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偽善者と終焉の島 後篇 八月目
偽善者と封印邪神 その03
しおりを挟む前回のあらすじ
運営神は暴走してた……なら、お前も暴走に含まれるのか?」
『お前じゃ無く、ドミリオンなのだ。われは渡された権能が暴走する前に、それをまた奪われたのだ。故にわれが司る事象は一つ、だからわれは暴走しないのだ』
「長い……リオンだな。なら、リオン以外は全員暴走しているのか?」
『むぅ……まぁ、リオンで良いのだ。正確には分からないが、少なくとも一柱は暴走していないのだ。何でも性質が混同しないものだと言っていたのだ』
……そんなんで暴走しないのかよ。
神って結構、精密機械みたいな存在かと考えていたんだけどな。案外ポンコツ?
確かに目の前にいる少女には、暴走している様子は無い(そもそも、何を以って暴走と定義するか分からないのだけどな)。
「あ、そういえばさっき、奪われたって言ってたよな。なら、奪われたその事象は一体どうなったんだ?」
『そちには既に心当たりがあるのだ。過去の王都で最後に出現した邪神の欠片。アレの本体が持つ事象こそが、われが奪われた権能でもある『支配』の権能なのだ』
「支配って……結構凄い権能を与えられていたんだな、リオンって」
そう褒めると、少しだけ顔を赤くして話を戻してくる。
……うん、事象自体は知っていたぞ。
レイが予習として教えてくれたし。
俺が知らなかったのは、あくまでどっちを奪われたかだけだ。
レイがそれを知っていたかどうかは知らないが、自慢げなリオンの表情を見ると……知らなくて良かったな。
「それで、確か今は『反逆』の権能を持ってるんだよな。レイに聞いたぞ。そもそも、事象を司るってどんな効果があるんだ?」
『そ、そうなのだ。われの持つ『反逆』は、弱きものの力を借りることができる能力なのだ。詳しいことは言えないのだが……』
「うん、大体のことは今の説明だけで理解できた」
というか、<千思万考>で強引に答えを割り出したって言うのかな。
今までに聞いてきたことや読んできたこと――あらゆる情報と今のリオンの話を合わせると……
「弱きものとは、即ち神髄を引き剥がされた神様達のことだろ。で、リオンにはそのお偉い様方の言葉が分かる。だから文字通り『反逆』をした結果……ここにいる、だろ?」
『……微妙に違うのだ』
「…………」
うわ、恥ずかしい。
今の俺のセリフ、絶対|(キリッ)とか入ってたぞ。
それなのに不正解って……あぁ、恥ずかし過ぎる!
『確かに、『反逆』でわれは他の神……シーバラスに敗れた神の意思――それも曖昧なものを聞き取れたのだ。だが、われが本当にここに封印された理由は、『支配』の方にあったのだ。『反逆』で意思を掴み、それを『支配』することで、われはその神の力を十全に扱うことができたのだ。……勿論、そんなつもりは無かったのだ。ただできた、それだけでシーバラスはここにわれを封じたのだ』
「…………」
『支配』って凄いんだな。
そりゃあ奪わるワケだ。
掌握したもの全てを100%の力で扱うことのできる権能。
――それ即ち、万能に届き得る証明だ。
全ての神々を討ち滅ぼし、ソイツらの権能全てを奪う。
そして、それを『支配』の力でコントロールすれば……チートだな。
そして今、その権能は暴走した運営神の元にある。
……おいおい、嫌な予感しかしないよ。
『だがその戒めも、そちによって壊されたのだ。今のわれは自由の身、だけどこのままでは自由になる世界が無くなってしまうのだ』
「…………」
『この世界を、アナむぐっ』
何かを言おうとするリオンの唇を指で塞いで、俺は語る。
「リオンに頼まれなくても、自由になれる場所くらいなら用意するさ。――そう、夢現空間をな」
『違うのだ!』
無理矢理指を退かし、そうツッコむ。
ははは、冗談だって冗談……半分くらい。
世界を救う? そんなの主人公がやることだろ。
俺みたいな偽善的なモブには似合わない仕事だよ。
例え女神様(邪神)に頼まれたとしても、きちんとNOと答える――それが現代の日本人という者だろう。
それから、一気に言葉を綴っていく。
「大体、それをやって俺にどんな利があるって言うんだよ。あ、世界を救うのに利を求めるな、なんて寒いことは言わないでくれよ。一応でも俺は偽善者だ。報酬が無いとやる気にならないクソ野郎だよ。偽善ってのは自分の為にやるものだしな、態々世界の為にご奉仕する? やってられるワケ無いよな。俺は俺だけの世界が創れるんだ、別に世界が滅ぼうと俺は、俺の家族だけは安全に生きていける。それなら別にそれで良いんだ。ノアの箱舟は既に造られているし、そこには乗せるべきものを既に積んである。神が勝手に洪水を起こそうが天罰を下そうが……俺には関係無いことだしな。おっと、話が逸れちまったようだな、つまり俺が言いたいのは――」
面倒なので一区切りしてから……リオンの目線に高さを合わせてから告げる。
「リオン。要するに俺は、対価が欲しいということだ。……と、いうワケでリオンが俺の眷属になるのなら、前向きに検討するぞ」
『…………』
今のリオンの表情を説明しようか?
――物凄く複雑な顔をしてらっしゃる!
俺はその顔を見て、心の中で頭を神鉄鉱石にぶつけ続けた。
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