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偽善者と終焉の島 後篇 八月目

偽善者と『白銀夜龍』 その04

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『では、先手はお主に譲ろう。儂の守りを砕けるか……お手並み拝見じゃ』

「そりゃあありがたい。……なら、早速!」


 幾つかのスキル、魔法、称号の効果を相乗させ、威力を高めて――放つ。

("屠龍之技・槍雷")

 指輪として仕込んでいた"模倣玉"を槍へと変え、銀龍へと投げつける。

 グワァキィィィイン!!

 槍が銀龍の鱗に当たる直前で、金属同士が高速でぶつかった時に生じるような音が、空間内に鳴り響く。

 ビキビキピキッ――バリンッ

 少しの間拮抗をしていたが、雷の力で加速した槍が勝利し、何かを打ち破る。
 そして、その勢いのままに銀龍の鱗へと到達する……が――

 ガキンッ

「マジかよ……」

『……ふむ。儂の鱗に届くとは、中々やるではないか。それに……微々たるものではあるが、確かに傷付いておる。合格じゃ』

「そんなの、一瞬で修復したじゃないか。合格って言わねぇよ」


 鱗に一瞬で弾き返され、俺の手元へと槍は帰還する。
 ……一応、北欧神話の主神が持っていたとされる神器なんだけどなぁ。
 その魔力を以って砕けぬ鎧は無い、とか記されていたんだけど……駄目じゃん。


『では、儂からも行かせてもらおうかのう』


 その一言と共に、銀龍の放つ威圧感が更に高まっていく。
 ……というか、今まで座ってたんだな。
 ただでさえ高さが高層ビル級だったというのに……大阪一高い高層ビルぐらいはあるんじゃないか?

 なんて、意味のない思考をしている最中にも銀龍は威圧感を更に高めていた。


「……来い(――"水龍流し")」


 武器を金箍棒へと変更し、それを肩に担ぐ独特の構えで銀龍の攻撃を待つ。
 ピクッと銀龍の体が動いたかと思うと――

 ガキィイインッ!!

『……うむ、その対応も良しじゃ。正面から迎え撃とうとしたならば、いかに神器とも言えど折れておったぞ』

「耐久度∞を折るのかよ……」


 それは、一瞬の出来事だった。
 高速……いや、光速で俺の元にやって来た銀龍は、その勢いのままに爪を振るった。
 その速さは音速の域を超え、爪の周りに凄まじい衝撃波が発生する程である。

 俺はそれを、真っ向から受けるのでは無く――受け流した。
 『水龍流し』はカウンター用の武技だ。
 攻撃のベクトルを正しく読み取ってそこへ武器を当て、あとは水が流れるように勢いを受け流すだけだ。

 (未来視)等の補助を受け、どうとかその残像を見つけ出し、その攻撃へと対処した。
 が、その一撃は強く重く、今までで最も俺の体を痺れさせる攻撃であった。

 そして、それもまだ銀龍の本気では無い。
 銀龍で本気であったならば、今の攻防で既に神器って壊されてたんじゃないか?
 セリフからして、その気になればできるって感じだしな。

 それでも、闘いはまだまだ続く。


「銀龍、俺に遠慮して単発の攻撃ばっかりしなくてもいいんだぞ。――これは闘いなんだしな。好きなだけ攻撃してくれよ」

『お主……ふむ、良いだろう。じゃが、直ぐにくたばってくれるなよ』


 <物質再成>と<久遠回路>を使い体の調子を元に戻し、再び銀龍と闘っていく。
 ……さあ、生きて帰ろうか。


◆   □   ◆   □   ◆

 メルスと銀龍の闘いは、激化の一途を辿っていた。
 銀龍が爪、翼、尾、牙、息吹を使ってメルスを追い立て、それにメルスが"模倣玉"を変幻自在に作り変えて抗う。
 時には魔法を織り交ぜて闘おうとするメルスだが、今まで放った全てが銀龍の障壁を通過できずに消滅していく。

 銀龍は持ち前の無尽蔵な力を、メルスは眷属達の過保護肉体改造による無限の供給を以って、激しいぶつかり合いを延々と行っていく。

 だが、それらは銀龍が有利のまま行われていた。
 メルスの攻撃は銀龍の鱗を少々傷付ける程度であるが、銀龍の一撃はメルスの体へと深刻なダメージを与え続ける。
 その衝撃は<物質再成>で直ぐに元に戻されるのであるが、それも一瞬という時間を生み出してしまう。

 銀龍はその無限とも言えるような一瞬を突き、何度もメルスへとダメージを与え続けていく。
 (未来視)や(予知眼)、(龍眼)や(天魔眼)といった能力を発動してどうにか対応していくが、それでも攻撃が分かるだけであり、効果的な対策が行えているワケでは無い。

 メルスは再び武器を変えて銀龍へと突貫していく。
 今回持つ武器は雷の力を纏った槌。
 激しい熱を帯びた柄の短いその槌を、メルスは武技を発動させて投げつける。

(――"屠龍之技・廻穿岩槌")

 荒れ狂う雷、燃え滾る炎熱、そして極限まで固められた石の硬さを以って――銀龍へと一撃を放つ。

◆   □   ◆   □   ◆


『……む、今のは効いたぞ。体の底まで響く良い一撃であった』

「…………ハァ、どうも」


 全然勝ち目が見つからない。
 色んな策を使用しているんだけど、どうにもなぁ……。
 普通のプレイヤーなら『負けイベント』って言葉を使って諦めるレベルだな。

 まだ(神氣)を籠めた技は使っていないが、どうせジリ貧になるだけだろう。
 アレは消費が激しすぎて厄介だ。
 『中級神』になったとしても、銀龍はそれ以上の力を有している。

 まだ使って無い力となると……やっぱりアレなのかな?
 あ、別に主人公みたいな展開にはならないからな。
 事前に用意していただけだし。

 心の中で誰に言うでも無くそう説明してから、思考を目まぐるしい程に加速させて銀龍へと再び挑んでいく。


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