏った状態だ。
 腰に申し訳程度に初期に入手した剣を携えて、口笛を吹いてふ~らふらって感じだよ。


「いや~、このまま何事も無く平和に辿り着きたいな……ってこれ、もしかしてフラグかも『GYAGYAGYA!』……ハァ、やっぱりか」


 俺の目の前には、棍棒を持ったゴブリンが現れた。
 そういえば、城に着いた時【神出鬼没】を解除してたな。
 道理で魔物が襲い掛かって来るワケだ。

 GYAGYAGYA!

「ま、こっちに戻って来てから一度も戦闘を経験してなかったしな。腕慣らしには丁度良い相手だ」


 持っていた剣を鞘から抜き、ゴブリンに向けて構える。


「さぁ、俺の経験値になりな!」

 GUYGYAGYAGYA!

 そして、俺の闘いが始まった――


◆   □   ◆   □   ◆


 GYAGYAGYAGYAGYA!

「……はい、すいませんでした。調子に乗ってたんです悪気は無いんです本当に、はい。死にたくないんでヨトゥン!」

 GYAAA!

「いえ、言葉が分からないんでとりあえず会話をしましょうよ。言葉を交わせば世界は平和になると信じてますんデブゥ!」


 やぁ、俺はメルス。
 現在ゴブリン相手にフルぼっこな状態な偽善者だよ。
 今は地面に寝転がってゴブリンに免罪を乞うてるね。
 自分の状態を端的に表すなら――『大敗』かな?
 ゴブリンは嘲笑うように棍棒で俺を叩き、俺が言葉を出すごとに顔を叩いてくるよ。

 ……俺って、この世界の最強の龍相手に無双していた存在だよな?
 どうしてゴブリン相手に負けイベント的な状態になってるんだろうか……?

 ――答えは、能力を封印しているからだ。

 この大陸は運営神の御膝元。
 プレイヤーがいる場所には、運営神は必ず存在する。
 そんな場所で俺Tueeeみたいなことをしてしまえば、必ず俺はシーバラスに見つかり――世界大戦を起こされてしまうからな。

 なので、俺のステータスは色々な封印を施されているのだ。
 簡単に説明すると――HPは膨大、MPは人並みでAPはそれ以下。
 能力値に至っては……泣けてくる程だ。

 そんな状態なのに、魔物にどうして挑んだかって?
 いや、勝てると思ったんだよ。


 GYAGYAGYA

「ゲブッ。すいませんせめてゴブリン語で話してくれませんか? それなら私でもどうにか分かるんDEATH!」

『あ、あのぉ』

 GYAGYA……GYA!

「た、体力はあるけど頑丈じゃないんです。優しく扱ってください」

『た、助けましょうか?』

 GYA? GYAAA!!

「すいま……あっ、お、お願いします!!」


◆   □   ◆   □   ◆


「助けて頂きありがとうございます。あ、申し遅れました。私、無職のノゾムです」

『こ、これはご丁寧に。わたしは……って無職なんですか!? 第四陣のプレイヤーは、職業を最初から選べないので?』


 第四陣?
 誤魔化すにしても、最新が本当に第四陣かどうか分からないし……ここら辺は、それなりに混ぜるか。


「いえ、私のは……趣味ですね。あと、私は第一陣のプレイヤーなので、第四陣のことは分かりません。私は掲示板は観ない派ですので、情報を得る機会も少ないですし……」

『……って、そうなんですか!? も、申し訳ありません!!』

「いえいえ、寧ろお礼を言うのはこちらの方ですし。敬語は不必要ですよ。それより、何か情報を得る手段はありますか?」


 最近の若者は実力主義だそうだし、そもそも良い人っぽいし……敬語じゃなくても問題ないだろう。
 それより今は、本以外で情報を得る手段を訊いておきたい。


『そうですか……最近は、有志の方が新聞を作って売っているそうですし……そちらを買われてみればどうでしょうか?』

「そんなものが今はあるんですね。では、前向きに検討をしておきましょう」

『それって、絶対にしない時のヤツじゃないですか!?』


 おっと、バレてしまった。
 にしても新聞か~。
 生憎俺は新聞も読まない派だからな……ただし、四コマを除くが。


『それにしても、どうしてあんなことになっていたんですか? 第一陣の方でしたら、ゴブリン程度楽勝なのでは? あ、もしかして引退とかしていた方ですか?』

「いえ……貴女に助けて頂けなければ、ただ負けていた非戦闘職ですよ。正確には、無職ですが……」

『そ、そうですね……。あ、申し遅れましたね。わたし、『クラーレ』と申します。一応司教です。ノゾム……さん、パーティーの方はいらっしゃらないのですか? わたしのように非戦闘職なら、こういった場所は危険かと……』


 そう、俺はゴブリンから回復職ヒーラーによって救い出されたのだ。

 俺がHELPコールをすると、その手に持った長杖を振るってゴブリンをポコポコして倒してくれた。
 ……邪神やクソ女神より、貴女様が女神らしいですよ。

 見た目は……いかにも僧侶っぽい格好をしてるな。
 おっとりとした緑色の目が、今も俺の方を優しい感じで見ているや。


「パーティー……ですか。私、人との会話があまり得意で無い方で。自分から話し掛けるのも苦手なんです。ですので、私は一人で次の町へ行こうとしていました」

『そう、なんですか』


 侮蔑……の目では無いな。
 ちょっと可哀想な人を見る目になってるけど、今まで見たことのあるアノ目・・・では無い。
 うん、良い人だな。

 その上、親身に話してくれてるし――。


『あ、フレンドの方ならば、ノゾムさんも話しやすいんじゃないですか?』

「フレンド……ですか。私、フレンドリストには誰の名前も記されていないんです」

『え゛!? ……わたし、フレンドになりましょうか?』

「…………お願いします」


 再び俺のフレンドリストに、人物名が記載されましたとさ(あ、もうフレンドリストの名前でバレるなんてヘマはしないからな)。


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